先週、ボクの家の真横のアパルトマンで
火事があったんだ。
なんだか変な匂いを感じて
バルコニーに出てみると、
お隣の建物のいちばん下の階からモクモク煙が。
煙はどんどん黒くなり、モクモクが増えていく。

パリのアパルトマン、
目隠し用のカーテンをしていない家が多いから、
部屋の中が丸見えなところが
けっこうあるのだけど、
上の方の階の人はみんな何事もないように
テレビを見たり、料理をしたりしている。

▲下の階からモクモク煙が。どんどんひどくなっていっても
のんびり上から眺める人たちが多い‥‥。

ケムくささに気づいた人たちが
ちょこちょこバルコニーに出てきて、
どこが火事なんだろうという
悠長な感じで眺めているので、
私たちはこっち側から必死に、

「あなたの家の下ですよ！！
早く逃げた方がいいですよ！！」

って大きなジェスチャーと共に
教えてあげるのだけど、だ〜れも慌てない。

「あ〜オッケーオッケー。了解〜。」

って感じで家の中に戻る、
もしくは上から観察し続ける、
という感じです。

その間にも煙のモクモク度は増し、
明らかにケムくささが増し、
対岸のボクの家ですら
口を押さえないと
息ができないっていうのに‥‥。
確かに、さっき
ポンピエ（消防）の音がしたから、
多分すでに消防士さんは
駆けつけているのだろう。
でも、モクモク煙、危険だから
普通一応、避難するよね‥‥。

▲ポンピエだけは、絶大なる信頼を得ているフランス。
この人たちが到着した時点で、もう安心ってなるのか？！

「普段から訓練してないから、
逃げないんじゃない？」

といううちの旦那さま。
そういえば、フランスには
防災訓練ってものがないのか？！
地震がないから？ないの？？
いやでも、火事はこうやってあるでしょ。
じゃあ火災訓練はするでしょ。

ってことで、
上はすでに社会人になって
30歳近くになる息子たちを育て上げた人から、
下は幼稚園に子供たちを通わせる人まで、
パリ市内も郊外も、
色々な学校のことを聞いてみたら、
どうやら火災訓練はあるようです。
よかった‥‥。

ただ、
「毎年あるらしい」
「たまにあるけど消防の人はこないみたい」
「中学に通う娘が
今まで２回やったことがあると言っている」
「消防士がきたって言っている」etc...
かなり内容はまちまちでした。

火災訓練は、特に親に知らされることもなく、
勝手に学校でやっているという感じで、
やっているのかやっていないのか、
知らない人がほとんどだったよ。
今回ボクたちが質問をしたので
子供たちに聞いて、
初めてやってるのを知った
という親が多かったよ！

その一方、火災訓練よりも認知度が高く、
確実にどこの学校もやっているらしい訓練。
それがテロ的な事件に対するもの。
これは親に学校からの事前連絡がくるので
みな把握していました。

「テロ」とか「テロリスト」という言葉は
子供たちに対してあまりにも刺激的なので、
泥棒や悪い人、
つまり不審者が学校に入ってきた、
という想定で隠れたり逃げたりしようと
訓練したりポリスの話を聞いたりするそうです。

これはやはりフランスでテロが起こってから
定期的にやるようになっているようですが、
1993年に元サルコジ大統領が市長をしていた
パリのお隣ヌイイー市の幼稚園で起きた
立てこもり事件などもあり、
最近のテロだけを
想定したものでもないそうです。

▲どんな訓練するのかなあ‥‥、みんな大丈夫かなあ‥‥、
と小さな子供たちの反応がちょっと心配。

幼稚園や小学校。
地震の訓練はない代わりに、
テロを想定した訓練。
ところ変われば様々な当たり前が違う。
こんなところにも現れているんだね。

そしてまさにボクの弟、
プチモンスターが通う学校で、
不審者侵入を想定した訓練を行います、
というお知らせが、
先週ノートに貼られてきたんだよね。
さてさて、どんなことをするんだろう。

というわけで、お隣の建物の火事騒ぎで
なぜ、誰も逃げようとしないのか
という疑問は解決せずじまいなんだけど‥‥。
フランスで絶大なる信頼を得ている
ポンピエ（消防士）たちが到着した時点で、
もう安心って思っているからじゃないか
というのが
ボクたちの共通した分析なのでした‥‥。

▲ボクはこの、いつでも賑やかなプチモンスターから
逃げる訓練をしています‥‥。

※この連載を再編集し、
　書き下ろしも入れて新潮文庫になりました。
　こちらをぜひご覧ください！（2015年8月出版）