東京オリンピック・パラリンピックに
出場する選手や、観戦をたのしむお客さんの
ほぼすべての人が関係する「飲食」について
考えているチームにインタビューしました。
組織委員会の山根さん、末口さん、高梨さんが
所属している飲食サービス部では、
世界各国の選手が試合前にとる食事や、
日本らしさを感じてもらえるような食事、
それどころか食にまつわるすべてについて、
日々頭を悩ませ、課題を解決している真っ最中です。
最低限で欠かせない、食事という要素。
裏方の仕事であることに誇りを持った
3人の担当者が話します。

1多様性と
コンディション。

乗組員A
よろしくお願いします。
オリンピック・パラリンピックを
縁の下で支えているみなさんへの取材も、
2年目に入りました。
乗組員B
今回で6回目の取材になります。
私たちがオリンピックやパラリンピックを
たのしんでいる裏側で、
めいっぱい考えている人がいるんだとは
思っていたんですけど、
想像がいたってないことばかりでした。
山根
ありがとうございます。
我々の仕事は「縁の下の力持ち」的な位置づけで、
関心を持って取り上げていただけるというのは
スタッフにとっても非常に励みになります。
ぜひよろしくお願いします。
乗組員A
飲食を担当されるみなさんは、
選手村から観客が食べるものも含めて
東京大会の食事全体を手掛ける、
ということで合っていますか?
山根
そうですね、はい。
選手村にしても競技会場にしても、
我々が飲食提供をするのではなくて、
事業者さんにお願いすることになります。
選手村でお願いする事業者さんについては
2018年のうちに決まったんですけども、
まさに今、競技会場での
事業者さんを選定しているところです。
乗組員B
競技会場は会場ごとに
選定が必要なんですね。
山根
そうです。
出場する選手は各競技場でも食事をとりますし、
審判や大会運営の関係者、
来場するお客さんにも飲食の提供をします。
みなさんに食事を提供していただく
事業者さんを選定するのが今の仕事です。
乗組員A
みなさんが所属していらっしゃる
飲食サービス部のチーム編成は
どのように決まったのでしょうか。
末口
オリンピック・パラリンピックで
飲食を提供することは過去大会から考えても
必要であることは明らかなので、
「飲食サービス部」ということで組まれました。
準備に時間がかかるものから手をつけて、
課題を解決してきました。
まずは選手村のことから始まって、
現在は競技会場のことに取り掛かっているので、
少しずつ人数を増やしながら進めています。
乗組員A
前の大会を参考にして規模を決めたり、
大きな柱を決めたり、
ということから始まるのでしょうか。
山根
過去の例がたくさんあるので、
参考にできるものは当然、
活かしていきたいと思っています。
ただ、それぞれに事情が違いますので、
参考にする部分もありますけれども、
独自で考えるべきことの方が
むしろ多いのかなって気がしています。
乗組員A
オリンピック・パラリンピックでは、
いろんな国や地域の方がいて、
いろんな言語や宗教もそれぞれ違いますよね。
選手村の食事については、
相当気を使われるんじゃないかなと思うんです。
選手村の食事を準備するにあたって、
どんなことから始めたのでしょうか。
山根
まず大前提としてお伝えしたいのが、
選手たちは競技を
目的にいらっしゃるわけですから、
競技で最大のパフォーマンスを
発揮できるような飲食を提供することが、
最大で、最優先の目的です。
乗組員B
まずはパフォーマンス。
山根
そう、きちんと栄養をとれることが第一です。
その上で、いろんな国の方がいらして、
いろんな宗教をお持ちの方、
いろんな価値観をお持ちの方がいます。
みなさんの日常を壊さない食事を提供することが、
試合でのパフォーマンスにつながりますから、
多様な提供をしていくということも
もうひとつの大きな課題になっています。
たとえば、メインダイニングでは、
選手に必要な栄養を補給していただくコーナーと別に、
ハラル(イスラムの戒律で食べることが許された食事)
のコーナーを独立させることにしました。
これまでは食事のジャンルごとに、
ハラル対応の料理を用意していましたが、
今大会では、ハラルのコーナーに行けばひと通り、
いろんなジャンルの料理がそろうんです。
乗組員B
誤って提供するようなことも
起こらなくなりますよね。
高梨
安心してハラルのニーズに応えるために
独立した運営を選んでいます。
そのほかに独立しているのがグルテンフリーや、
ベジタリアンのニーズが高まっていますので、
独立したコーナーを設けています。
あとは、ピザ・パスタも。
乗組員B
ピザ・パスタ?
高梨
世界各国の選手が食べるものとして、
ピザとパスタのニーズが高かったので。
メインダイニングでのコーナー割りとしては、
各国独自のお料理を「ワールド」でくくり、
「アジア」でくくり、そして「日本」でくくります。
カジュアルダイニングという場所では、
もう少しおちついて日本食を味わえるような
計画がなされているところです。
乗組員B
各国の料理を用意する上で
難しいことはありませんか。
高梨
選手たちのコンディショニングを
維持するために必要なものを
メインダイニングでそろえるのが
基本的なコンセプトですが、
各国の選手から要求されているものを
そろえるのはハードルが高いですね。
自国で食べていた料理を再現するために、
日本で調達できる食材で、
海外の味を実現するのは至難の業です。
乗組員A
こういう料理を出してほしい、
というリクエストがあるんですか?
高梨
過去大会も含めたニーズも含めて検討します。
「ワールド」のコーナーでは、
過去大会のメニューを分析しながら、
対応できるようにしています。
乗組員B
どの料理が、どのぐらい人気だったかもわかるから。
高梨
先ほど申し上げたピザ・パスタコーナーが
独立されるようになったのも、
過去大会で行列ができていたからなんです。
ちなみにパスタの味付けについては、
パスタソースをかけずに、
ソース別添えで提供することになります。
それぞれの選手が自分でソースをかけるか、
あるいは調味料コーナーから選んだ味をつけます。
乗組員B
おいしいパスタを作るというよりは、
あくまでも機能性重視なんですね。
高梨
そうとも言えますね。
味のことも含めて、
どれだけ多様性に配慮した準備ができるかが
鍵になると思います。
特にタンパク質源である肉や魚は
シンプルな味付けで提供して、
自分で味付けできるような用意をすることが
選手や、スポーツ栄養の専門家、
それからIOCからも要望が出ています。
乗組員B
自国の調味料を使った味付けは、
メインダイニングのお話ですよね。
カジュアルダイニングでは、
提供する料理も変わってくるのでしょうか。
高梨
メインダイニングでは、
選手のコンディショニング維持のために
考慮しなきゃいけないことばかりなので。
カジュアルダイニングではまったく別の角度で、
試合が終わったあとに
ぜひ日本食を味わっていただこうと。
乗組員B
日本の、おもてなしですよね。
カジュアルダイニングでなら、
選手が自由に変えられる味ではなくて、
「この味で食べてほしい」という
味付けで出すのでしょうか。
山根
基本的にそうですね。
決まった味付けになると思います。
乗組員B
ちなみに、身体を大きくする競技と
身体を絞って臨む競技とがありますよね。
競技ごとに食べるものは違うように思うのですが、
そのあたりの傾向にあわせて、
提供する料理も分けているのでしょうか。
高梨
最終的には、選手自身が選ぶものですから。
自分に必要なものを、必要な時間にそろえる。
それに対応できるように、
私たちはいつでも用意しておくんです。
だから、競技別に用意を変えるのではありません。
そういう意味でいうと、
選手自身が自分で選べるような
情報を提供することが求められていますね。
乗組員B
情報は、いろんな言語で用意されるわけですか。
高梨
オリンピック・パラリンピックの場合は、
英語、フランス語に加えて
開催国の言語と決められています。
東京大会の場合は、
日本語、英語、フランス語がメニュー名の表記です。
細かい成分情報については、英語が基本です。

(つづきます)
2019-11-22-FRI