テイ・トウワとコトバで交信。
予感と予言の世界的音楽家は語る。
テイさんは、デビューアルバムを
500万枚売ってしまった男だ。
500万というのは、
宇多田ヒカルばかりが到達した数字ではない。
世界の音楽市場というのは、途方もなく広いのだ。

カリスマという言葉が
流行語の寿命を終えてしまってからも
「テイ・トウワ」というカリスマは生きている。
世界のクラブに嵐を投げ込むことも、
ヘッドホンの先に快感を発射することも、
まるで魔法のように思えるけれど、
テイさんにとっては、それが仕事で、それが生活だ。

この人を、もっと知りたいと、ぼくは思った。
テイ・トウワという音楽の魔法使いを。

(※別の用事で鼠穴に来てくれた
  テイ・トウワさんとdarlingの雑談のごく一部を、
  おもしろかったのでお届けしているところです)
糸井 テイさんと話してると、おもしろいなあ。
他の人に誰にも似てないってところがある。

最初の最初、デビューっていつ頃だったんだろう?
ぼくらが知ったのって、そんなに昔じゃないんだけど。
テイ ぼくも音楽をやってキャリアが10年になるけど、
いちばん売れたのは「ディーライト」という
バンドをしていた時にはじめに出したもので、
それは500万枚くらい売れました。
それまで誰も知らないような状態から、
ぼくが好きだと思っているミュージシャンが
全員ぼくのCDを持ってくれたりして・・・。
それはほんとに、運というか縁で。

パンと出てきた、ってよく言われるけど、
パン、とは出ていないんです。
それでデビューするまでに3年間、
ほんとうに地味にやっていて、
その間はニューヨークにいても、
ほとんど収入のない
プータローのレベルだったわけだし・・・。

でも、売れるだろうという感じは、
あったんですよ。

クラブで、ピークタイムに
かかる曲って、あるじゃないですか。
「これで思い出を作ろうね」っていうような。
ぼくはディーライトで作っていた曲を、
はやくアナログ版にしてまわして欲しかったんです。
そこでレーベルともめて時間がかかったけど。

そのアナログがあれば、俺は
自分の曲をピークタイムでかけるし、
その場にいる全員を踊らせる自信はありましたよ。
それに、他のDJも、ピークタイムには
この曲にするだろうなあという自信もあった。

・・・ということは、ビルボードの
ダンスチャートの1位は取れるわけで。
そういう意味では自信がありました。
だから、売り上げは、じわじわ来ていて、
ポップチャートでも、最初は90何位だったんですけど、
アメリカでは4位、イギリスでは1位になって。

なんか、女の子が追いかけてくるじゃないですか。
レインボーのタオルを持って、
「トウワー!」って追いかけてきた時は、
ああ、そうなったんだな、と思いました。
糸井 おもしろいなあ。その風景。
テイ そういう経験は、自分のキャリアの中でも
すごい得だなあとは思いますよ。
500万枚売ったことは自信にはなっています。
最初から自己プロデュースをさせてもらったし。

でも、いきなりバーンと売れてしまったから、
ビルドアップはできなかったですね。
次は武道館だ!とかそういうのはなくて、
いきなり15万人を前にしてコンサートだから。
だから逆に言えば、バンドとしては
ディーライトは長くなかったし・・・。
糸井 その話って、他では
テイさん、あんまりしていませんよね?
テイ はい、してないですよ〜。
糸井 おもしろいなあ。
それ、本にしたいよ。
テイさん、なんか、エーちゃんみたいなところ感じるね。
テイ それ、友達に言われたことあります。
糸井 何かに寄りかかって任せておけばいいっていうこと、
一度も思ったことのない種類の人なんですよ、
ふたりとも。
他者依存のない体質っていうか、
そういうところが、似てるかもしれない。
テイ 半ば疑心暗鬼かもしれないけど、
それは、いちばんいい仕事をしたいからなんです。
自分でも人を信頼をしたいから、
信頼できるものを作りたいなあ、っていうか。
だからけっこうきついことも言うけど、
それは当然なんです。
糸井 英語は、よくできたんだ?
テイ いやあ、ニューヨークにいって、
はじめの頃は、
それがぜんぜんしゃべれなくて。

でも、言葉は通じにくいし、まあ、
英語が下手なうざい奴だったとは思うけど、
機械のことに関してはいちばん知識があるし、
ぼくのテクニックを必要としている人はいたから、
みんながわからないことがあると、
"Wait a minute! "
と言って、ゆっくり話していくと、
ぼくの言うことを聞いてくれるというか・・・。
糸井 かっこいいねー。
優秀なゲームのプログラマーは、
早くて美しいプログラムを書きさえすれば、
言葉が通じなくても海外で尊敬されて、
人と仲良くもなれる、って聞いたことがあるけど。
それが、音楽の世界であったんだ。
テイ はい。
ぼくの作っているものが、
キュートではあったけど、これから
よくなるかなと感じてくれたから、
みんなも、いろいろ手伝っているうちに、
一緒にやろう、とぼくに言ったんだと思うんです。
だから、徐々に、いろいろなところから
声がかかるようになりました。

一緒にやるとだんだん喋れるようになるから、
今はビジネストークくらいまでは、できますよ。
糸井 そういう話のひとつひとつが、
すごいおもしろいんですよ。

そういうようなものを、
具体的に、時系列で流れを
本で読んでみたいなあって、いま思ったよ。
500万枚売れて
突然に大ステージにあがっちゃってからも、
きっと、いっぱいドラマがあるでしょう?
テイ みんなにとってぼくが絶頂にあったと
思っていた時期に、
ぼくはステージから落ちていますから。
15万人の目の前で・・・。
糸井 派手だなぁ、絶頂の時に、文字通りの墜落か。
そういう派手さも、運だよね。
テイ MTVニュースで、ぼくが
ステージから落ちるニュースがやってましたが、
その時からですもん、精神世界のことについて、
ぼくがロボットとかキャバクラとかに興味を持つように
並行して興味を持つようになったのは。

からだが言うことを聞かない、
という現実があったので。
「誰でもいいから治してくれ!
 金ならいくらでもあるから・・・」
そういう状況でした。

だから、500万枚売れて儲かったお金は
すべてがマッサージになるくらいまでやりました。
やっぱり一回、ゼロになっています。
糸井 すごいマッサージ!(笑)。
道のりを聞いているだけで勇気が出てきますよね。
話の内容は、絶対にふつうにはできない、
テイさんの超個人的なものでありながら、
全員が何かを感じとれるかもしれない話だから。

ぼく、すごいもの持ってる人を見ていると、
いい感じで大失敗するといいなあ、と思うんです。
立ち上がることのできない人には、
神様は大失敗をさせないんですよね。

だからテイさんもきっと、
失敗したって平気だと思っているから
そうなったんじゃないかなあ。
テイ そうですね・・・。お金がない時から、
お金はあとからついてくると思っていたし。

ステージから落ちた当時、
それだけ売れていたから、
やっぱり、ぼくらのことで
メシを食べているスタッフが
かなり多くなってきていた時期なんですよ。
大所帯になっていて。

だから、ある意味、あの時
ぼくがステージから落ちていなければ、
ずっとおなじようなことを
やりつづけなければいけなかったかも。
事故でもなければ、
「もう、辞めます」
とは、言えない状態だったから。

よく友達に言われるけど、
「落ちたんじゃなくて、飛び降りたんじゃない?」
というのは、もしかしたら、どこかのところで
自分でも、そうだったのかもしれないなあ、
と思う時がありますよ・・・。


(雑談の一部の抜粋は、こんなところです。
 またテイさんの言葉を、別のかたちで
 聞けることを、楽しみにしていてくださいね)
テイ・トウワさんのホームページはこちら!
http://www.towatei.com/

2001-02-20-TUE

※テイ・トウワさんとdarlingが雑談をしていたら、
 かなり盛り上がったので、その一部を、
 ほぼ日に掲載することになりました。

 何か、新しいコラボレーションの予感があります。
 テイ・トウワと「ほぼ日」のdarlingで、
 どんなことが起こるのだろう?
 見当もつかないけれど、
 その分だけ期待も大きくなります。

 今日から2回だけの短期連載ですが、
 どんな話がされていたか、ちょっとさわりを紹介します。


(鼠穴の会議室にて。
この前に2時間くらいの対話があった)
テイ ぼくは、若い頃にはもう少し、
「自分のことを人はどう思っているかな?」
と考えていたんだけど、そういうところは
今は、タフになったなあとは思います。
子どもができたりしていくうちに・・・。

色々嫌なこともあったりしたけれども、
時間が解決したというか、平気という感じで。
糸井 「タフになった」というのは、わかるなぁ。

若い時って、何でも自分で
解決できるかもしれないと思っているから、
やらなきゃいけない問題が増えるんですよね。

でも、おとなになってくると、
「こりゃ、今日中にはできっこないなあ」
と、だんだん、わかるようになるじゃないですか。

タフになるというのは、他の言葉で言うと、
「自分にできないことがある」
と感じたうえで自分の仕事を
プロデュースをできることなんだろうなあ。
それが、おとなになることなんだと思います。

若い頃はそこで自分の力を過信してしまうから、
あのこともこのことも、ぜんぶ
自分がやらなきゃいけないと思って、
ぜんぶをひとりでやろうとするから、
常に10題くらいの問題が
頭をぐるぐるまわっていて、
結局ひとつも解決できない、というか。

でも実際には、ある種、自分の全能感を
あきらめたときに、解決したりする。
テイ 別の言葉でいうと、そうなるのは
「集中力がなくなった」とも言われますけどね。
糸井 そうですよね。
でも、集中力って、
きっと、あればあるほどダメなんですよ。
弛緩しているくらいのほうがいいと思う。

例えば、運転する時って、
教習所で習いはじめの人は、
絶対に一点しかものを見られないじゃない?
そんなような状態が、おとなになるに従って、
はじっこにあるものがどうなのかを
見えるようになってくるというか・・・。
そんな感じは、俺は若い頃から
わかっていたんですよ。

でも、そう気づいてたけど、当時そういう感覚は、
社会では欠点にも見られていて・・・・。
「集中していないなあ」
「おまえ、本気でやれよ」
って、よく言われてたんです。
でも、集中すると、できないんだって!
テイ 20代の頃のぼくは、
みんなをスタジオでさんざん待たせて
「これでもないあれでもない!」って、
シンバルとかの音だけで、
2時間くらいかけていましたからね。

今聴くと、それは
「こだわっていたんだなあ」
と思う程度です・・・。

そういう変な集中力とか
こだわりのようなものは、
最近は、なくなってきたかなあ、と思います。
糸井 若い頃って、枝葉のところを
じっと見ていたくなるんだよね。
優先順位のつけかたも、下手かもしれない。
枝葉のことで、泣きたくなったりするもん。
シンバルひとつで死にたくなるかもしれないし、
おもしろいなあ。

横目で何かを見るって、いいですよね。
インターネットって、横目に何も入らないんですよ。
テレビでも、他のことをしながら、
大事そうな時にはパッと見られますよね。
本も、右端を読んでいる時に、同時に
左のほうも視界に入っているじゃないですか。
それがいいことなんだと思うんです。
だけど、インターネットの中では、
今のところ、まだ、ひとつずつしか
何かを追求できなくなっているような・・・
だから、ぼんやりとした全体像を
つかむことができないんです。

それを、インターネットでもできたらおもしろいよなあ、
と思っているんですよ。

集中してみてもらえるようなものだけを
作っている限りは、送り手側、作り手側の
都合とか論理だけで動いちゃってますよね。
でも、受け手は、集中なんてできない。
受け手と送り手の両方にとってキーなのは、
きっと、不純物だとか意外な要素が入ってるとか、
どこかでリニアじゃなく見える何かが
そこに見られることなんだと思うんですよね。
そうなったら、インターネットにも
可能性が増えてくるというか・・・。

雑誌の場合は不純物が混ざっていて、
例えば、テイさんの記事があって、
そのあとクルマの広告というようになると、
それが一緒につながって仲間になるじゃない。

でも、人がインターネットを見ている時には
何かに集中しているわけだから、
バナー広告を、
同じ空気の中では見られないですよね。
頭の中で、別々のものとして処理されちゃう。

でも、ほんとは、音楽でも他のものでも、
記憶がつながって何かを見ていると言う状態が
大事なんじゃないかなあ、と思うんです。
テイ ふだんイトイさんは、
そういうことを考えているんですね。
なるほど。


(明日に、つづきます)
テイ・トウワさんのホームページはこちら!
http://www.towatei.com/

テイ・トウワさんへ激励や感想などは、
メールの表題に「テイ・トウワさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2001-02-19-MON

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