ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 気仙沼 斉吉商店 篇
 
column 和枝さんに聞きました_02 無事だった「津軽塗り」のお話。

今回の震災で、
取材をさせていただいた建物を残し、
店舗や工場など
すべてを流されてしまった斉吉商店。

インタビューのあと、和枝さんに
工場のあった跡を
案内していただくことになりました。


おふたりが、冗談めかして「トタン屋根の豪邸」と呼ぶ建物。
訪問した5月の段階では、ここが仮事務所となっていました。 

このころ、気仙沼の港は
最低限、車両が通れるくらいまでには
整理が進んでいました。

当時、斉吉商店の工場跡地があるエリアは
立入が制限されていたのですが、
和枝さんが、警備員さんに声をかけると
すぐに道を開けてくれました。

弊社のオトヤの運転するワンボックスカーで
ゆっくり、慎重に進んでいきます。

被害区域を実際に進んでいくと
ほんのわずかな道路の凹凸や水たまり、
ちいさなのガレキやゴミなどが
車の乗り心地に
ものすごく影響することがわかります。

ふだんの、整備されたアスファルトが
どんなに走りやすかったかを実感しながら
車を進めていくと‥‥。

「‥‥あ」

和枝さん、どうされました?

「‥‥おとうさん」

なんと、和枝さんのお父さんで
斉吉商店の先代の社長、斉藤健一さんが
両手に荷物をぶらさげて
僕たちの車のほうへ
ゆっくり、歩いてくるではないですか。

健一さんは、おんとし78歳。

津波被害を免れた「トタン屋根の豪邸」から
このあたりまで、
車でも15分以上はかかったと思うので、
たぶん、片道1時間じゃすまない道のり。

このころ、健一さんは
毎日毎日、
それだけの道のりをひとりで歩いては
本店と自宅の
重油と泥の混じった海水の中から
流されずに残ったものを回収していたのです。

この日、持ち帰ってきたのは「大漁旗」です。
せっかくなので
いっしょに車に乗っていただきました。

斉吉商店の工場があった場所に到着。
写真中央が、その跡地です。
基礎の部分が、わずかに残るのみでした。

文字どおり、跡形もなくなった工場を前に
「気仙沼は、
 斉吉は、かならず復興しますよ」と
健一さんが
力強い声でおっしゃっていたのが、印象的でした。

「平泉が世界遺産になりますね」

先日6月25日に
中尊寺金色堂をふくむ「平泉」が
ユネスコの世界文化遺産に登録されたことは
大きなニュースになりましたが
5月のこの日は
ちょうど、その見込みが発表された日。

和枝さんは、そのことを口にしたのです。

「私たち、
 ずっと中尊寺さんを拝んできたんです。
 だるまも中尊寺さんで買って、
 仕事の報告とお礼をしてきましたので、
 本当に、うれしいです」

復興の光になりますよね。
 
「ぜひ、平泉にお参りした帰りに
 気仙沼で
 おいしい魚を食べてもらいたいです。
 このニュースを聞いて、
 とにかく
 お客さんに来てもらえる街にするんだって
 いっそう力が入りました」

「やっぱり、私たちは
 古くからあるものに助けられてるんです」

古くからある、歴史あるもの。
先人が繋いできてくれたもの。

そうしたものの力に、助けられていると
和枝さんは、感じていました。

ぜんぜん気づかなかったのですが、
先ほどまで、仮事務所で
僕たちが囲んでいた立派なテーブルも
重油のなかから、
拾い上げてきたものなんだそう。

「事務所にあった4つのテーブルは
 津軽塗りですけれど、
 重油やガレキのなかから拾ってきても
 どれも、大丈夫だったんです。
 職人さんが
 伝統の技でつくってくれたテーブルは
 ぜんぶ無事でした」

今、あらためて写真を見て返しても
ガレキや重油のなかから出してきたとは
とうてい思えません。
 
「ホームセンターで買った便利なものは
 申しわけないんですけど
 傷だらけになって、
 重油のせいでボツボツが出てしまって、
 ぜんぶ、使えなかったんです」

「それだけに、津軽塗りの頑丈さには
 ビックリしました。
 あのテーブルをつくってくれた職人さんに、
 会って、お礼が言いたいです。
 すごい津波に流されて、重油に浸かっても
 平気だったんだよって」

「だから、
 このタイミングで世界遺産なんて、
 さすが中尊寺さんだ、
 さすが金色堂だと思って‥‥。
 それで
 うちの『金のさんま』も売れるだなんて
 調子いいことは思ってませんけど(笑)」 

そう言って笑った和枝さんですが、
思えば
斉吉商店の「かえしだれ」も
22年の歳月をかけて繋がれてきたもの。

次回の斉吉商店レポートでは
再び炊きはじめた「金のさんま」の試食風景を
お届けする予定です。

どうぞ、おたのしみに。

<おわります>


2011-07-22-FRI
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