黄昏 たそがれ 70歳と60歳と58歳が、熱海で。

糸井さんは?
糸井 ぼくは、いくつまで生きたい、ということを
自分ではっきりと考えることはないんだけど、
なにかのきっかけで、
自分がそういうふうに感じてるんだと
客観的に気づいて驚くことがあるんです。
たとえば、仮に68歳で亡くなった人がいて、
「68歳は若いよなー」と思ったとするじゃない?
ということは、自分の歳のこととして考えれば、
自分は68歳以上は生きたいんだな、
ってわかるんですよ。
赤瀬川 ああー。
そうですね。
糸井 じつは、いまの話は、ほんとうのことで、
オレ、昨日、通夜に行ってきたばかりなんです。
で、故人が68歳だった。
「わー、若いな」って、悲しかったんです。
じゃあ、オレは68歳よりも
もっと先まで生きたいんだって
思ってるということですよね。
じゃ、いくつなんだろうと考える。
そういうことがね、もっと切実に、
この先に出てくるような気がするんですよね。
うん、うん。
糸井 そういうふうに、
年齢とか、寿命について、
他人としゃべったりするうちに、
自分が何を思っているかを
はじめて知ることって多くて。
たとえば、ついこの間、
ある料理屋さんに行ったんです。
そこの板前さんというのがね、
行くたびに、太っていくんですよ。
(笑)
糸井 腕はいいんだけど、どんどん太っていく。
こっちとしてはね、ちょっと心配になるんです。
で、ある日、ほかのお客さんもいなかったので、
「ちょっと気をつけたほうが
 いいじゃないですか?
 70歳くらいまで料理したいでしょ?」
って思いつきで言ったら、その人が、
「そうですねぇ」なんて言ったんです。
その人は56歳だったから、
「70歳まで料理したいんなら、
 あと14年しかないよ?」
ってぼくは言ったんだけど、
ふと気づくと自分はその人より年上なわけ。
ってことは、70歳まで、12年しかないわけだよ。
そうだねー。
糸井 もう、びっくりしちゃって。
で、びっくりしちゃったということは、
オレは、あんまり先のことを
真剣に考えてないつもりでいたけど、
70歳までは生きたいんだ、と。
贅沢でもなんでもなく、
当たり前にそう思ってたというわけ。
そう考えると、赤瀬川さんって、
もうその歳までたどり着いてるから、
すっげーなって思うんですよ。
赤瀬川 ふふふふふ。
糸井 あと、まえに井上陽水と話していたときに、
この人はやっぱり天才だなと思ったんだけど、
「何歳まで生きたい?」っていう話が
ちょっと出たときに、彼は、
「じゃ、300歳とか?」って
ふつうに軽〜く言うんですよ。
明らかにあれは、そう思ってるんです。
そういう強い人も、世の中にはいるんですね。
「300歳とか?」って、い〜い声でさ。
はっはっはっは。
  (続きます)


2007-10-09-TUE