2013年あんこの旅 とらや見学。
 
第2回 御殿場工場にて。(職人さんと大統領)

とらやのみなさんにはじめてお会いしてから2週間後、
日本国大統領こと糸井重里をはじめ、
料理家のなかしましほさん、
そして「ほぼ日」あんこチームの一行は、
車に乗って富士山のふもとへと向かいました。
まさに、「2013年あんこの旅」。
たどりついたのは、「とらや」さんの御殿場工場です。


▲霧の中に浮かび上がる、うつくしい3文字。

移動中もずっとそうでしたが、
到着してから大統領の笑顔は、より一層。
もうすぐ「とらや」のあんこ誕生に立ち会える!


▲右の笑顔は「ほぼ日」アルバイトのじゅんぺい。

出迎えてくださったのは、
先日もお会いした中田洋子さんと本田順子さんです。


▲左が企画課主任の中田さん、右が製造課主事の本田さん。

広報課課長・松平斉忠さんのご案内で、
まずはホールのような広い場所へと向かいます。


▲大統領のとなりには、なかしましほさん。足取りも軽く。

ホールに入ると、前面のスクリーンに
こんなうれしいメッセージがありました。

一行は席につき、
まずは「とらや」さんの歴史などを学びます。


▲手元にはパンフレットと案内冊子が。

まず教えていただいたのは、経営理念。
それはとても、シンプルで力強いものでした。


▲おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く

続いて「とらや」の歴史です。
創業は室町時代後期。
‥‥さらっと書きましたが、室町時代って!
約500年前‥‥。
1520年代の京都で創業。
年号については、はっきりとした記録はなく、
後陽成天皇(1586〜1611)の御在位中より
御所の御用を勤めた記録があり、
そこから2世代さかのぼった頃を推定しているそうです。

そしてご覧ください、これが「菓子見本帳」です。


▲江戸時代に記されたもの。

この前の打ち合わせのときに、
染谷さんがおっしゃっていた「見本帳」がこれなんですね。

次にこちら、こちらは江戸時代に、
御所へお菓子を納めるときに使っていた「通い箱」です。

箱には、おなじみのとらの絵が。
これはいまも「とらや」のデザインに生きています。

「少し甘く、少し硬く、後味良く。」
それが「とらや」の味の特徴なのだそうです。
なるほど。
食べた人ならわかるはず。
ほんとうに、なるほどです。

真剣に聞き入る、ふたり。


スクリーンで見せていただく授業が終わりました。
さあ、いよいよ工場見学です。

ここで、ひとりの男性がさっそうと登場。

本日のご案内をしてくださる、
上級技術者・鵜澤幸男(うざわゆきお)さんです。
あん製造のエキスパート・鵜澤さんは、
3月3日に気仙沼で開催されるワークショップでも
直接ご指導をしてくださる方です。

ごあいさつもそこそこに、
あんこが生まれる場所へとわれわれをいざなう鵜澤さん。

‥‥ついに、たどり着きました。
「製餡(せいあん)ライン」。
あんこが製造される工場のラインがガラス越しに見えます。

「わ‥‥わぁぁ‥‥」
「あんこがどんどんできている‥‥」

ちなみに御殿場工場では、
製産ラインを撮影することができませんでした。
あんこができる様子は、
この先の連載でしっかりお伝えしますのでおたのしみに。

それにしてもこのふたり‥‥。
ウインドウ越しにキラッキラの宝石を見つめているようです。

真剣なまなざしで質問をするふたり。

この、真剣さ。

こちらの女性の、本気さ。

真面目な視線で率直な疑問を投げかければ‥‥

エキスパートも本気でそれに応えてくれます。

とはいえやはり、
見つめるものは甘〜いあんこ。

基本的には、ずーっと顔がほころびっぱなし。

最高水準の技術と、
たのしさを同時に体感できる見学です。

原材料である小豆や砂糖の勉強もできました。

この大きなしゃもじは、「えんま」と呼ばれています。

なるほど、えんま大王の「えんま」。
ということは、小豆を煮るのは地獄の釜?
かなり激しく、ぐつぐつ煮えるということなのでしょう。
昔の工場ではこういった大釜であんこを炊いていたそうです。


▲なかしまさんも、「えんま」を体験。

工場内に立派な神棚がありました。

大統領は静かに、二礼、二拍手、一礼。
お賽銭を入れさせていただき、
あんこの神へと心を向けていました。



『皆が上手に小豆を煮ますように‥‥』

「製餡ライン」はいつまでだって見ていられますが‥‥

予定の時間になりました。
一行は、広い休憩室に案内していただきました。


▲休憩室の窓からは、うるわしの3文字が見えます。

休憩室には、われわれのために、
ふたつのお菓子が用意されていました。

ひとつはこちら。
御殿場限定の和菓子「四季の富士」です。


▲季節ごとに表情を変える富士山を題材に、春夏秋冬の色があります。

そして、こちら。
できたての「生あん」です。


▲白小豆からできた生菓子専用のあん。

いただきました。



「これからお菓子になるっていう雰囲気がすごくありますね」



「おいしいです。こんなできたてを食べられるなんて‥‥」

実はこの日、糸井重里は、
あまりお話をしすぎないように気をつけていました。
「ほら、質問とかしすぎるとさ、
 ワークショップのときに聞くことなくなっちゃうから」

なのですが‥‥
目の前にいらっしゃるのは
「とらや」のあん作りのエキスパート。

前回同様、和菓子のプロたちが並んでいます。

あんこへの好奇心・探究心を抑えるのは難しく‥‥。

気がつけば、たくさんお話をうかがっていました。

その一部をお届けいたしましょう。
「一部」とはいえそれなりに長いので、
今回と次回の2回にわけて。

糸井 最初にうかがった「とらや」さんの経営理念、
「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」。
あのシンプルさはすごいですね。
ぼくもね、ああいうことを言ってみたい(笑)。
鵜澤さん ありがとうございます。
漠然とした言葉でもありますから、
作る側の立場としては、
ほんとのおいしさってなんだろうっていうのは
ずっと考えていることなんです。

糸井 見学をさせていただいて感じたのは、
やはり原材料はものすごく大事にされてますよね。
鵜澤さん おっしゃるとおりです、まずは原材料。
気候によって左右されるものですから、
その左右されたものをどう使うかについて
常に考えていないと、おいしいお菓子はできません。
加工するときには、そうですね、
「感覚」でしょうか。
糖度計で数値がこうだから大丈夫じゃなくて、
自分の五感で正しく感じとる。
それがつまりは、心を込めるということかなと、
自分なりには解釈しています。

糸井 なるほど(深くうなずく)。
鵜澤さん インターネットを読ませていただいたのですが、
糸井さんは‥‥
その‥‥大統領は‥‥
一同 (笑)
糸井 すみません(笑)、
あんこについて好き勝手しゃべってます。
大丈夫でしたか、あれは。

鵜澤さん たのしく読ませていただきました。
いつも小倉山に行かれているのですか?
糸井 はい、お祈りをしています。
ほんとなんです。
鵜澤さん 私もそこに行ったことはあるんですが、
夕方だったのでしまっていたんですよ。
糸井 そうですか、やっぱり行こうとしますよね、
あんこのことを考える人は(笑)。
鵜澤さん ええ(笑)。
糸井 歴史のお話をすこしうかがいたいのですが、
いただいた資料にも書いてあった、
百貨店に進出されたのは、1960‥‥何年でしたっけ?
鵜澤さん 1962年ですね。
池袋の東武百貨店に出店しました。
糸井 そこがものすごく大きい事件ですよね。
鵜澤さん そうですね、製造する数が
大きく増えていくのもその時期からです。
糸井 60年代の後半くらいに、
ホステスさんとかね、
こう、きれいな女性が、
「とらや」の袋を持って電車に乗ってるのが
すごいかっこいい時代があったんですよ。
髪をアップにした和服のお姉さんが、
「とらや」の袋持ってるっていうのが、
ばーっと流行った。
ほぼ日 へええーー。
糸井 すごかったんだから。
男の子たちはVANの袋を持ってるのが
かっこいい時代があったけど、
きれいなかっこをしたお姉さんたちは
みんな「とらや」の袋を持っていたんです。

ほぼ日 へええええーーー。
鵜澤さん 私が入社したのが昭和49年でした。
子どものころにラジオで
「とらやの」コマーシャルを聞いていて‥‥
「しみじみと、心のかよう贈りもの」
糸井 はい、はい。
鵜澤さん まさかその会社に
自分が入るとは思わなかったです(笑)。
糸井 70年代くらいからの勢いもすごかったですよね。
中田さん おっしゃるように
そのころから機械化がはじまってお客様も増え、
おかげさまで「とらや」は今日まで続いてきました。
「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」
この理念をほんとうのところで実践できているか
ということについては常に考えさせられています。
そんななかで「ほぼ日」のみなさんは、
お出ししたお菓子を
「おいしい!」と声を出してよろこんでくださる。
目の前で「おいしい!」と。
なんだか‥‥はっと気づいたことがありました。
糸井 もう、うちはよろこぶのが大得意ですから。
その役にもっと、「ぼくを」使ってください。
一同 (笑)
糸井 甘いものについてはね、もう、
前向きに行きますよぉ。
甘いものって、みんなあんまり語らないんですよね。
鵜澤さん 一般的には、そうかもしれないですね。
糸井 ウイスキーとかだったらね、
「やっぱりシングルモルトは」とか言うけど、
「この小豆は北海道ですか」みたいなのは、ねえ。
一同 (笑)
糸井 いっぱい食べてもホメられないし。
お酒だったら、
「あの人は酒豪だ」とか一目置かれたりするのに。
甘いもの食べてもホメられないんですよ。
それはどうかと思うでしょ。
ですからこれからは、
ぼくが、ちょっとこう、大統領として‥‥
一同 (笑)
ほぼ日 よ。
ほぼ日 よ。
ほぼ日 よ、大統領。
糸井 がんばります。

(よ、大統領。
 というわけで、この場のトークは後半に続きます)
 
2013-02-15-FRI
 
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