みんなでやってみよう。  土屋耕一ゼミ  「ことばの遊び」夏期集中投稿講座
 
  第4回  

こんにちは。

今回も、たくさんの投稿、ありがとうございました。
募集したテーマは
「俳句即製用万能七五フレーズ」。
上にどんな季語を乗せても成立しそうな、
なんとなく意味ありげな「七五」を送ってね、
というものでした。

さぁ、さっそく発表、といきたいのですが、
そのまえに。
たくさんの方が頭をひねった「七五」を読んでいて、
ぼくはひとつ、気づいたことがあります。
ちょっとその話を。

上に、どんな句がきても、
成り立つような「七五」。
それを考えるとき、おもしろい傾向が表れます。
そこにはその人にとっての「普遍性」が
どうしても、ベースになるんですね。
すると、どうなるかというと、
その人にとっての「人生」が
じわっと出てしまうんですよ。

もちろん、違う場合もあるんでしょうけど、
真剣に考えれば考えるほど、その傾向がある。
今回、応募した人、
自分の「七五」を読み直してみてください。
ないですか、そこに、あなたの人生観が。

そういったところも裏テーマとして
お読みいただくとおもしろいかもしれません。
それでは、いただいたなかから、
いくつか掲載いたします。
すべて載せられなくて、すみません。

上にどんな句を置いても
なんとなく成立する
「俳句即製用万能七五フレーズ」、
行ってみましょう。

駅へ往くひと 還るひと
(xissa)
「初春や 駅へ往くひと 還るひと」
「雲行きて 駅へ往くひと 還るひと」
うん、見事にどうとでもなりますね。
一場面の描写に感じられるのに、
じつは時節を問わないというのがポイントです。
夜であれ、朝であれ、
ひとは駅へ往き、駅へ還る。
ふだんは弾かない 曲を弾く
(あかとき)
「夕立や ふだんは弾かない 曲を弾く」
「雪積もり ふだんは弾かない 曲を弾く」
上の句によって、弾かれている楽器が
どうとでも姿を変えるのがおもしろい。
日傘クルリと 白い足
(まちこ)
「雨上がり 日傘クルリと 白い足」
「かき氷 日傘クルリと 白い足」
じつは、これ、夏と昼限定で、
「万能」という意味ではちょっと弱いんですが、
なにしろ、七五の句そのものがいいんです。
色気のある句です。
本を紐解き ウトウトし
(おはつ)
「君帰り 本を紐解き ウトウトし」
「うさぎ年 本を紐解き ウトウトし」
午後であれ、深夜であれ、
本を紐解いていると眠くなる真実。
遠くで子等の 遊ぶ声
(りこ)

「赤とんぼ 遠くで子等の 遊ぶ声」
「寝正月 遠くで子等の 遊ぶ声」
子どもをテーマに選んだ方、
とっても多かったです。
たしかに、いつだろうと、なにがあろうと、
生活の中心には「子等」が。
もうひとつ、子どもの七五、行ってみましょう。

遠くで暮らす 子ら想う
(クルム)
「鰯雲 遠くで暮らす 子ら想う」
「長雨や 遠くで暮らす 子ら想う」
こちらは目が届かないところに住む子が軸。
こういった「子を思う」投稿は多かったです。
わさびのような 恋だった
(綾小路あや)
「ひとり飲む わさびのような 恋だった」
「枝に鳥 わさびのような 恋だった」
刺激があり、涙を誘い、クセになり、
なくてもなんとかなりそうだが、なくてはならない。
そう、恋もわさびも。
わたしはわたし 人は人
(ルリ)
「南風 わたしはわたし 人は人」
「胡麻豆腐 わたしはわたし 人は人」
ああ、これぞまさに万能ですね。
どんなことがあろうとも、
わたしはわたし、人は人。
鏡を覗く 猫と人
(ここ夏)
「大晦日 鏡を覗く 猫と人」
「応接間 鏡を覗く 猫と人」
土屋耕一さんのお手本にも登場しましたが、
猫というのは、意味として万能である。
あくびする犬 あそぶ猫
(海加)
「おぼろ月 あくびする犬 あそぶ猫」
「風鈴や あくびする犬 あそぶ猫」
こちらは猫に犬を加えてみた。
どちらも姿として普遍性がある。
鼻をひくひく 動かして
(げんた)
「塀の上 鼻をひくひく 動かして」
「生きていく 鼻をひくひく 動かして」
こちらはどんな動物か特定しない。
むろん、人間の可能性もある。
曖昧であればあるほど、懐は大きくなる。
ひろげたままの 新聞紙
(おれさな)
「夕暮れに ひろげたままの 新聞紙」
「祖父の部屋 ひろげたままの 新聞紙」
ひろげた人の不在が句の豊かさである。
いやあ、日本語って、おもしろいなあ。
ただひたすらに うどんゆで
(ピピン)
「大空よ ただひたすらに うどんゆで」
「泣きながら ただひたすらに うどんゆで」
これもいいです。
なんというか、「生きていく」って、
ひたすらにうどんをゆでるようなことです。
空腹だけが 物を言い
(つる)
「朝方に 空腹だけが 物を言い」
「喧嘩して 空腹だけが 物を言い」
これはちょっと川柳っぽくなるね。
空腹とは、あらゆる時代の
あらゆる人にとって問題である。
カレーの香り 吠える犬
(ぽるこぽっこ)
「散歩道 カレーの香り 吠える犬」
「窓ガラス カレーの香り 吠える犬」
名詞の連続する七五にはつい名詞を載せたくなる。
匂いと音の七五だから、風景を添えて。
柱にわが身 もたせかけ
(おなかすいた)
「夕涼み 柱にわが身 もたせかけ」
「悲しくて 柱にわが身 もたせかけ」
柱の確かさと我が身の不確かさの両方を詠む。
情景は不安定なようで、安定するようで。
掃き清めたる 玄関に
(ぬばたまの)
「蝉の声 掃き清めたる 玄関に」
「百合の花 掃き清めたる 玄関に」
掃き清められた玄関には
あらゆる準備があるとは言えまいか。
空は晴れたが 書に耽る
(いくや)
「三が日 空は晴れたが 書に耽る」
「旅の宿 空は晴れたが 書に耽る」
広さと狭さをあわせ持つ七五。
うれしい事象をふたつ重ねるが、
並列にせず段をつけているところがミソ。
ひとつ残った 串団子
(小夜子)
「夜は更けて ひとつ残った 串団子」
「台所 ひとつ残った 串団子」
うれしいようで、わびしいようで。
上の句にいかなる感情を置いても成立。
それはさておき 行きますか
(からくりこ)
「蛍舞う それはさておき 行きますか」
「大団円 それはさておき 行きますか」
このあたりからは、どっちかというと、
こう、実もフタもないような「万能」を。
「大喧嘩 それはさておき 行きますか」
「接吻し それはさておき 行きますか」
いやぁ、ほんと、万能だなこりゃ。
あの娘は何を してるかな
(端午の団子)
「村まつり あの娘は何を してるかな」
「二日酔い あの娘は何を してるかな」
片思いなのか、失恋なのか。
あの娘を思う心情はまさに普遍的。
どうとでもなるとはこのことである。
「朝マック あの娘は何を してるかな」
「甲子園 あの娘は何を してるかな」
「コオロギよ あの娘は何を してるかな」
君が居ないと つまらない
(蛙乃助)
「桜咲く 君が居ないと つまらない」
「潮干狩り 君が居ないと つまらない」
まさにもう、なんでもアリである。
「動物園 君が居ないと つまらない」
「墓参り 君が居ないと つまらない」
「富士登山 君が居ないと つまらない」
「バルセロナ 君が居ないと つまらない」
「エルドラド 君が居ないと つまらない」
「不老不死 君が居ないと つまらない」
「我勝てり 君が居ないと つまらない」
「ひるごはん 君が居ないと つまらない」
いやぁ、ほんと、キリがない。
つぎで最後にしましょう。
わたしはひとり 俳句詠む
(ぐぅ)
「鳥は行く わたしはひとり 俳句詠む」
「初雪や わたしはひとり 俳句詠む」
なにしろ、俳句を考えている人が
俳句を考えているような場面を詠むには
万能の七五であるといえる。
「もやもやと わたしはひとり 俳句詠む」
「テレビ消し わたしはひとり 俳句詠む」
「腹減った わたしはひとり 俳句詠む」
「腹いっぱい わたしはひとり 俳句詠む」
「アイラブユー わたしはひとり 俳句詠む」
「てなわけで わたしはひとり 俳句詠む」
「俳句詠む わたしはひとり 俳句詠む」

このあたりでおしまいです。
みなさん、どうもありがとうございました。
じゃ、つぎの課題の発表です。

  募集  

さて、次回の課題を最後にしましょう。
最終授業のつもりでご応募ください。

それでは、テキスト、
『土屋耕一のことばの遊び場。』の
『回文の愉しみ』のほうを出してください。
そうです、和田誠さんが編集したほうの本です。

その162ページに、「蠅句」という章があります。
あるいは、179ページには「キングコン句」が。

このふたつは、題材は違うけれども構造は一緒、
いってみれば同じ種類の「遊び」です。

ご説明しましょう。

「蠅句」は映画『ザ・フライ』をテーマに、
「キングコン句」のほうは、
映画『キングコング』をテーマにしています。
どちらも遊びのルールは共通です。

「映画の物語を、五七五の俳句で追いかけていく」。
これだけです。

例を挙げてみましょう。
まず、映画『ザ・フライ』。
物語を簡単に説明すると、この作品は
「人が徐々に蠅になっていく」という恐怖映画です。
土屋さんはその「蠅になっていくさま」を
主人公目線で五七五の句に詠んでいます。
というとなんだか真面目そうに聞こえますが、
ま、そういう遊びです。
だって、ふつうしないですよ、こんなこと。

主人公が人間から徐々に蠅になっていく感じ、
土屋さんの「蠅句」でおたのしみください。

 飛べと誘う飛ぶなと叫ぶ草いきれ

 短夜の右足で掻く左足

 虫の声手と足細くなりにけり

 夏痩せて瞳を閉じることもなし

 新涼のミルクにのばす黒い舌

──とまあ、こんな感じ。
わあ、なんだか、怖いですね。
ちなみに「蠅句」というのは
「俳句」とかけているんですよ。

一方「キングコン句」はというと、こんな感じ。
こちらも、キングコング目線ですから
もの悲しい句が多い。
コングがニューヨークで暴れ、
エンパイア・ステート・ビルをのぼっていく様子を
五七五でご堪能ください。

 踏みつぶすものやわらかき裸足かな

 虚空から人間(ヒト)を見おろす暑さかな

 登っても登ってもまだ夜暑し

 香水の匂う窓べを過ぎにけり

 金髪を見ているしきりに喉かわく

──いかがですか?
遊びの趣旨がおわかりになりましたか?

さぁ、それでは、みなさん、最後の課題です。
ある映画の物語を、五七五で追いかけてください。
どの場面でもかまいません。
今回は特別に、目線も自由とします。
物語のなかの、誰の目線でもかまいません。

え? なんの映画かって?

そうですよね、それがこの遊びの肝心なところ。
観てない人は遊べませんから、
できるだけ多くのヒトが観ているものにしたい。
どの映画がいいかと考えて、選んだのはこちらです。

『となりのトトロ』

さあ、これなら観てる人も多いでしょう。
観てない人はこの機会に観てください。
おもしろいから。
あと、お父さんの声を演じてる人が知ってる人だから。

コーナーのタイトルは
「蠅句」「キングコン句」にならって
こうすることにしました。

「句サカベです」

くり返します。
『となりのトトロ』の物語を五七五で表してください。
どこの場面でも、かまいません。
誰目線でも、かまいません。
選ぶときのガイドとして、
「どの場面を誰の目線で詠んだか」
メモ程度でかまいませんから
書いておいていただけると助かります。
あ、あと、ペンネームというかハンドルネームというか
俳号も添えておいてくださいね。

例によって締切は曖昧です。
ほどよく集まったころ、集めて選んで掲載します。
それでは、みなさんの投稿をお待ちしています!

2013-09-10-TUE
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ようやくお目にかかることができました。『アンパンマン』の生みの親である、やなせたかしさん、94歳の登場です!