東京オリンピック・パラリンピックの
全競技内容をわかりやすく絵で伝える
「スポーツピクトグラム」を手がけた
グラフィックデザイナーの廣村正彰さんと、
組織委員会デザイン担当部長の吉原潤さんに
お話をうかがいました。
言語を問わず世界中の誰でもが理解できるよう、
シンプルでわかりやすく、
なおかつ日本らしさも表現された廣村さん。
1964年の東京オリンピックからはじまった
スポーツピクトグラムの歴史を紐解きながら、
解説をしていただきました。

3どこを足す。
どこを削る。

乗組員A
廣村さんが手がけたスポーツピクトグラムの
デザインを拝見してみると、
感覚的なものと、理屈と、
両方を組み合わせていますよね。
廣村
最初はなるべくシンプルに表現したいので、
どんどん絞り込んでいくんですけども、
途中から、その競技に見えてこない
臨界点みたいなものが出てきました。
そのときにはみんなで協議をして、
「残すべきか、削るべきか」を
まとめていく作業をしていました。
乗組員A
作業していくうちに、
わからなくなってきません?
廣村
考えていくうちに、
どんどんわからなくなっていくので、
「そうは言ってもこれがいいんじゃないか」
という案を中心にしながら、
「もしかしたら、こういうのもあるかな?」
という案も競技団体のみなさんには
見てもらって意見を伺うんです。
乗組員B
競技団体のみなさんは、
自分の競技だけを確認するのでしょうか。
それとも、周辺の競技も見るのでしょうか。
廣村
周辺の競技も見てもらいました。
「全体をこういう考え方で作っています」
ということを見てもらえたら、
ディテールまで表現できないことも
理解していただけるので。
吉原
やはり各競技団体のみなさんは、
自分の競技に一番の関心がありますから。
なので、個別最適も大切ですが
全体最適にて判断してほしいとお願いしました。
説明させていただくときにも
まずは全競技について説明をした上で、
自分の競技を見ていただきました。
廣村
それぞれの競技団体のみなさんは、
自分の競技をいつも見ているから、
「らしさ」みたいなものがわかるんです。
たとえば、「空手」のデザインを見て、
「いやいや、手はこの向きだから」
「足はもうちょっとこうなるよ」とか
教えてもらえることで気づくことがありました。
乗組員A
空手の「形」って、
まさに、かたちの競技ですもんね。
吉原
スポーツピクトグラムの発表会には
清水希容選手が来てくださって、
このデザインにぴったりの
形を見せていただきました。
廣村
実際に清水選手にお会いして、
「こんなに小柄な人なの!」と思ったんです。
動画では拝見していましたが、
もっと大きい選手かなと思っていました。
それだけ大きく見える表現なんですね。
乗組員A
廣村さんがデザインするにあたって、
よく知っている競技と
あまり知らない競技とでは、
どちらが難しいのでしょうか。
廣村
それは、どちらとも言えないです。
自分が知っている競技でも、
「なるほどな」と思うこともありますしね。
全部、難しかったのですが、
あえて難しかった要素を挙げるなら、
男女差が出ないようにすることかな。
乗組員B
ああ、たしかに性別がわからないです。
廣村
女子だけの「ソフトボール」とか
「アーティスティックスイミング」とかは
考え方もわかりやすいんですよ。
ですが、男女とも出場する競技では、
性別がわからないようにしています。
乗組員B
最初は陸上競技から考えたと
おっしゃっていましたが、
最後に決まったのはどの競技ですか。
廣村
オリンピックで最後に決まったのは、
「空手 組手」だったかな。
吉原
かなりやり取りを重ねた記憶がありますね。
廣村
たくさんのパターンを出しました。
足がどこまで上がっているかとか、
手の位置はそこじゃないとか、
突きはもっと出すものだとか。
乗組員B
「空手」は新競技ということもあって、
事例もないですもんね。
廣村
あとは、「セーリング」も難しかったです。
1964年のデザインを見ると、
人がいなくてボートだけでした。
今大会では人間も出したいなと思ったのですが、
人を入れるとボートが切れてしまう。
でも、ボートが切れるとうまく見えないんです。

※1964年のピクトグラムの画像はリンク先にてご覧いただけます。

乗組員B
難しいですね。
廣村
細かいことを言うと、
両手に持っている棒と綱がありますよね。
ぼくらも最初の段階では
「1本でいいじゃない」とか思うのですが、
調べてみると、そうもいきませんでした。
片方では舵を切って、
もう片方では帆を調整しているんだそうです。
競技団体の方からのリクエストもあって、
自然の力を利用して進んで行くために、
船からお尻をつき出して
コントロールしていくものだと。
乗組員B
ピクトグラムを見ると、
たしかにお尻が出ています。
廣村
グーッと反っているシーンで、
ぼくらも資料でよく見ていました。
お尻をつき出している分、
倒れないように船も傾けていて、
もっとも見映えのする場面だそうですよ。
でも、デザインする立場からすると、
ただでさえ船が大きいのに、
余計にはみ出る要素が増えてしまうなあと。
一同
(笑)
乗組員B
競技に詳しくないと
わからないポイントですよね。
乗組員A
かなり苦労されたと思うのですが、
お話はすごくおもしろいです。
廣村
写真を見せていただくんですが、
「ここ!」っていうポイントが難しくて。
しかも、写真では隠れることがあって
見えなかったりもするんです。
隠れて見えなくなるなら、
出さなくてもいいのではと思うのですが、
「お尻を出さないと意味がない」と。
乗組員B
「セーリング」のお尻問題。
そのお話を聞いた上で、
実際の競技を見たくなりました。
「あ、あのお尻だ!」ってなりますかね。
乗組員A
デザインを細かく見ていくと、
腕の微妙な筋肉の表現といいますか、
太さに違いがありますよね。
廣村
競技によっては、かなり重要なポイントですね。
頭の大きさに対して体の大きさはどうか、
頭に対して腕の太さはどうか、
腕の根っこのアール(丸み)はどうか、
と決めていくんです。
第一関節から第二関節にかけての膨らみが、
動きに大きく影響する競技もありますから。
腕を単純な直線で表さずに、
微妙にカーブをつけたりしましたね。
乗組員A
「ボクシング」のこの腕の太さは、
やっぱり必要なんでしょうね。
廣村
「ボクシング」の腕のデザインは、
上半身だけで表現しているのも
影響していますね。
なるべく要素は少なくしたいので、
本当はグローブをまあるく表現したいんだけど、
丸だとグローブに見えなくて、
ドラえもんになっちゃうんです。
一同
ああー。
廣村
大きな拳にならないといけないんですよ。
その点は1964年がよくできていて、
ちょっと凄んでいるポーズでしたね。

※1964年のピクトグラムの画像はリンク先にてご覧いただけます。

乗組員A
1964年のデザインには、
ヘビー級の雰囲気があります。
廣村
2020年は他の競技との調整もあって、
さっぱりさせたいなと思い、
シンプルな表現に変えました。
2020年では「これから打つぞ」みたいな。
乗組員A
その競技ならではのポイントを表現するために、
細かいところまで気を遣われたんですね。
廣村
その分、削れるところは
極力シンプルにしていきましたね。

(つづきます)
2019-07-13-SAT