東北の仕事論。気仙沼 石渡商店 篇
第5回
までーに。
──
オール気仙沼、という言葉が出ましたけれど
斉吉商店さん、八木澤商店さん、
アンカーコーヒーさんと立ち上げた
「madehni(までーに)」も、
三陸地方に拠点を置く4社が集まってできた
ブランドですよね。

どんなきっかけで、始まったんですか。
石渡
地震のあとって、2~3日くらい、
何も食べられなかったんです。

震災後、はじめてものを食べたときの
あの、からだに染み入ってくる感覚のことを
みんなで、話し合ったことがあって。
──
食べ物が、染み入る。
石渡
そう、それが、とってもありがたくて、
なによりおいしかったんですが、
そういう感覚を
全国のみなさんにも感じてほしいなあ‥‥と。
──
そういう思いが込められてたんですね。
「madehni(までーに)」には。
石渡
たとえば、仕事でクタクタにくたびれ果てて
家に帰る都会の女性が、
途中のコンビニでごはんを買ったり、
昨日の残り物をチンするかわりに、
「madehni(までーに)」のスープがあれば
遅い時間でもスーッと飲めるし、
心と身体に染み込んでホッとできるかなって。
──
なるほど。
石渡
当初は「特別な家庭料理」をテーマに
なにか商品をつくれないかな、ということで、
「ごはんに合うおかず」を
いろいろと考えていたんですが、
斉吉さんが「‥‥スープにしましょう」って。
──
そこで方針転換して。
石渡
石渡商店はスープづくりの実績があったので、
技術やノウハウを提供しました。

ただ、洋風の家庭料理ははじめてだったので、
かなり試行錯誤はありましたが。
──
最初のメニューは、どのような?
石渡
石渡商店でつくった商品でいえば、
ひとつめが「気仙沼完熟牡蠣のポタージュ」で
次が「ゴマ香る七福芋の美人ポタージュ」です。
──
みなさん、それぞれの得意分野を活かして
スープを開発されているんですか。
石渡
そうなんです、たとえば斉吉さんでしたら
はじめに
「さんま出汁のつみれスープ」
「海老団子とかぶのすり流しスープ」などを
開発しておられましたし。
──
八木澤商店さんは‥‥。
石渡
「豆と押麦の満腹スープ」ですね。
──
オシムギ。
石渡
それと「枝豆と白だしのポタージュ」です。

アンカーコーヒーさんは
「メカジキの地中海風スープ」でした。
──
4社のうち、どの社がつくったスープである、
ということは、パッケージに
小さくロゴが入っている程度なんですね。
石渡
そうですね、みんなで定期的に集まっては
企画開発の会議をしたり、
サンプルの試食をしたりしておりますし、
「madehni(までーに)」は
あくまで4社の共同開発ブランドですので。
──
ひとつひとつの商品が、
それぞれの社の得意分野の技術を背景に、
ていねいにつくられていて
それぞれに個性も感じられるのに、
全体としても
ひとつのブランドとして統一感があるのは
かっこいいと思いました。
石渡
あ、ほんとですか。うれしいです。
──
こうしてラインナップを見てみると、
石渡さんのところの
「湯葉と冬茹(どんこ)のふかひれスープ」は
お値段も高級ですね。
石渡
madehni(までーに)では、
ふかひれは、やらないつもりだったんです。

もし、やるのであれば、
「最高のふかひれスープ」をつくりたい。
でも、そうしないと
「madehni(までーに)」に申しわけない。
──
それほど大事にしているんですね、
ブランドとして。
石渡
そんな意味もあって、いちばんはじめは
冬茹(どんこ)の商品を開発していたんです。

中華料理で、
冬茹を沸騰させずに6時間蒸して出汁を取る、
というスープがあるんです。
そこに「頂湯(ディンタン)」という
上等なスープを混ぜて、
最後に鶏油をかけて蒸したんです。
──
ええ。
石渡
それが、おいしくできたので、
madehni(までーに)の会議に持ってったら、
みんなが「冬茹って何?」と。
──
えっと、海の魚のドンコじゃなくて?
石渡
干し椎茸の冬菇(どんこ)なんです。

みんなに
「これさあ、おいしいとは思うんだけど
 ふかひれスープにしたら、
 もっといいんじゃないの」と言われて、
ちょっと考えたんですが、
みんなの意見を取り入れることにしました。
──
そうやってできたのが
「湯葉と冬菇のふかひれスープ」ですか。
石渡
湯葉はコクを出すために入れています。
──
そうやって、ひとつひとつ、
みんなで話し合って決めていくんですね。
石渡
そうです、ぜんぶ。

サンプルを試食しておいしくないと思ったら、
「まだまだだ」って
みんなで、真剣に言い合うんです。
──
三陸だけでなく全国にもファンの多い4社が、
本気で切磋琢磨して。
石渡
楽しくやってはいますが、
企画開発の会議は、とにかく厳しいです。

madehni(までーに)の会議は、
自分のところの仕事を終えてからなので
7時からはじまって、
遅いときは夜中の1時くらいまで、とか。
──
サンプルのスープを試し飲みしては
ああでもない、こうでもないと。
石渡
そう。
──
課題は、次の会議までに、改良して。
石渡
自分の会社ならば言いわけもできますが、
madehni(までーに)の場合は
「ごめん」が通用しないので‥‥
そうですね、なんとかしています(笑)。
──
ラインナップは今後も増えていくんですね。
石渡
はい、いろいろチャレンジしたいです。

アワビとか、メカ(メカジキ)とか、
気仙沼で採れる素材で
きちんと商品化されていないものって、
まだまだ、ありますので。
──
今回、他の経営者のみなさんと
プロジェクトをやってみて、どうですか。
石渡
みんな、自分にないものや新しい考えを
どんどん吸収しようとしますね。

それも、勉強というより、
楽しみながらやってる感じが、あります。
そういうところを、尊敬します。
──
ちなみにお聞きしておくと
madehni(までーに)という名前は‥‥?
石渡
最初は「サドメンコ」だったんです。
──
サドメンコ。言葉から受けとるイメージが
ぜんぜんちがいますけど、
サドメンコ‥‥どういう意味なんでしょう。
石渡
俺もわかんない、気仙沼の方言です(笑)。

「めんこ」というのは
「砂糖、甘い、かわいい」という意味で、
全体としては
「うちの娘、サドメンコだからな」
みたいな感じで、使うみたいなんですが。
──
でも、石渡さんがわからないってことは。
石渡
そう、誰にもわかんないよねって話で、
ボツになりました。

そこで、同じく気仙沼の方言で
「ていねいに」という意味をあらわす
「までに」から、
「madehni(までーに)」だな、と。
──
それはなんか、しっくり来ます。
石渡
そう、「までに」は、使う言葉なんで。

「デリ」とか「ママ」とかを
言葉の端々から感じてもらえるかなって
思ったりもして、いいかなと。
──
なるほど、わかりました。
今日はいろいろ、おもしろかったです。

ちなみに‥‥最後に、
石渡さんの好きな食べ物って何ですか?
石渡
私? 真面目に答えていいんですか。
──
ええ、ぜひ真面目に答えてください。
石渡
いちばんは「プリン」ですね。
──
プリン‥‥。
石渡
プリンです。
──
するどいいサメの歯を
手帳のポッケに隠し持ってる人にしては
意外な感じもしつつ、
でも、石渡さんらしくていいと思います。
石渡
おいしくないプリンって、あまりないです。
──
名言出た。プリンはだいたいうまい。
石渡
プリンのお風呂に入りたいほどです。
──
狂気すら感じますね(笑)。
では、ふだんから、よくお食べに?
石渡
自分でつくってます。

マダガスカル産のバニラビーンズを
お取り寄せしたり、
ふかひれのコラーゲンを入たりとか。
──
すごい‥‥。
石渡
プリンはシンプルなぶん、奥が深いです。
焼いたり蒸したり、いろいろやってます。
──
逆に嫌いなものは?
石渡
ピーマンとニンジン。
──
プリンが好きで、ピーマンとニンジンが嫌い。
石渡
そうまとめられると‥‥
子どもかよ、という感じですね(笑)。
──
子どもとは、そのまま大人になるものですね。

本日は、いろいろ勉強になりました。
ありがとうございました!
石渡
こちらこそ、ありがとうございました(笑)。

<おわります>
2016-02-25-THU