東京オリンピック・パラリンピックの
全競技内容をわかりやすく絵で伝える
「スポーツピクトグラム」を手がけた
グラフィックデザイナーの廣村正彰さんと、
組織委員会デザイン担当部長の吉原潤さんに
お話をうかがいました。
言語を問わず世界中の誰でもが理解できるよう、
シンプルでわかりやすく、
なおかつ日本らしさも表現された廣村さん。
1964年の東京オリンピックからはじまった
スポーツピクトグラムの歴史を紐解きながら、
解説をしていただきました。

5スポーツピクトグラムとは
何ぞや。

乗組員B
今回の実作業としては、
何人ぐらいのチームだったんですか?
廣村
ぼくと、組織委員会と電通さんという
チーム体制で作っていましたが、
途中出入りしていた人はいましたが
実作業は10人ぐらいでしょうかね。
乗組員A
組織委員会である吉原さんとしては、
デザインの実地とはまた違う
ご苦労があったのではないでしょうか。
吉原
そうですね。
IOC(国際オリンピック委員会)ですとか、
IPC(国際パラリンピック委員会)ですとか、
競技団体との調整があるので、
今大会のスポーツピクトグラムを
どういうコンセプトで作っているか、
全体のストーリーをお話ししていくのが役目でした。
いろいろお知恵を借りながら
ご説明させていただきましたね。
ピクトグラムとはミニマムで作っていくもので、
シンプルに仕上げていきたいとお伝えして、
ご理解をいただかないといけませんでした。
細かなディテールまでは手が入れられないことを
丁寧に説明していくことには時間がかかりました。
廣村
ピクトグラムというものは、
できてしまえば「こんな感じだよね」と
思うかもしれないけれど、
まだできていないときにはみんな、
個人個人の想いを持っているので、
いろんな意見を言われるんですよ。
デザイナーは大きく俯瞰して見ないといけないので、
まとめていくための作業に時間を使いました。
そのご理解をいただくために、すごくお願いをして。
乗組員B
吉原さんは、いつ頃から
組織委員会に加わってるんですか?
吉原
この7月で2年になるので、
ピクトグラムの作業がはじまったのと、
同じようなタイミングですね。
私は電通のクリエイティブ局で
アートディレクターをしていたのですが、
オリンピックの仕事をやってみないか?
と急に言われまして。
乗組員B
あ、そうなんですか。
組織委員会に出向になる前、
アートディレクターとしては
どういったお仕事をされていたのでしょうか。
吉原
広告やパッケージ、ロゴ、
ブランディングの作業などをしていました。
内々にお話があったのは2年前、
ゴールデンウィークが明けてすぐでしたね。
招集されていく感じがしました。
廣村
吉原さんは今、
デザインに関するセクションの
いろんなことに関わっているんでしょ?
吉原
組織委員会ではマーケティング局の
ブランド開発部に所属していまして、
デザインに関しては全体を見る立場ではありますね。
廣村
競技によって色をわけたりとか、
モニターで映ったときにどう見えるかとか、
そういうことを担当されているんですよ。
それはそれで大変な作業だよなあ。
吉原
会場の装飾については、
華やかな空間の中で競技されているのを、
みなさんも過去の大会で
よく目にしていらっしゃると思います。
まさに今、そういう設計をしている段階ですね。
乗組員A
壁ひとつのデザインで
全然違って見えますもんね。
吉原
アスリートのために、
一番いい舞台を作ることを考えています。
たとえば、壁や照明によって、
ボールが見えにくくならないようにするとか、
そういう影響も考慮しながら設計しています。
あとは、アスリートのパフォーマンスを
一番いい場所で撮れるように、
カメラ位置を気にしたりもしますね。
乗組員A
おもしろいです。
廣村
中でやっているとたのしいでしょ。
次はこんなのを発表するんだぞって。
吉原
たのしいばかりでもないですね、やっぱり。
ずいぶん大きな仕事を
任されちゃっているなと
プレッシャーを感じています。
最初は今よりもビビっていて、
「俺、大丈夫かな、こんなのやってて」みたいな。
さすがにもう、落ち着いてきましたけど。
乗組員B
廣村さんがお作りになったピクトグラムって、
会場で見かける機会が多いと思いますが、
今後、どういう使われ方をしていくのでしょうか。
廣村
会場ではわりと多く見ることになるでしょうね。
チケット、カタログ、ウェブサイト、
それから、いろんなメディアで
選手といっしょに紹介されたりとか。
あとは公式グッズとかですね。
乗組員A
スポーツピクトグラムのデザインについては
一段落していらっしゃると思うんですけども、
また派生するお仕事もあるのでしょうか。
廣村
そうですね。
全体としてどう使っていくのか、
展開の方法を考えていくことになると思います。
オリンピック、個人としてもたのしみですよ。
乗組員A
廣村さんの作るピクトグラムは、
1964年大会をベースにしたと伺いましたが、
2020年大会での新競技に関しては、
まったく新しいデザインになりますよね。
廣村
そうなりますね。
たとえば「スポーツクライミング」の
壁をどう表現するのか、
ずっと議論しながらやっていましたね。
乗組員B
廣村さんのデザインが、
今後の大会の模範となるわけですもんね。
廣村
2020東京大会では一度原点に帰って、
「スポーツピクトグラムとは何ぞや」
みたいなデザインにすることが
日本らしさにつながると思ったんです。
これがニュースタンダードになって、
次の大会の参考になれば嬉しいです。
乗組員A
それほどナショナルカラーを出さずに、
シンプルに競技に寄るほうが、
むしろ日本らしい気がしますね。
廣村
「日本らしさ」ということで考えたときに、
たとえば、アニメでもよかったんですよ。
それが日本の「らしさ」で、
世界中のみんながそう思ってくれるならね。
だけども、そういう表層的な、
ある一部分的な話ではないだろうと。
もう少し日本人が本質として持っているような、
「清らさ(きよらさ)」があるじゃないですか。
多く持たないほうが美徳であるとか、
武士道にも通じるところですよね。
最近でいうとコンパクトカルチャーというのが、
日本を代表するような考え方で、
それはもう歴史的にも言えることです。
乗組員B
島国ならではの発想ですね。
廣村
日本って、国土の約7割が山で
人間が生活できる範囲が少ないんです。
その狭い中にひしめいて生活してきたからこそ、
生み出されたアイディアがいっぱいあります。
それが日本ならではの、
コンパクトに暮らすことだと思うんですよね。
これを「日本らしさ」と捉えたほうが、
ブレのない日本らしさを
表現できるんじゃないかと思ったんです。
乗組員B
2020東京大会のピクトグラムには、
近年の大会と比べても
誇張がない分シンプルだと思うのですが、
全体的に躍動感はありますよね。
廣村
あまり誇張がないので
静かに見えるかもしれませんが、
個々ではアグレッシブにしたかったんです。
内に秘めた想いを、
静かに蓄えていている感じです。
乗組員A
動きはあるんだけど静か。
乗組員B
それはそれで日本らしいですね。
廣村さんが個人的に、
好きな競技はあるんですか。
廣村
陸上部にいたんで、
やっぱり陸上は見てみたいかな。
乗組員B
走っていたんですか?
廣村
走っていました、短距離です。
乗組員B
ピクトグラムを手がけたときに、
最初に陸上競技から作ろうと
おっしゃっていたお話と関係は‥‥。
廣村
あるかもしれないよね(笑)。
ぼくが陸上をやっていたからかな。
「スタートダッシュってこうだよ」と
思っている部分がありますもん。
乗組員B
この角度は、走っている途中ではなく
スタートの姿勢ですよね。
廣村
そう、スタートダッシュ。
2歩目、3歩目ぐらいですかね。
乗組員B
やっていなかったら、わからないかも。
廣村
走っているうちに、
だんだん体が上がってくるんですよ。
1964年大会ではもっと寝ていたんですけど、
今大会では45度の角度に変えました。
そんなには寝ないだろう、ということで。
乗組員B
この記事を読んでくださっている
オリンピックファンのみなさんに
言い忘れていることだとか、
くり返し伝えたいことがあれば。
廣村
ぼくはデザイナーなので、
オリンピックをデザインとして考え、
デザインの視点で見ているんです。
それぞれの職業がそれぞれの職業の視点で見る
オリンピックの見方があるんじゃないでしょうか。
自分なりのオリンピックの見方が見つかると、
すごくおもしろいだろうなと思います。
乗組員B
ありがとうございます。
吉原さんはいかがでしょうか。
吉原
このピクトグラムと競技をあわせて、
ぜひ見てもらいたいですね。
どれだけリアルに作られているか、
大会で確認してもらいたいです。
乗組員B
たのしみです。
いろいろな仕事に携わるみなさんの
お話を伺っていると、
オリンピックの凄みを感じます。
乗組員A
ありがとうございます。
おもしろかったです。
乗組員B
ありがとうございました!

(おわります)
2019-07-15-MON