『東京人』物語。──雑誌『東京人』の高橋編集長と語る、雑誌のこと、東京のこと。──

みなさんは『東京人』という雑誌を知ってますか?

毎号、ちょっと変わった視点から
東京の隠れた魅力を発掘していく月刊誌で、
今年で創刊31年目を迎えたそうです。

ちなみに、過去の特集をみてみると、
木造建築、凸凹地形、特撮、ヤミ市、
中央線、江戸吉原、団地、アウトロー、
東京35区、山の手100名山、などなど、
もう、気になるワードだらけです‥‥。

ほぼ日の東京特集・第11弾は、
そんな『東京人』の高橋栄一編集長と、
『考える人』の編集長を務めた
「ほぼ日」の河野通和による編集者対談を、
全5回にわけてお届けいたします。

テーマは、もちろん「東京」です。

第5回 東京「で」語る。


河野
これから先の『東京人』では、
どんなネタを取り上げようと
考えているんですか?
高橋
うーん、そうですねぇ。
もうお亡くなりになりましたが、
作家の丸谷才一さんに
よく言われていたのは、
「いつまでも“とげぬき地蔵”の
頭ばかりなでてんじゃないよ」って。
写真
河野
とげぬき地蔵、ですか?
高橋
要するに「なつかしいもの、古いものを
『良かったね』ってばかり言ってないで、
もう少し未来に目を向けろ」っていう。
河野
ああ、なるほど。
高橋
アメリカの9.11同時多発テロのときも、
『東京人』はそのことについて
いっさい触れなかったんですね。
そしたら丸谷さんから、
「ああいうテロとの戦いを
正面から取り上げる必要はないけど、
まるでなかったかのように振る舞うのは、
雑誌としては失格だ」って、
すごく怒られたことがあって。
河野
はぁー、そうでしたか。
写真
高橋
やはり目の前に起こっていること、
築地の問題もそうですが、
正面からじゃなくても、
皮肉にするか、励ましにするか、
『東京人』なりの提案みたいなことは
やっていきたいですね。
河野
東京が抱える時事問題を
『東京人』ふうに料理する、
ということなんでしょうね。
高橋
そこの芸をもっと磨かないと。
写真
河野
昨日、ちょうど築地に行ったんですが、
築地市場があそこからなくなったとき、
ひとつ気になってることがあって、
それは、ネズミのことなんです。
高橋
ネズミ?
河野
築地にはあれだけの食糧があって、
丸々と太ったネズミが
かなりの数いるわけですよね。
そのネズミたちは市場がなくなったあと、
みんなどこに行くんだろうかと‥‥。
高橋
気になりますね。
河野
それこそ銀座へ大移動したら、
もう大変な騒ぎですよね。
だからといって、
築地のネズミをすべて駆除となると、
周辺の生態系にも影響しそうだし。
そういう視点から築地問題を
考えてみるのも面白いと思うんです。
写真
高橋
面白いですね。
そういう啓発のようなことも含めて、
先を見据えた特集というのは、
少しずつ増やしていきたいですね。
河野
それにしても、
いくら「東京」という対象が
テーマを吐き出すといっても、
毎月これだけの雑誌をつくり続けるのは、
やっぱりすごいことだと思います。
高橋
東京をあつかう雑誌として
注意すべきことは2つほどあって、
まずは「東京を語る」ということ。
東京の歴史・文化・風俗をしっかりと語る。
それからもうひとつは、
「東京“で”語る」ということ。
河野
東京“で”語る。
高橋
東京にはたくさんのクリエイターや
デザイナー、作家、学者がいます。
海外ミュージシャンや
アーティストもたくさん集まってきますし、
そういう人たちとコラボしたり、
同じ「場」を共有することが、
東京“で”なら実現させやすいんです。
河野
ああ、そうか。そうですね。
高橋
あらゆる技術者や研究者がいて、
しかも最先端のテクノロジーもある。
東京を舞台にすれば、
外国の文化だって語れます。
「Around100歳」という特集のときも、
「じゃあ、ヨーロッパはどうなの」って、
東京と比較させて語れるわけです。
河野
なるほど。
高橋
他の国と比較ができるというのは、
東京に新しいライフスタイルを
受け入れるだけの懐の深さがあるからです。
同じことを地方都市でやろうとしても、
やっぱり難しい気がしますね。
写真
河野
東京は人が多いイメージですが、
それだけ人生の選択肢も
多いということなんでしょうね。
高橋
そう思いますね。
街自体に包容力があって、
価値観にしばられない生き方がある。
ある場所では
固有名詞(高橋栄一)で生活できるし、
それが面倒なときには、
別の場所で匿名になれる。
自由度が高く、選択肢が圧倒的に多い。
これは東京のいいところですよね。
河野
いやいや、今日はほんとに楽しかった。
では、そろそろこの辺にしましょうか。
ありがとうございました。
高橋
どうもありがとうございました。

<おわります>

2017-08-28-MON

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