ほぼ日刊イトイ新聞

レ・ロマネスクTOBI ♡ 田中泰延いろいろあったふたりの c'est la vie(ルビ:それが人生だ)対談。

いまや「ひどい目」といえばの
レ・ロマネスクTOBIさんと、
青年失業家で名高い田中泰延さんが、
大阪ミナミで一夜限りのランデブー。
「ひどい目」出版記念なんですが、
そのことばかりにとどまらない、
とりわけ主義も主張もない、
何かに役立つこともない、
ただただオモロイ対談となりました。
今年いろいろあったみなさんも、
そうでもなかったみなさんも、
こちらのトークで、
さあ、よいお年をお迎えください。
担当は「ほぼ日」奥野です。

プロフィール
1

ぼくはデコトラになった。

田中
この「ひどい目」の本によれば、
レ・ロマネスクがパリで結成される前に、
TOBIさん、ああいう格好で、
東京でもライブをされていたそうですね。
TOBI
当時のカツラは黄色いボブだったんです。
だから、扮装自体はライトでしたね。

今は、黄色いボブと、
黄色い縦巻きパーマとの組み合わせです。
田中
メイクも?
TOBI
いや、当時は基本、してませんでした。

メイクをしはじめたのは、
マイケル・ジャクソンが亡くなったとき、
オマージュを捧げたくて。
田中
マイケルへのオマージュだったんや!
TOBI
マイケル・ジャクソンの最晩年の目って、
こんな感じかなあって。

よく見たら、ぜんぜん違ったんですけど。
田中
その後、フランスへ渡るわけですけども、
結局、何年くらい‥‥。
TOBI
人生初の海外だったんですが、11年。
田中
長い。
TOBI
パスポートの申請からはじめて、
人生初の海外に出かけて帰ってきたのが、
11年後。
田中
長い長い長い長い。
TOBI
炊飯器を抱えて飛び立ちました。
田中
炊飯器?
TOBI
炊飯器って、引っ越しのギリギリまで、
使うじゃないですか。

だから「機内持ち込み」したんですが、
日本の炊飯器をフランスで使うには、
重さが12キロもある
変圧器も持っていかなきゃならなくて。
田中
え、炊飯器よりはるかに重いじゃない。
変圧器のほうが。
TOBI
しかも「機内持ち込み制限20キロ」って
言われてしまったので、
それ以外の荷物を持っていくことができず、
「炊飯器」と「変圧器」と
練馬区のゴミのルールで捨てられなかった
古いプリンターを抱えて搭乗しました。
田中
何しに行く人なんですか(笑)。

ともあれ話を戻しますと、
東京でライブをやりはじめたのも、
言ってみれば、
偶然みたいなものなんですよね?
TOBI
東京でサラリーマンをしていた‥‥いや、
サラリーマンを
しようとしていた時代があって、
つまり、入る会社入る会社、
次々潰れていくという地獄のスパイラルに
見舞われていたんですけど、
そんなときに、酒に酔っ払ったいきおいで、
友人のイワツキくんが主催していた
「年忘れ爆笑ライブ」に、
出演することになってしまったんです。
田中
書いてあった書いてあった。
泥酔して出演を承諾、と。
TOBI
まったく覚えてないんですが、
「ロマネスク石飛」という名前で歌うと
言ったらしく、
チラシにも印刷されちゃったんで、
仕方なく、友人の友人である
「オノニュエル・ベアールくん」という
大手商社勤務の商社マン、
戸籍上の本名は
「オノハラくん」という日本人ですけど、
その彼が、中学1年の夏に書いた曲に
歌詞をつけて
「愛の無人島」という曲を演ったんです。
田中
で、それがウケちゃって。
TOBI
そうなんです、そのステージを見た人が、
次のオファーをしてきました。

アントニオ猪木さんと一緒に、
千葉県の木更津の浜の海開きで行われる
餅つき大会に出てくれ、とか。
田中
海、猪木、餅‥‥意味がわからない。
TOBI
餅つき大会の直前には、
「夜の女郎蜘蛛」という曲を歌いました。
田中
砂浜で女郎蜘蛛‥‥意味がわからない。
TOBI
ま、だいぶはしょって話しましたけども、
今のがだいたい、
レ・ロマネスク結成のエピソードです。
田中
ちなみに、この「ひどい目」本によると、
そんな東京時代は、
ムード歌謡みたいなグループだったとか。
TOBI
そうですね。

そのことについて、そもそもの話すると、
ぼく、もともとトラック運転手の息子で、
その父の強い影響で、
トラックが大好きな子どもだったんです。
田中
トラック。へぇー。
TOBI
なかでもいわゆる「デコトラ」が好きで。

父親がぼくに買ってくれるプラモデルは、
デコトラのプラモデルばかりでした。
田中
ガンダムやザクなどでは決してなく。
TOBI
なく。

ここで、日本にはトラックのメーカーが
合計4社あるんです。
日野、三菱ふそう、いすゞ、日産の4社。
田中
ええ。はあ。4社。
TOBI
各社、それぞれ顔つきに特徴があります。

四角く角ばった硬派で、
野性的なにおいを漂わせているのが日野。
軟派で、女にモテようとしてる渋谷系が、
三菱ふそう。
田中
モテようとしてるんや、トラックが。
TOBI
してるんですよ。

映画の『トラック野郎』のシリーズって、
あるじゃないですか。
田中
ええ。「一番星」のね。
TOBI
あの一番星シリーズで言えば、
菅原文太と愛川欽也が乗ったトラックが、
三菱ふそう。

で、敵役の田中邦衛たちが乗ってたのが、
かならず日野自動車でした。
田中
わ、そうなんや!
TOBI
だから、あの一番星シリーズは、
そのあたりの設定がきちんとしてました。
すばらしい作品だと思いますね。

話を先に進めますと、
いすゞは下北沢みたいなちょっと個性派、
そして最後の日産は、業務用。
田中
業務用。って、そんな急に(笑)。
TOBI
そんなわけで、小学校低学年のころから、
「浮草人生」「男一匹夢街道」
みたいなシールを、ペタペタ貼っていて。
田中
プラモに。
TOBI
うん。
田中
「積載量:女房、子どもが食えるだけ」
みたいなシールを。
TOBI
そうそう(笑)。

でね‥‥自分がこうなってから、
ふとステージの上の自分の姿を見たとき、
「あ、デコトラみたい」
と思うことが、たまにあるんですよ。
田中
自分自身が「デコトラ」だと!
TOBI
浮草人生そのものだしね。
田中
はあ‥‥‥‥深い。
TOBI
変な父親だったんで、
避けていたようなところもあったけど、
流れ流れてこんな姿をしてる自分は、
結局、デコトラになったんだなあって、
思うことがあるんです。

<つづきます>

2018-12-30-SUN

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