──

ではここで、 東京についてお悩みの、２通のおたよりを
ご紹介させていただきます。

「私は東京出身ですが、
ハングリー精神のなさについて悩んでいます」

みうら

なるほど、なるほど。

──

「でも、出さないところがいいところなのかなぁ、
とも思います。
ハングリー精神を出すにはどうしたらいいでしょうか」

みうら

その方は、生粋の東京の方ですね。

──

東京で生まれ育った方のようですね。

みうら

さきほども言ったとおり、
いまは「カードが使える」時代になりました。
そのことはとても影響が大きいんですよ。

ハングリー精神というのはそもそも何かというと、
直訳どおりの
「飢えてる」ってことなんですよね。
それがもう、いまは四六時中カードが使えちゃうし、
カード会社にとめられてない限り、
ごはんが食べられる世の中です。
このおたよりの方は、
土日にお金をおろさなかったことにより発生する
「ひもじい思い」をしたことがないんです。
このハングリーってやつぁね、
何度も言いますけども、
土曜日はどうにかもったとしても、
日曜の夕方からとてもきついんですよ。

──

はい（笑）。強調なさいますね。

みうら

地方人はこうして
「東京冷てぇ」「ハングリーきっつい」といって
育つチャンスがありますけれども、
東京の実家にいて、
おかあさんの作ったごはんをいつも出されている人は
その機会すらありません。
そこの違いは当然、ハングリーに出ます。
ハングリーは、じつは精神じゃないです、
ただのハングリーだと思ったほうがいいです。

──

ありがとうございます。
では、次。

「地方出身者です。
東京出身のスマートな人たちと
深くおつきあいができません。
気がつけば、地方出身の人ばかりと
なかよくしてしまいます。
どうしたら私の田舎成分に同調してくれる
男性を探せるでしょうか」

恋の悩みですね。

みうら

これはまぁ、もともとぼくが昔
持っていた考えと同じです。

──

そうですか。

みうら

この方は、
田舎に帰るのがいいと思います。

──

えっ。そうですか。

みうら

田舎だったら絶えず同調してもらえるし、
「都会でそんなにひどい目に遭ったんか」と
同情もしてもらえます。
もしも東京にいる理由があまり見つからないのなら、
帰ったほうがいいと思います。
どうしても仕事とかがあって、
帰れないんだったらまたご一報ください。

──

ご一報ください。

みうら

田舎に帰るとね‥‥ほんとうはたのしいですよ。

──

そうですか、たのしいですか。

みうら

昔は「錦を飾る」という言葉がありましたね。
木下惠介監督の『カルメン故郷に帰る』と同じ語感の
「故郷に錦を飾る」の精神は、
ぼくが上京した頃には歴然とありました。
いまでも関西には少し残っていると聞きます。
錦ってなんなんですか？
旗なんでしょうか。

──

どうやら着物のようです。

みうら

いや、ぼくのイメージする錦は
新幹線に乗せられないくらいの、でかい大漁旗です。
ぼくもね、東京でつらい思いをしている時期に、
「ぶつぶつ言ってるんだったら、帰ればいいじゃん」
と、人から言われたことあるんですよ。
でも、そのときのぼくにはたしかに
「田舎に錦飾るまでは帰れねぇんだよ」
という気持ちがありました。

そういう気持ち、あるんですよ。
東京に負けたと思われるのが嫌なんでしょうかねぇ。
でもほんとうは、錦の実態もないですし、
そんなのは、必要ないんです。
ですから近年は、錦は
「飾らなくていい」ということが
あきらかになってきましたね。

ぼくの時代には、そんな
大漁旗とかハングリーのせいで
故郷に帰らなかったりしましたが、
昨今の若い人は、つらかったら
すぐ帰るっていうじゃないですか。
それでいいんですよ。
ちょっとしんどいな、と思ったら
すぐ田舎に帰るのがからだにいいです。
だいたい、向いてるんですよ、
そっちのほうが人間にとって。

──

無理すんな、ってことですね。

みうら

「無理すんな」は、じつは東京は
だまって教えてくれてるんですよ。
だけど、錦がほしいもんで、とどまるんです。
東京はきっと
「錦、錦ってうるせぇな」
と思っておられるでしょう。

──

みうらさんは40年かかって
そのことをわかられた、という感じですか？

みうら

それは、インターネットの力も
大きいと思います。
「どこにいても仕事はできる」という発想が
インターネットにより出現したからです。
いままで「東京にしがみつく」のが
テーマだった人にとっては
「そうなのかなぁ」と、
ぽかーんとする出来事でしたね。