生活のたのしみ展
”かるさ”が命を守る。──mont-bell(モンベル)の根底にある考えかた 辰野勇(モンベル創業者、現・会長)×糸井重里 対談
5. 自分で作ればなんでもできる。
糸井
いま「失敗を失敗だと思ってない」
という話がありましたけど、
その考えかたって、
育った時代もあると思うんです。
たしか辰野さんとぼくは年も近いんですよね。

ぼくは23年生まれなんですけど。
辰野
ぼくは22年です。
ほとんど一緒ですね。
糸井
なにかというと、ぼくらは
戦争に負けたところで生まれた子供ですから。

現実は貧しくてみじめなんだけど、
ある意味
「あとはよくなるしかない」という
希望ばかりなんです。

ものがないことにも慣れていて
「真似事でもなんでもいいから、
近くにある道具でやりたいことをできないか」
と考えがちというか。
辰野
それは非常によくわかります。
子どものころ、
フラフープが流行ったじゃないですか。
糸井
ありました。
買えるやつがいて、それを見て
うらやましがるやつがいて、
買えないけど自分でなんとかするやつがいて。
辰野
うちは実家が寿司屋なもんですから、
ぼくはホースを曲げて作ったんです。

両端をくっつけて、
使いさしの割り箸を突っ込んで輪にして
「フラフープや!」って(笑)。
糸井
ぼくらは水道管のオヤジが
作ってくれましたね。
まぁ重かったですけど(笑)。
辰野
野球のグラブにしたって、
全部自分たちで作ったし。
糸井
布がありましたもんね。
辰野
そう、布でね。
糸井
ぼくは野球の硬球に憧れて、
靴屋さんで似たものを
作ってもらったことがありますね。

どういう構造かを一生懸命考えて、
芯はコルクで、上からゴムを
巻いてもらったんです。

結局、めっちゃくちゃに重くて、
ボールとして転がらなかったですけど。
辰野
ああー。
糸井
だけど思い返すと、あのころの自分は
「自分で作ればなんでもできる」
と信じてたと思うんです。
辰野
そうですよ。

ぼくは16歳のときに、
国語の本で岩登りの話がでてきて
ロッククライミングをはじめたんです。

だけど、お金もないし、
そもそもどうやっていいかわからない。

だからクライミングベルトも
綿のテープを買ってきて、
見よう見まねで自分で作ったんです。
糸井
雑誌や本も見ずに?
辰野
そういうものもまったくなかったですから。
だけど、落ちると死ぬじゃないですか。
死にたくないから、わからないなりに
しっかり作るんです。

いちおうロープは、売れ残ってて
店先で何年も野ざらしになっていた
バリバリの麻のロープを安く買ってきて、
それを使ってましたけど。
糸井
はぁー。
辰野
そして畳の間に寝ころがって、
ハーケン(鉤状の登山道具)を畳に刺して、
登る練習をするんです。

平らを垂直に見立てて、
カラビナを掛けて、安全ベルトを掛けて、
落ちたら
「ああーっ!」とか言いながら。
糸井
そういう遊びを。
辰野
いやいや、遊びじゃなく真剣に。
糸井
あ、真剣に。
辰野
ほかの人から見たら、何をしているんだろう、
という感じだったかもしれません。

けど、そうやって、どうすればちゃんと
留まるかをシミュレーションしてました。
岩登りをはじめたころ、ぼくは
いっしょに登る相手も、
教えてくれる人もいなくて、ひとりでしたから。
糸井
それは何歳ぐらいですか?
辰野
10代です。あとこれは二十歳すぎですけど、
ぼくはカヌーもやっていまして、
艇(ふね)がひっくり返ったときに
起き上がるための
「エスキモーロール」という技術があるんです。

これも本なんかないから、
布団の上に箒(ほうき)を持って
ひっくりかえって
「こうしたら起きれるんちゃうか」
みたいなことをしてました。
糸井
二十歳すぎであれば、
もうちょっと研究家タイプだったら
書物に行っちゃいますよね。

そこ、もう道が分かれてますね。
辰野
海外まで行けば英語の教本が
あったかもしれないです。
けど、少なくとも日本にはなかったです。
ぼくがやっていたのは
日本のカヌーの草分けみたいな時期でしたから。

あとぼくは本を読まない人で、
空を見て、雲を見て、
考えていくほうが得意なんです。
糸井
そうなんだ。
辰野
だから、自分の文章は本になって
人に読んでもらってますけど、
人の文章は読まないんです。
マニュアルもあまり読まないですね。

誰かのマニュアルを読むより、
「こうやればいいんだぞ」という方法を
自分で作りたいほうなんです。
糸井
マニュアルは便利ですけど、
みんな同じになるんですよね。

とくにいまの時代は
「何かやりたい」と思ったときに、
たとえマニュアルを読んだとしても、
いちど忘れるみたいなことをしないと
つまんないですね。
辰野
あと、ものづくりについても、
ぼくは自分の頭で考えて作って
いきたいんです。

他社の製品づくりにも興味がないです。
展示会とかも行かないですね。
見ることによるデメリットのほうが
多いですから。

だから、ただただ、
自分たちのほしいものを作っていく。
したいことをする。
そのほうが、明らかに潔いし、
わかりやすいわけですよ。

モノづくりにしても、会社経営にしても、
たぶん原点はそこだと思うんです。
(つづきます)