糸井 こういう歳になるとさ、
こう、長老みたいなふりをして、
難しいことばを言いたくなるね。
「サバを読む」とか。
糸井 そうそうそう、
そういうことを言いたい盛りなのよ。
「マニエリスムに陥る」とかね。
ははははは。
糸井 「羮に懲りて膾を吹く」とか、どうだ。
難しい漢字だね、それは。
糸井 「羮に懲りて膾を吹く
 (あつものにこりてなますをふく)」!
「羹(あつもの)」と
「膾(なます)」が難しいな。
「懲(こ)」りるところもちょっと難しい。
糸井 あの、うちのスタッフの子どもがね、
小学校に入ったばっかりのとき、
「雲」っていう漢字を
やたらに書きたがってさ。
「クモ」?
糸井 そうそう。
ある日、会社に遊びに来たとき、
ホワイトボードに四角をいっぱい書いてさ、
そこに「雲」っていう字を、
自信たっぷりに書くわけ。
うん(笑)。
糸井 で、オレに向かって、
「これ、読める?」って言うんだ。
ははははは。
糸井 わかりません、って言うと
「‥‥くもです」って教えてくれる。
あはは、かわいいね。
それは、虫の方じゃなくて、
空に浮かんでるほうね。
糸井 そうそう。
虫のほうの漢字は書けないと思う。
「蜘蛛」は難しいよね、けっこう。
糸井 うん。読めるけど、書けないよ。
そういう話でいうとね、
昔、子ども向けの雑誌で
連載を持ってたときに、
「憂鬱の『鬱』っていう字を
 書けるようになって大人を驚かせよう」
っていう企画をやったことがあってさ。
糸井 いい(笑)!
いいでしょ(笑)?
糸井 どうやるの?
ちょっと強引なんだけど、
「鬱」という字の要素を
いったんバラバラにして、
「状況」として覚えるっていうものでさ。
糸井 ほう。
「鬱」っていう漢字はね、
まず、上の部分を見ると、
「缶」っていう字が
「木」に、はさまれてる。
糸井 ああ、ああ、そうだね。
だから、その日、
キミたちはキャンプに来たんだよ。
それで、キャンプ場の林の中に入っていくと、
どうしたことでしょう。
木と木のあいだにカニ缶が
落ちてるじゃあーりませんか。
糸井 おおー(笑)。それで?
そのカニ缶をね、オカズ用に回収して、
みなさんは、屋根のあるかまどで、
ハンゴウに米を入れて
ゴハンを炊くことにしました、と。
糸井 あ、真ん中の仕切りっぽい線を
「屋根」ととらえて。
その下にある四角で囲まれた
「※」みたいな部分が、
ハンゴウでお米を炊いてるってことだね。
そうそうそう。四角のところがハンゴウなの。
で、ハンゴウの下で『ヒ』が燃えてます。
そこに風がひゅーひゅーと
吹いてきたもんだから、ヒが消えちゃった。
けっきょく、ゴハンは
生煮えになってしまいました。
缶詰はありますが、
缶切りを持ってこなかったんですね。
さぁ、どうです、ユーウツな日ですねぇ。
糸井 あーー、多少、ムリがあるけど、
なかなかいいね、その覚え方は。
でも、じつは、ダメだったんだ。
木と木のあいだに落ちてた
カニ缶の「缶」っていう字をね、
子どもは知らないんだ。
糸井 ははははは、そうか(笑)。
じゃ、「缶」を先にやればいいんだな。
えーと、「山の上に‥‥」。
糸井 「山の上に、牛みたいなものがあります」
混乱しますね。
糸井 ダメだねぇ。
オレ、「薔薇」と「麒麟」は、
何回か書けるようになろうと思って、
「よしわかった!」っていうところまで
何回かいったことがあるんだけど、
すぐ忘れちゃうんだよね。
『吾輩は猫である』みたいに。
糸井 そう、『吾輩は猫である』みたいに。
(鬱。覚えたかも。つづきます)


2010-05-31-SUN