HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

『CROSSOVER』する仕事。

──
瀧本さんがこれまでに撮影してきた
広告・CM・映画・作品を抜粋した
『CROSSOVER』は、
何というか、すごい存在感の本です。


「あー、知ってる!」という写真が
たくさん出てきますし、
何よりその「物量」に圧倒されます。
瀧本
たくさん撮りました(笑)。
──
しかも、ここに掲載されている写真は、
全作品の10%くらいだと‥‥。
瀧本
みたいですね。
──
瀧本さんは、これだけ写真を撮っていると、
似たような写真にならないよう、
苦労したりとかも、するんじゃないですか。
瀧本
ええ、ちょっと油断したら、
過去の自分の模倣になってしまいますね。


あ、こんなの前にも撮ったかも‥‥って。
──
その意味で言うと、
自分らしさを出せたはじめての写真って、
どのあたりなんでしょう。
瀧本
としまえんプール‥‥ですね。
──
即答。それは、どういう点で?

瀧本
僕は藤井保さんという写真家について
修行させていただいたんですが、
とっても個性的な写真を撮る人なので、
独立した当初は、なかなか、
師匠の「呪縛」から、抜け出せなくて。
──
ええ、なるほど。
瀧本
もちろん今でも影響は受けていますが、
「自分の写真って何だろう」と、
ずーっと、悶々と考えていたときに、
としまえんプールの仕事で、
やっと抜け出せたような感じがあって。
──
それは、独立して‥‥。
瀧本
たぶん、2年くらいだと思います。

年齢でいったら、25歳。
──
渋谷の駅に
大きく貼り出されていたポスターを
ごらんになったとき、
ご自身で「プールに行きたくなった」
というエピソードが好きです。
瀧本
生理的に、気持ちいいと思ったんです。


もう、うだるような暑さのホームに
このポスターが
バーンと貼ってあるのを見たら、
「うわぁ、冷たそう、気持ちよさそう」
と、自然に思えたんです。
──
「プール行きたい!」‥‥って。
瀧本
プール関係ないんだけど(笑)。
──
絵的には、そうですよね。


プロのモデルじゃない素人の外国の人に、
インターネットで買った消防服を着せて、
ガラスの板に
ホースで水を浴びせかけているところを、
そのガラスの裏から撮ったんですよね。
瀧本
モデルさんの気分を盛り上げるために、
この仕事のアートディレクターだった
佐野(研二郎)さんが、
撮影中ずっと、
日本語で叫び続けてくれたんです。
──
沖縄の暑い日差しの中、日本語で絶叫。


外国人のモデルさんたち、
意味は、わかったんでしょうか(笑)。
瀧本
伝わるものはきっとあったと思います。

なにせ、一生懸命だったから(笑)。

当時の瀧本さん。25歳くらい。記念写真を撮るほど嬉しかった。(写真提供:瀧本幹也)

──
こちらも一見、
何の変哲もない写真かのように見えて、
たしか、
スポットライトを「描いて」ますよね。


床と壁に。

瀧本
アパレルブランドの
UNITED ARROWS green label relaxing
の広告ですね。


ブランドのロゴが「葉っぱ」型なので、
スポットライトを、そのかたちにしたくて。
──
描いた。
瀧本
最初は本物のスポットライトを当てて
撮ろうとしたんですが、硬い光だと、
洋服をうまく見せられなかったんです。


アパレルの広告なので、
洋服をきれいに見せることは必須です。

そのうえで、スポットライトを
「葉っぱのかたち」にするために‥‥。
──
描いちゃえばいい、と。
瀧本
まず洋服がきれいに見える光をつくって、
スポットライト自体は、
カメラで撮ったときにこう見えるように、
床と壁に描いたんです。
──
で、その手描きスポットライトのなかに、
モデルさんを立たせた‥‥。
瀧本
葉っぱ型スポットライトを実現するのと、
洋服をきれいに写すこと。


両方が「マスト」だったので、
両方を成立させるにはどうしたらいいか、
というところからの発想です。
──
言われないと気づかないと思いますが、
でも、現実には、
こんなスポットライトは、ありえない。
瀧本
だから、違和感は残ると思います。
──
その違和感こそが、
見る人の心に引っかかる要因ですね。


違和感の正体はわからないんだけど、
なんとなく
何かが隠されているような気がする‥‥
みたいな。
瀧本
違和感とは少し違うかもしれませんが、
サントリーの「ゼロの頂点」という
缶コーヒーの広告写真では、
映画的な撮影方法で撮っているんです。
──
あ、松本幸四郎さんと松たか子さんが
父娘で出演されていた広告。

瀧本
あのときは、実際に物語をつくって、
おふたりにセリフを言ってもらって‥‥
ようするに、
演技してもらって、撮影したんです。
──
写真にセリフは写らないのに。
瀧本
セリフを言ってる表情が、写るので。
──
ああ‥‥なるほど。
瀧本
パート1では政治家と新聞記者、かな。


パート2では、
松さんがファッションデザイナー役で、
個性的な服をつくっていて、
商売敵かなんかの松本さんに対して
「あなたのつくる服は嘘よ!」
みたいなことを、言ってたような気が。
──
役者さんだから、
「役柄」と「セリフ」を与えられたら、
その顔になる‥‥んですね。
瀧本
映画の一コマようにしたかったんです。


それには、
実際に演じてもらうのが一番ですから。

──
なるほど。ねらいどおり、
まさに映画っぽい雰囲気になってます。
瀧本
ここからは
非常にマニアックな話になりますが、
そうするために、フィルムも、
ネガで撮って、
一回、映画用ポジに起こして、
そのポジからさらにネガに起こして、
最後にもう一回ポジに起こしてます。
──
えっと‥‥よくわからないのですが、
ややこしすぎませんか、それ(笑)。
瀧本
そのような工程を経ることによって、
写真のトーンが、
まるで昔の映画のようになるんです。


映画の現像の職人さんにお願いして、
やってもらったんですけど。
──
はー‥‥。
瀧本
これは、映画をやらせてもらったり、
CMのお仕事で
映像フィルムの知識があったので、
そっちの技術や経験を、
広告写真に応用してみたケースです。
──
先ほどおっしゃっていた、
自分のなかの往復で生まれたお仕事、
ということですね。
瀧本
はい。そうやって
ジャンルを跨いでやってきたことが、
新しい表現やアイディアに
つながるようなこともよくあるので、
『CROSSOVER』
というタイトルの本に、したんです。

(つづきます)2018-08-04-SAT