第7回 ひざを出すスイッチがひじにある。
糸井 陸上以外のスポーツが陸上に役立つ、
みたいなことって、あるんですか?
為末 ありますよ。
あのー、たとえば、どういうんですかね、
走るときって、こう、足が前に出るときの速度が
最高スピードに影響するんですね。
で、格闘技を観ていたときに、
すごく強いキックをする選手は、
蹴る足と同時にものすごく速く
腕を後ろに引くんだな、と思って。
糸井 ああ、右足で蹴るときには、
同時に右腕をすごく速く引く。
為末 そうです、そうです。
よく見ると、サッカーでもそうなんですね。
キックするときは、こう、
同じくらい速く、強く、腕を引く。
で、ぼくらは走るときに
足を出そう足を出そうと思ってたけど、
じつは、腕を引くということが
足を出すっていうことじゃないかと思って、
意識的に腕を引く練習をしたんです。
それで足の出というか、回転がよくなった
ということはありましたね。
糸井 腕を引く動きを回転に変えるんですか。
為末 ええ。
腕をこう、ぐっ後ろにと引っ張ると、
勝手に腰がこう回るんですよ。
そのエネルギーを使って足を出す、
というか、ひざを出すんですね。
だから、ひざを出すスイッチが、
ひざじゃなくてひじにある、みたいな。
一同 おおーー。
為末 そういうことはけっこう、あって。
糸井 それ、格闘技を見て思ったんですか。
為末 ええ。
足で蹴ってるのか、
手で引いた反動で蹴ってるのか、
っていうときに、ま、両方なんでしょうけど、
じつは、手の役割って
小さくないんじゃないかと思って。
そう考えると、黒人選手の背中って、
ものすごくでかいんですね。
やっぱり、腕を引く筋肉がついてるから。
糸井 ああー。
為末 それで、「上半身だ!」と思って
鍛えていた時期があったんですけどね。
糸井 それはうまくいったんですか。
為末 そのときは、うまくいきました。
でも、やり過ぎちゃうと、
今度は体が大きくなりすぎてしまうんです。
糸井 重くなっちゃう。
為末 ええ、バランスが悪くなってしまう。
体のバランスって、すごく大事なんです。
たとえば野球のバットって、
ひっくり返してグリップを上にして、
太いほうを持つと、
振りやすくなるじゃないですか。
根元が太くて末端が細いと振りやすいんですよ。
ところが、我々みたいなモンゴロイドって、
ふくらはぎが大きくなりがちなんで、
振りまわす先端が重たくなっちゃう。
糸井 あぁーー、うんうんうん。
為末 だから、どうやったら
「先端を細くした状態で、
 根本を大きくするか」っていうのは、
いつも考えてましたね。
糸井 こう、手足が円錐形になってるのが
理想的なんですか。
為末 そうです、そうです。
だから、いま100メートルの
決勝の選手なんか見たら、
もうみんな、ひざから下とか、
手の先はスッと細くなってる。
で、根元が太いんですよね。
あれがたぶん、一番速く、
手足を回転させられる体型なんだろうなと。
糸井 なるほど、なるほど。
為末 とはいえ、なかなか体型は変えられないので、
練習で工夫しながらやってましたけどね。
糸井 なんていうんでしょう、
それは、じぶんでおもしろいんでしょうねぇ。
為末 おもしろかったですね。
だって、なんかじぶんでF1カーつくってる
みたいな感じですからね。
糸井 そうですよね。
で、体型を練習で変えられるような
メソッドが開発されていくわけでしょ。
どっかのコーチが考えたり、
ある国ではじまったことが流行ったり、
それが流行遅れになったり。
為末 そうです、そうです。
糸井 それがまたおもしろいですよね、きっと。
為末 おもしろいですね。
たとえば、カール・ルイスって、
スタートのときに頭を起こして走ったんです。
当時はみんなそうしてたんですが、
あるコーチは、ヘッドダウンっていうんですが、
スタートしたときに頭を起こさないほうが
地面を踏むときに絶対有効なはずだって言って
ずっとそのやり方を試してたんです。
でも、陸上の世界って、やっぱり、
タレントに会わないと、
理屈が証明されないんですよ。
で、そのコーチは
モーリス・グリーンという選手に出会って、
その走り方がいいっていうことを証明して、
今度は世界中の選手たちが
スタートで頭を下げはじめたんです。
糸井 おもしろいなぁ(笑)。
為末 そういうのが、けっこう、
世界のあっちこっちで。
糸井 いまも。
為末 そうですね。
(つづきます)
2014-09-08-MON