OK! Yeah! ─── 『風が吹けば、桶屋が儲かる』
No.19
風が吹けば、
ベランダから季節外れの風鈴が聞こえる。
どうにかならないかしらあの音、非常識にもほどがあるわ。
と、隣りに住むOL芳恵は苛立ちを露わにする。
それもそのはず、世間は師走。
風鈴の音は秋口から耳障りなものとなっていた。
堪忍袋の緒が切れた芳恵は、管理人に連絡する。
連絡を受けた管理人は合鍵を持って隣の部屋へ向かう。
インターホンを鳴らし住人の名を呼ぶが、応答はない。
不吉な気配を感じながらも、恐る恐る合鍵を鍵穴に差し込む。
扉を開けた途端、ただならぬ異臭が襲う。
半ば白骨化した遺体が浴槽から見つかる。
管理人は慌てて警察に通報し、現場は騒然となる。
事件はその日のうちに、大々的に報じられる。
事件の詳細が次第に明らかにされる。
遺体が浴槽で見つかったことに、芳恵はショックを受ける。
とてもじゃないが、自宅の浴槽を使う気にはなれない。
芳恵はその日から近くの銭湯に通うことにする。
容疑者は確定したものの捜査は難航し、
全国に手配書が配られる。
芳恵は銭湯の脱衣場で、その若い女性の手配書を目にする。
それにしても…と芳恵は思う。
なんて美人だろう……まるでモデルさんみたい。
そう感じたのは芳恵ばかりではない。
世間は美貌の容疑者に対して敏感に反応する。
メディアは容疑者の身元を連日取り上げ、
ネットでは「美し過ぎる容疑者」と話題になる。
不謹慎なブームは更に加熱する。
銭湯に貼られた手配書は次々と盗まれ、
レアアイテムとして高値で取引される始末。
下世話な男たちが一斉に銭湯へ通い出す。
足りない桶の発注が急増する。
桶屋が儲かる。  天久聖一(漫画家・作家・脚本家・アニメーター)
 
2013-05-20-MON
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illustration:Toshiyuki Fukuda (c) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN