生活のたのしみ展

三國万里子さんが ロンドンとエジンバラで みつけたもの。 ハリネズミ店長とまりこが紹介します。 presented by 生活のたのしみ展

その
6
まりこ、ベスト1なジャケットに出会う

まりこ

このジャケット、わたしが今回出会った
洋服の中での「ベスト1」なんです。

ハリネズミ店長

ほーお?
こう言っては悪いけれど、
特に凝ったお洋服には見えないけれど。

まりこ

そうかもしれないですね。
でもね、見れば見るほど、もっと好きになってくるんですよ。

ハリネズミ店長

ふうん。
じゃあどこがそんなにいいのか、聞いてあげるわ。
言ってごらんなさいよ。

まりこ

わかりました。
これのいいところは「ひとことでは言えない」って
いうところなんです。

ハリネズミ店長

なあに、おかしなことを言うわね。
説明になっていないじゃないの。

まりこ

まあまあ、これから続きを言いますから。
あのね、パッと見た時に一瞬、このジャケットは
現代物の「ブランド古着」なんじゃないか、と思ったんです。
それくらい、今っぽいデザインに見えた。
レース素材をスポーティーなリブ編みと
組み合わせているところとか、
全体的なフォルムがコロンと立体的で、
コンパクトなところとか。
さらに、この「色」です。
ベージュの中でもぐっと人間の肌を思わせる、
オレンジ味を帯びた、ヌードっぽい色。
穏やかなようで、センシュアルで挑戦を感じさせる色ですよね。

ハリネズミ店長

たしかに言われてみると、色っぽいような気がするわね。

まりこ

わたしが好きで、
よく買う「no.21(ヌメロ・ヴェントゥーノ)」っていう
イタリアのブランドがあるんですが、
そこのテイストにすごく通じるものがあって、
昨今のコレクションの中にこれが混じっていても、
きっと違和感を感じないだろうなと思いました。
で、タグを確かめようとしてめくってみたら、そうじゃなかった。
まごうことなき「長い時間の経過」を感じさせる部分があった。
裏地が弱って、所々がパックリと裂けていました。

ハリネズミ店長

あらまあ。

まりこ

そしてこのジャケットは、大きなアンティークフェアを
駆け抜けるように回っていた時に出会ったものだから、
出店者に説明をしてもらう余裕もなくて、
時代や素材については、謎のままなんです。

ハリネズミ店長

まりこがピックアップしたものを
どさっとみちこに渡して、
みちこがお会計をしながらついてきてくれる、
という、ハードなお買い物旅だったのよね。

まりこ

はい…。
ジャケットに話を戻しますね。
この服の良さがひとことで言えないのは、
いろんな要素が組み合わさって、
その結果として立ち現れたこの「すてきさ」について
なんとか説明しようと、もがくからなんです。
もしひとことで言おうとすれば、それは
「ものの持つ雰囲気がすばらしい」っていうことだけど、
そんなんじゃ、何も言ったことにはなりませんよね。
でもジタジタともがきながら、
うまく説明できないところがいいな、とも思う。

ハリネズミ店長

ねじくれてるわね。

まりこ

わたしネクラなんです。
でもまあ、それもいいんですけど、この歳になってみれば。
あら、また話を戻さなきゃ。
着てみて「おお」、と気づいた箇所もあります。
裾の幅は35センチです。

ハリネズミ店長

随分と細身なのね。

まりこ

そう思うでしょう?
でも着るとね、リブが腰の上でいい感じに収まるんです。
コロンと丸い形なのは、裾のダーツと、
背中に一本通ったタックのおかげで、
考えられた形だな~~~って、惚れぼれしてしまいました。
そう、確信的に、
デザイナーが心の中の夢を具現化しようとして作った、
ということを感じさせるジャケットなんです。

ハリネズミ店長

なるほどねえ。

まりこ

タグにはBullock’s Wilshireという
メーカー名らしきものが刺繍されています。

裏も表も、とても仕立てが丁寧で、
まつり縫いが必要なところは手作業でなされています。

残念ながら、裏地はかなり弱ってきていて、
おもだったダメージはわたしが直しましたが、
着ているうちにまた、裂けてくるかもしれません。
そうしたら、また繕っていただくのもよし、
朽ちることを受け入れながら
着続けるのもよし、と思います。
でも、もし売れ残ったら、わたしが買いますよ。

(つづきます)

2017-11-06 MON