手で書くことについて ぼくらが考えたこと。
 
第5回 昔の自分が元気をくれる。
西田 ぼく、自分のやったことを書いて、
それを後で見返すという行為が、
ナルシシズムというのか、
ちょっと抵抗があるときがあるんです。
そのとき思ったことは書くけど、
後でそんなに見返す必要がないようにも
思うときがあって‥‥。
糸井 あ、それはね、見返したほうがいいです。
ぼくはものすごく見返します。
なぜかっていうと、
昔のほうが今より進んだことを
考えている場合があるんです。
西田 そうなんですか。
糸井 うん。
今、ぼくが苦しんで考えて、
「こうかな?」って書くとします。
でも、前にも同じようなことを
考えたような気がするなと思って調べてみると、
昔の自分のほうが
先に進んでいるときがあります。
ナルシシズムじゃなくて、
昔の自分と今の自分って
出っ張ったり引っ込んだりするんです。
西田 ああ、進んでるのは年齢だけで‥‥。
糸井 そう。今の考えが一番とは限らないから
後で見返すのって大事ですよ。
西田 なるほど、わかりました。
聞いてよかったです。
松浦 あの、ぼくも後で見返すほうです。
糸井 ねえ、見るでしょう?
松浦 はい。
西田 ‥‥これが人気の差なんですね(笑)。
松浦 いやいや。
あの、ぼくもやっぱり
いつも元気なわけじゃなくて、
自信を失うことはしょっちゅうあるんだけど、
そのときに自分の書いたものを見直して、
自分で自分を褒めるんです。
「え、こんないいこと書いてる」
「なんか、俺、素直だな」とか、
それで、落ち込んだ気持ちが吹き飛ぶんです。
西田 再生エネルギーみたいなものなんですね。
松浦 そう。昔の自分が
今の自分に元気をくれるんです。
糸井 たとえば、
「このラーメンは辛い!」というような
メモがあったとしますよね。
その文字の筆圧などをみて、
当時がどういう状況だったのか思い出せます。
そうすると、
「辛かった話だけじゃないな、こいつ」って
自分のことを思い出せるんです。
西田 なるほど、
自分の行為を中途半端に結論づけたけど、
本当はもっと忘れちゃっていることが
たくさんあるのを
手で書いたものから思い出せるんですね。
じゃあ、そこにちょっと
醤油のシミがついていても‥‥
糸井 いいんです。
西田 ビビッドな記憶を残しておけ、
ということですね。
たしかに、自分でワープロで書いた原稿に
あらためて赤字を入れるんですが、
思いが湧いてきて、すごくたくさん書き込む。
この赤入れの情報量ってすごいですもんね。
松浦 うん、すごい。
赤字は手書きだしね。
糸井 戦後の家庭の「家計簿」を
たくさん集めたものがあるんですが、
それを見ているだけで、
数字しか書いてないのに
すごくいろいろなものが浮かび上がってくるんです。
後で見返すからこそ、
その家計簿はおもしろい。
それでぼくは今、キャンペーンのように、
「日記がおもしろいから」って
ものすごく言っているんです。
西田 「手書きの情報量」というのが、
予想以上に大きいんですね。
糸井 タイピングだと単なる情報に
なっちゃうんだけど、
手で書くと、
そこに違う気配が出るんですよ。
西田 おもしろい!
この5年で一番、
人に説得させられた気がします。
糸井 (笑)。
さて、このあたりで、
みなさんからの質問も受けましょうか。
松浦弥太郎先生と、西田善太先生に
ご質問はありますか?
<質問> さきほど、松浦さんから
「わかったこと」と「わからないこと」の
両方を書いておくという話がありましたが、
わからないことというのは
自分が考えてもわからなかったことを書くと
いうことなんでしょうか。
松浦 ちょっと誤解を受ける言い方かもしれないですけど、
ぼくね、いろんなことを疑っているんですよ。
それは、人を信用してないってことじゃなくて、
「もっといい方法があるんじゃないかなー」と
いつも疑っているんです。
だから、「わからないこと」っていうのは
自分が疑っているということで、
そういうことを書いておきたいと思っています。
<質問> 手で書くということに
自分で責任を感じながら書くことはありますか。
Twitterでも、そのとき思ったことを
そのまま書いちゃって、
後からどうしようと思ったりしませんか。
西田 ああ、それは、Twitterで情報を流すときに、
どの結界を超えたら何が起こるかと
いうのはメディアを見ていたらわかります。
たとえば糸井さんも、
全部本音で書いていても
その責任はわかってやっています。
‥‥って勝手に言っちゃうけど。
糸井 そうですね。
今のはTwitterの場合の話だけど、
でも、「手で書くとき」って、
だいたい自分用のものですよね。
松浦 そう、自分用。
西田 自分用だと、
けっこうひどいこと書いたりしますよね。
松浦 ギリギリまで無責任です(笑)。
糸井 ほかに質問はありますか?
あれっ、そこで手を挙げているのは
あーちんじゃないですか。
彼女は「ほぼ日」で漫画を連載しているんです。
<質問> 後でペンを買おうと思っているんですけど、
普段、どんなペンを使って書いているんですか。
松浦 ぼくは鉛筆です。
鉛筆というか、いつもポケットに
入れてなきゃいけないから、
正確には、0.9ミリの芯が入った
シャーペンを使っています。
西田 「0.9ミリ」がポイントなんですね。
糸井 思った速度で書くには、
0.9ミリじゃないと割れてしまうからね。
松浦 そうなんです。
糸井 ぼくも、文房具をいろいろ試している時期なんで、
しょっちゅういろんなもので書いてますが、
心は常に鉛筆派ですね。
で、HBは薄いです。
松浦 うん、薄いですね。
糸井 だから、2B以上がいいです。
ぼくらが決めることじゃないけどね(笑)。
はい、この答えでいいでしょうか。
何か言い忘れたことはないですか。
西田 じゃあ、あの、最後にいいですか。
あるときぼくはすごく
感心したことがあったんですけど、
松浦さんのカードにはいつも、
行った場所の地図が全部書いてあるんです。
糸井 へぇー。
松浦 ぼくはね、地図を買うというのが
大きらいなんです。
西田 お、やっぱり反逆児ですね。
松浦 人が作った地図なんて信用していません(笑)。
西田 ああ、いいね。
「俺が地図だ!」と。
松浦 そう。自分で書いた地図を売ります。
西田 なるほど、
「編集とは、自分の地図を書いて売ることだ!」と。
松浦 はい、それは人生に地図を書くのと同じです。
西田 そうだ! みんなわかったか!
松浦 みなさん、地図なんて買ってちゃダメですよ!
西田 すごーい。カッコいい!
あの、みなさん、
明日出る『BRUTUS』※には
すごくいいニューヨークの地図がついているんで、
ぜひ買ってくださいね。
糸井 (笑)もういいかな。
では、そんなわけで終わります。
どうもありがとうございました。
松浦・
西田

ありがとうございました。

(3人のトークショーはこれで終わりです。
 最後まで、お読みいただきありがとうございました!)


※2013年9月2日発売の
 『BRUTUS(No.762)』のこと。

2013-10-09-WED
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