怪・霊・神様の絵を描く金子富之さん。

  • 炎の擁護者(ほのおのようごしゃ)制作風景
  • 2009-2013
  • 岩絵具、墨、アクリル、箔、薄美濃紙
  • 230X1350cm
  • ©KANEKO Tomiyuki Courtesy Mizuma Art Gallery

東北の山深い「限界集落」に建つ
古めかしい日本家屋で、
妖怪・精霊・神様などの絵を描く画家、
金子富之さん。
恐怖、畏怖、荘厳、神秘、不気味‥‥。
おどろおどろしさと、神々しさと。
目を逸らすことができないほどの、
妖しい魅力に誘い込まれるようにして、
金子さんの世界を覗いてきました。
(帰ってこれました)
担当は「ほぼ日」奥野です。ぜひ。

第1回

妖怪の絵に、救われた。

──

金沢の21世紀美術館へ
池田学さんの展覧会を見に行ったとき、
ミヅマアートギャラリー代表の
三潴末雄さんが、たまたまいらして、
「池田学、すばらしいでしょう。
 次は、金子富之だよ」
って、おっしゃっていたんです。

金子

本当ですか。うれしいです。

──

そのときは、金子さんのことを知らず、
家に帰って調べてみたら、
妖怪とか精霊とか神様を描いた作品に、
一気に引きずり込まれてしまって。

金子

ありがとうございます(笑)。

  • 白面金毛九尾(はくめんきんもうきゅうび)
  • 2005
  • 岩絵具、透明水彩、アクリル、ペン、箔、洋紙、古書
  • 190X420cm
  • ©KANEKO Tomiyuki Courtesy Mizuma Art Gallery
──

しかも、山形県にある「限界集落」の、
いかにも何か出そうな(笑)、
古い日本家屋で制作されていると聞き、
さらに興味が湧いてきました。

金子

はい、ここに住んで、制作活動しています。

──

もともとは、ご出身は別なんですよね。

金子

ええ、予備校までは埼玉県にいました。

大学でこっち‥‥東北に来たんです。
描いていたのも、
当時はもっぱら風景画だったんです。

──

へえ、そうなんですか。妖怪じゃなく。

金子

でも、かなり無理して描いていたので、
身体を壊してしまって。

──

無理?

金子

ええ、すごく自分に負荷をかけていたので、
健康を害してしまったんです。

そのときに、自分が本当に描きたいものを
描いてないから苦しいんだ、
描きたいものを描かなきゃダメだと思って、
妖怪や神様を描きはじめたんです。

──

で、そちら方面で大爆発してしまった。

金子

そうかなぁ、はい(笑)。

──

苦手なことを、
歯を食いしばってまでがんばるのって、
大変ですもんね。

金子

やはり自分に合ってることをやるのが、
いちばん、
自分の能力を発揮できるということを
痛感しました。

本当に興味のあるモチーフ、
本気で追求していきたいテーマ‥‥。

──

それが、妖怪・精霊・神様だったと。

風景を描いていたころは、
風景が合ってると思ってたんですか。

金子

そうですね‥‥日本画だったんですが、
そのときから、
風景をスケッチするにしても、
神社だったり、
そういう場所ばっかり描いてたんです。

なので、風景を描いてはいたんですが、
やっぱり意識は、当時から、
目に見えない世界へ向いていたんです。

──

でも、こう見ると、
風景画も素敵だなあって思うのですが。

何が辛かったんでしょうね。

金子

限界を感じたんです。

──

自分に?

金子

はい。

本当に毎日ギリギリまでやっていて、
これ以上は無理というところまで
絵に向かっていたのですが、
「これだけやっても、
 これくらいしか描けないのか」と。

──

そうなんですか。
でも、それほどまでにストイックに。

金子

かなり自分に厳しくやっていました。

で、厳しくすればいいってわけでも
ないみたいで、
自分に厳しくしすぎたら、
ただ病気になっただけでした(笑)。

──

なるほど‥‥。

金子

たぶん、そこで一回「壊れた」んです。

──

心身ともに。

金子

自分を取り巻く世界が、
八方ふさがりになってるような感じで、
閉じてしまったんです。

それが、1999年くらいのことでした。

──

今から20年くらい前。

金子

当時は、絵に対しても自分に対しても、
可能性を感じられなくなって、
世界が、すっかりすぼまってしまって。

──

ええ。

金子

そこで心機一転フィールドへ出ようと、
大学のスケッチ旅行で
チベットへ向かったんです。

で、飛行機に乗っていたら‥‥
夜明けを迎えて、
真横から、朝日が差してきたんですよ。

──

はい。

金子

不思議なことに、その光を浴びた瞬間、
「あ、やっていけるかもしれない」
「自分は大丈夫かもしれない」
って、思ったんです。

なんの根拠もなかったんですけど‥‥。

──

太陽って、すごいものですね‥‥。
で、そのあと、今みたいな方向に。

金子

はい。

──

それまでにも、
妖怪の絵とかって描いていたんですか。

金子

描いてませんでした。好きでしたけど。

──

風景をスッパリやめて、
妖怪や精霊や神様を描き出したら‥‥、
いかがでしたか。

金子

これだと思いました。これしかないと。
感情が乗ったんですね。絵に、感情が。

で、絵に感情が乗ってくると、
自分自身が絵と共鳴して、
絵と、シンクロしはじめたんです。

──

おお。

金子

そして、それまでに感じたことのない
カタルシスを感じて‥‥。

──

わあ。

金子

救われたと思いました。

──

妖怪とか、精霊とか、神様の絵に。

金子

はい。

  • レッドバナスパティラージャ
  • 2012
  • 岩絵具、透明水彩、ペン、箔、和紙
  • 227X298cm
  • ©KANEKO Tomiyuki Courtesy Mizuma Art Gallery

<つづきます>

山形ビエンナーレ2018に、
金子富之さんの
「首かじり」が出ます‥‥。

2018年9月1日(土)~24日(月・祝)の期間中の
<金・土・日・祝日>に開催される
「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」に
金子富之さんの「首かじり」が展示されます。
(作品の展示場所は上山市の「蟹仙洞」とのこと)
 ほら、首をかじってるんです‥‥。お、恐ろしい‥‥。
恐ろしいけど‥‥見てみたい。そんな人は、ぜひ。

なお、その他の参加者の顔ぶれを見ると、
荒井良二さんが芸術監督をつとめてらっしゃったり、
ミロコマチコさんの展示や、
皆川明さんが出演するトークイベントなどなど、
「ほぼ日」でもおなじみのみなさんが
いろんなかたちで、関わってらっしゃるようですよ。
夏の終わりのアートのお祭り、参加してみては。
詳しいことは、公式サイトでチェックを。

みちのおくの芸術祭
山形ビエンナーレ2018

  • 会 期
    2018年9月1日(土)~9月24日(月・祝)の間の週末(金・土・日・祝日)のみ開催。
    ※開館時間・休館日などは施設による
  • 主な会場
    山形県郷土館「文翔館」、とんがりビル、郁文堂書店、BOTA coffee&BOTA theater、gura、
    長門屋ひなた蔵・塗蔵、東北芸術工科大学キャンパス
  • 芸術監督
    荒井良二
  • ホームページ
    https://biennale.tuad.ac.jp