水泳、柔道、レスリング、卓球、陸上‥‥と
東京オリンピックでは33競技339種目、
パラリンピックでは22競技540種目が実施されます。
今回お話をうかがったのは、
東京2020組織委員会「競技日程」担当の
高橋さん、林さん、井竹さん。
延長になったら? 台風や雨で延期?
いろんな可能性を考えて、
競技の開催日程や選手の練習日程を決めるために、
さまざまな関係者の「調整役」を担う、
一筋縄ではいかないお仕事です。

2大きなプレッシャー。

高橋
リオデジャネイロ2016オリンピック大会は
28競技が実施され、
東京2020大会は33競技と5競技増えたんですね。
でも、大会期間は変わらないので、
スケジュールがものすごく過密なんです。
もう、これ以上日程の中に
競技が収まらない状況でして。
乗組員A
毎大会、競技数が増えている印象があります。
高橋
さらに今年は暑かったじゃないですか。
乗組員A
あーー、はい。
高橋
現実問題として「日中に競技をやれるのか」
ということを実感して、
そうとう頭を抱えましたね。

単純に競技の開始時間を早めれば
暑さ問題が解決するわけではなくて、
いろんな人の行動パターンを考えて、
なるべくリスクが少ないスケジュールを
組まなければいけないんです。
乗組員B
というと?
高橋
たとえば、競技が5時スタートになると、
選手はウォームアップのために2時間前、
朝3時に会場にくることになります。
移動に約30分、その前に朝ごはんを食べるなら
2時起きかもしれない。
高橋
さらに選手が3時に来るなら、
スタッフは深夜1時集合。
そうなると電車が動いていないので、
近くに宿泊場所を用意する必要が出てくるんです。

そうすると、それだけコストが発生しますし、
実際に場所を用意できるか未知数ですよね。
フタを開けてみたら冷夏の可能性もありますが、
リスクは考えなければいけません。
乗組員B
大変だ‥‥。
乗組員A
つらい気持ちになってきました。
高橋
でも、まだ、
決めなきゃいけないことがあるんです(笑)。
乗組員A
デイリースケジュール、
セッションスケジュールに続いて
決めなきゃいけないこと。
高橋
続いて「イベントスケジュール」を決めます。
セッションスケジュールからさらに細かく、
種目別の予選、準決勝、決勝を
何時にはじめて何時に終えるのか決めていくんですね。

競技というのは大まかに
競技・種別・種目に分けられるんですが、
競技は水泳や陸上競技のこと、
種別は水泳なら競泳、飛込、水球など。
種目は競泳の100m平泳ぎ、4×100mリレーなど。
この種目別に、予選から決勝まで、
開始時刻と終了時刻を決めるのが
イベントスケジュールです。
乗組員A
はあー。
フライングや万が一のトラブル、
よめない競技が多くて大変そうです。
高橋
そうなんです。
参考までにリオ大会のものをお見せすると、
陸上競技で
「男子円盤投げ予選・グループA、
9時30分から10時22分まで」のように書いていて。
乗組員A
22分、ですか?
高橋
はい。
乗組員A
すごい、
分刻みですか。
高橋
このスケジュールをゼロから組み立てていたら
パンクしそうになりますけど、
大枠は決まっているので、まあ安心ですね。
今年中にはイベントスケジュールを完成させて、
来年の春にはオリンピックのチケット販売を
スタートしたいと思っています。

もう、ここまできたら終わりでしょ、
と思うかもしれませんが。
乗組員A
まだあるんですか(笑)。
高橋
次はDCAS
(Detailed Competition Activity Schedule)という
更に細かいスケジュールを決めます。
それがものすごく、細かいんですよ。
乗組員B
もっと細かいんですか。
高橋
はい。
セッションのスタート時刻からさかのぼって、
スタッフは何時に来て、
ミーティングは何時からはじめて、
何時に備品チェックして、エリアチェックして、
選手は何時に会場入りして、
何時からウォームアップをして‥‥という、
競技に関わる選手やスタッフの全体スケジュールを
分刻みでつくるんです。
乗組員B
全員分のスケジュールを分刻み‥‥。
高橋
これに加えて「トレーニングスケジュール」を
考えなければいけないんです。

2020年の7月の選手村開村にあわせて、
たくさんの選手が来日して、
練習会場で練習をはじめるので、
そのためのスケジュールを考えるんです。
乗組員B
はあーー。
こんなにたくさん決めることが。
乗組員A
ますます、つらい気持ちになってきました。
高橋
でも、これらのスケジュールすべて、
競技が終わるまでは変更する可能性あり、なんです。

天候、選手の体調、延長、
いろんな要因でシナリオが変わるので、
僕らの仕事は大会が終わるまで
ずっと続くと思います。
乗組員A
雨で中止になることはもちろん、
台風で延期なんてことも考えられますもんね。
乗組員B
来年の夏は、
「もし、今日の天気が来年だったら‥‥」と
想像してドキドキしそうです。
高橋
もう今年の夏も、
そういう風に天気をみちゃいましたね。

猛暑だし、台風もきたし、
今年は散々でしたね。
2020年が今年だったらと思うと恐ろしい。
乗組員A
ああーー、そうでしたね。
高橋
あらゆる万が一のパターンに備えて
準備をするわけにはいかないので、
基本となるパターンを考えて、
さまざまなケースに応用できる準備をしていきます。
乗組員B
ひとつ変更があれば、
周知も大変ですしね。
高橋
そうなんですよね。
競技日程の変更はすべてに影響するので
大きなプレッシャーはあります。

とくにプレッシャーを感じるのは、
これまでの大会で
メダルが授与されなかった種目がないんです。
つまり、大会期間中に終えられなかった競技はない。
乗組員A
へえーー。
高橋
多少の変更はあったとしても、
絶対に大会期間中に全競技を終えて、
メダルを授与したいです。
乗組員A
胃が痛いですね。
高橋
最善をつくすしかないなと思っています。
乗組員A
僕は野球ファンなのですが、
聞きながらどうして野球がオリンピック種目から
外れるのかわかったような気がします。
今回の東京2020大会では開催されますけど、
時間もよめないし、予選も多いし、
こんなに大変な競技はないですね。
高橋
でも、さらによめない競技が加わったんです。
それが、サーフィン。
乗組員A
サーフィン。
波待ちとかですか?
高橋
そうなんです。
天気よりよめない「波」を待たないと
競技が実施できないんです。

サーフィンの国際大会では、競技だけでなく、
会場ではコンサートやヨガ、
オーガニックフードの販売なども行われており、
東京大会でも、
競技がその日に開催されなくても
観客の方に大会をたのしんでもらえるように、
このようなサーフィンの世界観を取り入れる予定です。
乗組員B
フェスっぽいですね。
高橋
そんなイメージですね。
なので、東京大会でもはじめて、
競技がその日に開催されなくても
観客の方に大会をたのしんでもらえるように、
こんなサーフィンの世界観を取り入れるような
8日間サーフィンフェスティバルを開催します。
乗組員B
たのしそう!
乗組員A
何度も考えていることかと思いますが、
この期間中に波が来なかったらと思うと‥‥。
高橋
期間中に競技が終わらなかったら延期ですが、
最終日までスタンバイしておくと
その分コストがかかるんですよね。
競技会場で消費されるトイレットペーパーや食事、
スタッフや警備などさまざま手配する必要性も
出てくるんですよ。
乗組員A
なるほど。
高橋
波も天候も、気象情報とにらめっこではありますが、
フェス的なものをオリンピック大会に盛り込むのは
我々にとってもチャレンジです。
サーフィンは東京2020大会成功の
ひとつの鍵になるかなと思っています!
乗組員A
サーフィンの知識があまりなかったのですが、
急に気になりだしました。
乗組員B
私も、とっても観に行きたくなりました!

(つづきます。)
2018-12-26-WED