なぜいま『枕草子』なの? なぜいま『枕草子』なの?

ほぼ日の学校

「ぜひ、一度お話を聞きたかった!」と
糸井をはじめ、学校チームも待ち望んでいた
たらればさんによる『枕草子』の講義が
2018年10月29日(月)

浜離宮朝日ホール(小ホール)にて行われます。

清少納言の『枕草子』は
女流作家の時代と言われた平安時代に
うまれた日本最古の随筆です。
宮廷に仕えた彼女は、
日常生活や四季の自然など
ささいな瞬間を観察し、
豊かな文章表現でこの世界を切り取りました。

授業や百人一首など、みなさんも
一度は触れたことがあるはず。
ですが『枕草子』の魅力って
どんなところにあるのでしょう?
そこで今回はたらればさんに、
自己紹介もかねて、
なぜいま『枕草子』なのか
書いていただきました。
たらればさん

古典文学から漫画や政治問題まで、
さまざまなツイートで人気を得ており、
フォロワー数は13万人を超える。
本業は編集者。Twitterはこちら。

第三回
山本淳子先生のこと。

今回のイベントで登壇してくださる
山本淳子先生の紹介記事を
書かせていただくことになりました。

山本先生

11年前、書店で手にとって震えました

山本先生のご専門は、平安文学研究です。
それも紫式部と清少納言です。
わたくしが山本先生のご著書を初めて拝読したのは、
『源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり』
(朝日選書刊)です。
2007年発売ですから11年くらい前ですね。
忘れもしない、吉祥寺のジュンク堂書店で
なんとなく書棚から手にとって読んで、
ぱらぱらとめくって衝撃を受けました。
清少納言と紫式部が、
紙面から浮き上がって見えたんです。
(同時にふたりが紡いだ言葉たちが、ほかならぬ
いま自分の使っている日本語の感覚や感性に、
少しずつ宿っていることに気づき、
しばし呆然としました。)
以下、どうしてそう見えたか説明いたします。

「点」が「線」になり、「絵」になって……

まず山本先生は、
同書で『枕草子』と『源氏物語』という、
日本文学史上「双璧(そうへき)」といって
差し支えないこの両作の
「つながる道筋」を示しておられました。

え、つながるの? と
思った方もいらっしゃるでしょうか。
ええ、思いっきりつながるんです。この2作品。

梅

皆さまご存じのとおり、
日本を代表する最古の随筆『枕草子』と、
同じく日本を代表する最大の物語『源氏物語』は、
ほぼ同じ時期、同じ場所で成立した作品です。
それこそが
「一条天皇の時代(在位986年8月~1011年7月)」
であり、両作はそれぞれこの、
たったひとりの天皇の妻である藤原定子と彰子に仕えた
女房(女官)が執筆したんです。

この2作品と二人の作者(清少納言と紫式部)の関係と、
それぞれが置かれていた立場を、
山本先生の本では丁寧に解説してくれているんです。

二人の姫と二人の権力者のものがたり

『枕草子』と『源氏物語』、
清少納言と紫式部、
この両者の関係性が明らかになると、
それぞれだけを見ている時には
見えなかった姿が見えてきます。
つまり「点」が「線」になる。

すると、次に山本先生は、
読者に「絵」を見せようとしてくれます。
それが「周囲の人間関係の描写」です。

具体的に言うと、清少納言が仕えた中宮定子、
その夫である一条天皇、
兄である藤原伊周、その両親。
そしてライバルである藤原道長、
その娘である藤原彰子、またそれに仕えた紫式部。

そうした人間関係、それぞれの個性を丁寧に描写し、
それぞれがどう『枕草子』や『源氏物語』と
携わっているかが解説されてゆくと、
それぞれの「線」が意味をなす「絵」に
なってゆくんですね。

扇子

誰かが誰かのために、
何かのために、書いた文章だ。
『枕草子』にも『源氏物語』にも、
当たり前のようにそういう事情があるんですが、
そういう当たり前のことを踏まえて読むと、
慣れ親しんだ文学作品が
一気に具体的に、身近になります。

『枕草子』と『源氏物語』は、
藤原氏の権力闘争真っ只中に生まれた。
その渦中には二人の姫(定子と彰子)と
二人の権力者(一条帝と藤原道長)がいた。
そういう人間的事情が、
作品の細部に「血」を通わせるのです。

古典作品にあふれるロマンとスリル

そしてトドメに、山本先生は豊富な資料で
「時代・政治背景」を記述してゆきます。
こちらも具体的に挙げると、
山本先生が参照しているのは『日本紀略』、
『御堂関白記』、『小右記』、『権記』、
『栄花物語』、『大鏡』など。

これらは、それぞれ書いた人も書かれた思惑も違います。
しかしいずれも『枕草子』と清少納言、
『源氏物語』と紫式部が生きた同時代を
描写しているんです。
こうした豊富な記述をそれぞれ参照してゆくと、
これまで見えてきた「絵」が、
ついには「立体」になって浮かび上がってくるんです。
『スターウォーズ』のレイア姫みたいに、
清少納言や紫式部が
「いやーあのときは本当につらかった」と
喋りかけてくる(※なお効果に個人差があります)。

梅

こうした立体構造が、
山本先生のロマンチックでスリリングなタッチで
描かれてゆくんですね。
いやーすごいです。
実際、『源氏物語の時代』は多くの方に支持され、
サントリー学芸賞を受賞しています。

話を戻して、山本先生のこの
「古典文学作品を見る視線」は、
それぞれ個別の作品をより詳しく語る際に、
さらに別の局面も見せてくれます。
『源氏物語』について語った
平安人の心で「源氏物語」を読む』、
さらに『枕草子』について語った
枕草子のたくらみ』も、
どちらも入門者にもやさしい
大変読みやすく、面白い本です。
機会がありましたらぜひ読んでみてください。
そうして今回のトークもぜひ、
楽しみにしていただければと思います。
なおおそらく、
会場でいちばん楽しみにしているのは
わたくしですし!!

(たらればさんによる解説は今回までです。
次回更新は9月12日、
ほぼ日の学校長河野がつづきます。)

2018-09-10-MON

イラスト:ゴトウマサフミ
たらればさん、SNSと枕草子を語る。
1029(月)
18:00開場 18:30開演(20:30終演予定)
浜離宮朝日ホール・小ホール
(中央区築地5-3-2 朝日新聞東京本社・新館2階)

出演:
たらればさん、
山本淳子先生、河野通和(ほぼ日の学校長)
全席指定4,320円(税込)

チケットは
9月14日(金)午前11時より一般販売開始。