バルミューダのパンが
焼けるまで。
バルミューダ株式会社 寺尾玄 × 糸井重里
第6回 バルミューダ創立。
糸井
工場に間借りさせてもらって、
必要な材料はどう調達したんですか?
寺尾
そこはアルミの削り出しの工場だったんですが、
「あそこにあるの全部、どれ使ってもいいから」
と言っていただいて、
工場のクズ材料を使わせてもらいました。
金やすりのかけ方から、
ボール盤や旋盤、フライス盤の使い方も
教えていただきました。

そのうち、自分でちょっとした
部品も作りはじめました。
キーホルダーを作って
ヤフオクで売ってみたりもしました。
そしてあるとき、ノートパソコンの冷却台を
作ったんです。これです。
糸井
ああ、冷却台。
まさに、最初から頭にあった
「パソコン周辺機器」ですね。
寺尾
はい、周辺機器です。
こういう、ガンダムのようなデザインで
アルミ削り出しで、作りました。
糸井
これは、買いたい人がいるなぁ。
寺尾
はい。私も
「あ、これは売れるだろうな」と思ったので、
会社を立ちあげることにしました。
糸井
それが、バルミューダ。
この商品で、立ちあげたんですね。
寺尾
そうです。
いまは1円から会社を作れますが、当時、
有限会社を作るのには300万円が必要でした。
そんなお金はあるわけなくて、
親戚に「ぜったい返すから」と言って
300万円借りました。
銀行に2週間ぐらい預けると
「資本あります」という証明書を
出してくれるんです。
その300万円はすぐに返して、
証明を持って法務局に行きました。

当時持ってた自分のお金は、
実質20万円ぐらい。
何台売れるかわかんないから、
まず、5台だけ作りました。
糸井
そのとき、寺尾さんはおひとりで
会社をやってたわけですよね?
寺尾
そうです。
部品制作をすべてそのアルミ工場にお願いして、
あがってきたものを
アルマイト屋さんに持っていって、
アルマイトの工程をはりつきで見て、
できたパーツを持ち帰り、
自宅の机でひとつひとつ組み立てました。

ウェブページ制作も自分で勉強しました。
写真撮ってPhotoshopで直して、
簡単なメールオーダーができるシステムも
自分で作りました。
「ニュースリリースの書き方」を検索して、
ひな型の文章の社長の名前を自分に変えて、
「こんなPC周辺機器を発表しました」
というリリースを作り、
Mac系のサイトに投げました。
そしたら、2時間で
1個めの注文が入ったんです。
糸井
おお!
寺尾
これ、価格がひとつ
3万5000円ぐらいするんですよ。
「やっべぇ、俺、金持ちになっちゃうかも!」
糸井
それはそうですよね、うん。
寺尾
結局、3か月ぐらいで100台売りました。
糸井
やりましたね。
寺尾
当時、アップルユーザーは少なくて、
ネタに困っていました。
だから「こんなガンダム的な製品が出ました」と
取り上げてもらえたんです。
糸井
作ったのが椅子じゃなくてよかったですね。
寺尾
椅子じゃなくてよかった(笑)。
コアなファンがいるところに
コアなものを出したから、100台売れたんです。
糸井
これには‥‥もうすでにバルミューダの
ロゴマークが入ってますね。
寺尾
はい。
アルミ工場に通っているとき、すでに
ロックバンドじゃなくブランドで
世界に表現しようと思っていました。
ですからすでにバルミューダという名前も決めて
ロゴも作っていました。
糸井
手で5個作った時代の製品に
はめこみでロゴが入ってる、
その根性がすごいと思います。
そして、最初の製品が
シンプル・イズ・ベストじゃ
ぜんぜんないところが
寺尾さんが音楽の出身であることを感じさせますね。
「ガンダム」が100個売れたおかげで、
300万以上の売上ですから、
動かせるお金はできた、ということですね。
つまり‥‥「ひとりでやってるぶんには」ね。
寺尾
‥‥そうなんです。
いやぁ、そうなんですよ!
アルバイトをひとり入れたとたんに
お金って、おかしくなるんですよね。
つまり、自分の給料や人件費は
原価に入っていなかったから。
糸井
そうですよね、うん。
寺尾
原価は材料だけだった。
経費はあってないようなものでしたが、
経費って、じつははっきりとあるんです。
糸井
うん、ありますよね。
寺尾
経費を除いた先の利益、残るかどうか。
そういう計算をしていけばしていくほど、
「売れない価格」になってしまいます。
いいものは作りたいんだけど、
ダメだと思って無理に圧縮する。
価格はそれでも高くって、
自分たちはかなり無理している、という商品を
作ってしまうことになりました。

そこから4~5年経って、
このライトを作りました。
糸井
かっこいいライトですね。
寺尾
はい。すごくいいデザインだと自分では思ったし、
塗装も3回塗っていて、
ものとしては、よくできてるんです。
おかげでヤマギワさんやカッシーナさんが
扱ってくれて、評判もよかった。
しかし、そのときに
リーマン・ショックがやって来まして。
糸井
ああ‥‥。
寺尾
高級品がすべて売れなくなりました。
うちの注文は当時、
ファックスでいただいていたんですけど、
ファックスがぴたりと鳴らなくなってしまいました。
3週間ぐらい、1回も鳴らないんですよ。
糸井
きついなぁ。
寺尾
「ああ、さてはファックス壊れてんだ」と思って。
糸井
うん(笑)。
寺尾
でも、自分で電話かけたら、
ファックスが鳴るんですよ。
まさかとは思ったんですけど、やっぱりな。
「ファックス壊れたんじゃないわ。
 ものが売れないだけなんだわ」
こんなにいいライトなのに、なんで売れないのかな?

結局たどり着いた結論は、
「必要ないから売れないんだ」ということでした。
人間、必要なものはどんな状況でも買います。
そう思い至っても、注文がシャットダウンで、
会社が倒産寸前。

少なくとも5年ぐらい経営やってたんで、
「あ、これは会社がつぶれるな」
と思いました。
糸井
うん、わかったでしょうね。
寺尾
音楽もダメだったけど、
今回もまたダメだったなぁ、
と思いました。
糸井
音楽のときに比べて、
寺尾さんの一生懸命さは
同じようなものだったのですか。
寺尾
いや、こっちのほうが上でした。
糸井
ああ、大人なぶんだけね。
寺尾
そうです、そうです。
糸井
そうですよねぇ。
<つづきます>
2016-01-15