HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

yacmii刺繍展 しぜんなふしぜん

「yacmii(ヤクミィ)」という名前で刺繍をしている
ひとりの女性がいます。
彼女がつくる刺繍は、
何色もの糸が何重にも重ねられるのが特徴です。
なにもそこまで‥‥と思わせるほど何針も、
縫い固められてうまれる作品のなかには
立体的にたちあがり「自立」するものもあります。
丹念に、繊細に、
刺繍という表現・技術と向き合う彼女のことを
勝手ながら敬意を込めて、
「刺繍人(ししゅうびと)」と呼びます。

そんな刺繍人との出会いについて、
まずは糸井重里が話します。
続くインタビューは、浜松にある刺繍人のアトリエにて。
たっぷりと、うかがってきました。
どうぞゆっくりと、お読みください。

yacmii プロフィール


彫刻家の刺繍

今年7月の晴れた日、
わたしたちは静岡にある
yacmiiさんのアトリエを訪ねました。

浜名湖のきらきら光る水面を
窓の外に見ながら車は走り、
到着したのは
木々に囲まれて足元には芝生が広がる
赤い屋根のかわいいお宅。

ここで作品がうまれているんだ! と、
ちょっとどきどきしながら
中におじゃまします。
すると、愛犬のキビちゃんが
わたしたちを歓迎してくれました。

静かなアトリエの机に
向かいあって座り、
まずはお話からうかがうことにしました。

ほぼ日
こんにちは。はじめまして。
yacmii
はじめまして、yacmiiです。
‥‥なんだか緊張しちゃってだめですね。
ほぼ日
ヤクミィさん、とお呼びすればいいですか?
yacmii
はい。「薬味」のyacmiiです。
わたしの作品が、日々のくらしの薬味になるといいな、
スパイスになればいいなと思って
この名前をつけました。
ほぼ日
薬味のyacmiiさん。
今日はよろしくお願いします。
yacmii
よろしくお願いします。
ええと、なにからお話したらいいでしょう。
ほぼ日
そうですね。
作品をいくつか拝見して、
糸が何重にもなっているような
濃密なつくりとその造形力に
こんな刺繍見たことない! と思いました。
ご自身で長く刺繍をなさってきて
このような作風にたどり着いたのでしょうか。
yacmii
私、もともとは彫刻家をしていまして‥‥
多摩美術大学大学院の彫刻科を出てるんです。
ほぼ日
彫刻! そうでしたか。
yacmii
はい。石井厚生先生、大好きな教授なんですけど
その石井先生のもとで作業してました。
ほぼ日
大橋歩さんのご主人ですね。
yacmii
石井先生の教室は
何をやってもアリなところがあったんですけど、
そこで刺繍をしていたわけではなく
土も鉄も石も木も‥‥いちおうひととおり。
ほぼ日
では刺繍をはじめたのには、なにかきっかけが?
yacmii
きっかけは大学時代の女の先輩が
プレゼントしてくれた刺繍の髪飾りでした。
とってもうれしくてずっと使っていたら
ぼろぼろになってきてしまって‥‥
手元の細かい作業は昔から好きだったので、
お直しをしよう! と思って。
ほぼ日
そのスタートからこんなに。
yacmii
「ちょっと直したいな」が
「自分でもやってみたいな」になって‥‥。
で、自分の表現を模索しながらやってくうちに
‥‥ハマっちゃったんですね(笑)。
なんかこう、終わりがないというか、
いつまでもやってられる。
ほぼ日
すべて独学とうかがっていたので
そこにもびっくりしていたんですが、
そういうことだったんですね。
yacmii
だからステッチ(縫い方)にも
いろいろ種類があるのですが
それぞれの名前すら分からないんです(笑)。
ほぼ日
そうなんですか。
yacmii
そうやって作品をつくっているときに
石井先生が退職するという知らせを聞いて、
あわてて多摩美にあいさつにうかがったんです。
そこで「先生、私いま、刺繍をやっています」と伝えたら、
「お前、別に何つくってもいいけど、
彫刻家ってことを忘れないでくれよ。
いつ何をつくったとしても、
彫刻科を卒業した人間として、
誇りをもってちゃんと活動していってくれ」
とおっしゃって。
ほぼ日
わあ‥‥。かっこいいです。
yacmii
それを聞いて、じゃあ私は
「彫刻家の刺繍」って名乗れるだけの
立体感と迫力のある作品をつくりたいなって。
そこから自分の世界が
ギュッと固まってきた気がします。
ほぼ日
yacmiiさんの作品は
奥行きがあって重層的で‥‥。
いまの「彫刻家の刺繍」ということばで
かなり腑に落ちたところがあります。
yacmii
そうやって最初につくった立体の作品が、
このクマです。
ほぼ日
なんてことだ! 飛び出してる。
yacmii
これは、枝と葉っぱに動きを出したくて
ちょっとワイヤーを使ったんですけど、
クマ自体にはいっさい詰め物が入ってなくて
中身は空洞なんですよ。
ほぼ日
たしかに、これは彫刻ですね。
yacmii
「独立する刺繍」をつくろうとおもったら、
詰め物すればたぶん、簡単なんですけど。
ほぼ日
縫い固めることで立ち上がってるんだ。
yacmii
果てしない回数、針を通してるので(笑)。
ちょっと触ると分かるんですけど、
カッチカチです。
ほぼ日
(触る)‥‥ほんとうだ。
でも、とても柔らかい雰囲気です。
yacmii
それまでも刺繍は何度かやったことはあっても
引っかかってほつれたりとか
糸が切れちゃうのが悲しかったんですよ。
それで自分がつくるときに
どうしたらいいんだろうと考えたら
もうギチギチに縫うことだ! と思って、
縫い固めていくようになりました。

ほんとに、それで針が通らなくなっちゃったりして。
ゴム板に針を押しつけて
ンッンッて体重をかけて押し込んで、
ペンチで抜いたりします(笑)。
ほぼ日
すごく繊細な作業かと思いきや
けっこう豪快!
yacmii
えへへ(笑)。
ほぼ日
まるで畳職人さんのように
針を押し込んで(笑)。
yacmii
そうなんです(笑)。

それと、わたしがつくるものには
作品としての価格をつけていますので、
飽きがこなくて、
丈夫なものを提供しなければと思っています。
100年後も200年後も受け継いでいってもらいたい。
「私が生きてる限りはお直しできます」
という方法をとりたかったので、
裏を接着剤などで留めないようにしました。
ぜんぶ縫い止めしてあります。
いつでも解体して直せるように。
ほぼ日
きっかけも、お直しからでしたものね。
yacmii
はい。ちょこちょこちょこちょこ、
手元でやるのは昔から好きでした。
自分でシャープペンを壊しては、組み立て直したり‥‥。

そういう細かい作業が好きな感覚と、
彫刻の感覚がちょうどよく混ざって行き着いたのが、
わたしの刺繍だったのかもしれませんね。

(つづきます)

2017-10-25 WED

yacmii(ヤクミィ)

静岡県うまれ。多摩美術大学大学院 彫刻科卒業。
2011年よりyacmiiとして刺繍作品を制作。

作家名、yacmiiの由来は
「じぶんのつくる作品が日々の“薬味”になれば」という思いから。

これまでの展覧会には
「ひびの ことこと」展(2013 京都 恵文社)
「うみ の むれ」展(2014 京都 mina perhonen arkistot kyoto)
「けだま」展(2014 東京 銀座月光荘)
「おやすみ おはよう」展(2016 岡山 倉敷意匠アチブランチ)
などがある。

yacmii HP:http://yacmii.com/