武田双雲ー糸井重里 HOME 言葉について、書について、 「いつでも帰ってこれる場所」について


第7回 いつでも帰ってこれる場所
糸井 まわりからは、けっこう叩かれる?
武田 ええ。
糸井 なんでだろう?
武田 これまでの書道界には、
ぼくみたいに
人目につくようなことをやってる人って、
あまり、いなかったんですよ。
糸井 でしょうね。
武田 だから、叩いている人たちからしてみたら、
脈々と紡がれた「書」の歴史を、
自由の名のもとに
土足で踏みつけている男なんです、ぼくは。
糸井 でも、武田双雲の影響で
書道をはじめたという人たちだって
たくさん、いるんでしょう?
武田 ええ、それはけっこう、いると思います。

ぼくの番組を観てくれた子どもたちが、
あこがれを持って、
書道教室に通いはじめてくれたりとか。

でも、彼らの教室の先生は‥‥。

ぼくの「書」と、真逆のことをやってる。
糸井 ああ‥‥。
武田 母であり、師匠でもある武田双葉の書さえ、
完全に裏切ってるわけです。
糸井 それはつまり、同時に「楷書」を裏切ってる‥‥
という意識?
武田 ええ、そうかもしれません。

なにしろ、書道界というところは
個展をやることさえ、容易に許されない世界。
糸井 そんな世界にいながら、フジロックに出たり。
武田 「書とはこうだ」という基本的な技術もそうだし、
「‥‥してはならない」という「べからず」でさえ、
「楽しい」という言葉で、
乱暴に、越えてきちゃったんですね、ぼくは。
糸井 なるほどね。
武田 書道界をつぶしたいと思ってるわけでもないし、
ましてや
革命を起こす気なんて、さらさらないんだけど。
糸井 うん。
武田 だから、自分が好きなようにやってきたことで、
意図してはいないんだけど、
誰かを傷つけたり、
イヤな気持ちにさせてしまっていたとしたら‥‥
それはホントに、落ち込むんですよ。
糸井 ‥‥ま、そういう「借金」は、
とりあえず、踏み倒しておいてもいいと思うよ。

だってさ、「いまの武田双雲」にしか
できないことって、絶対あるわけだから。
武田 そう‥‥ですか?
糸井 ぼくが、よく言うセリフでさ、
「昔の自分に会ったら説教してやりたい」
というのがあるんです。
武田 糸井さんも、昔の糸井さんに、説教したい?
糸井 いや、もう、説教だらけですよ。

自分で自分のことを「バカ!」って
言ってやりたいことなんて、山ほどある。
武田 へぇ‥‥。
糸井 そういう、あっちこっちにつくった
精神的な「借金」を、
踏み倒してた感じですよね、若いころは。
武田 その「借金」は、どうしたんですか?
返済できたんですか?
糸井 それはね‥‥オレの場合、
40歳を過ぎてから、急に回ってきたんです。

‥‥請求書が。
武田 うわー‥‥それって「ツケ」ってやつ?

いやだ、いやだ、いやだ!
40歳になんてなりたくない‥‥(笑)。
糸井 ぜんぶ、支払うことになりますよ。
武田 でも、糸井さんの20代、30代は
ふつうよりも、とくに強烈だったろうから‥‥。
糸井 いや、みんなそうですよ、きっと。
武田 ‥‥ほんとですか?
糸井 でもまぁ、請求書がまわってきたときには
支払えるようになってるんですけどね。
武田 ああ、支払い能力があるんだ!
そのときの、ぼくには。
糸井 ある。
武田 支払えるんだったら‥‥借金しとこうかな。
糸井 うん。
武田 借金しても支払えるんだったら気持ちがいいし、
なにしろ、楽しいですもんね。

借金の量って、多ければ多いほど。たぶん。
糸井 うん。あらゆる批判やバッシングのなかで、
いちばんこまるのは
「ヘタ」って言われることだと思うんです。
武田 ヘタ‥‥ですか。
糸井 「武田双雲は、けしからん」とか
「ヘンなことばっかりしやがって」なんて批判よりも、
「オレのほうがうまいぜ」っていう人のほうが
こまっちゃいませんか?
武田 でも、そういう人、いっぱいいますけど‥‥。
糸井 その「オレのほうがうまいぜ」に対しては
「いや、やっぱりオレのほうがうまい」という信念を
しっかり持ってないと「借金」にさえならない。

たぶん、そこが重要なんじゃないかな。
武田 それは「自信を持て」ということですか?
糸井 うーん‥‥自信の土台になる技術というか。

ヤドカリで言ったら
貝の部分にあたるもの‥‥というかね。
武田 ホーム‥‥ですか。
糸井 そう、ホーム。
武田 自分自身のよりどころ。
糸井 いつでも帰ってこれる場所だね。
武田 そこがあるとないのとでは‥‥。
糸井 一例にすぎないけど、ひとつには
「ジャッジできるようになる」んだと思う。

その場所さえ「軸」にしておけば、
なにかを判断するときに、
「自分自身をひいきめに見ないジャッジ」が
できるようになってくるんです。
武田 はぁー‥‥。
糸井 そのとき、あるていど「大丈夫かな」って
思うことができるんじゃないかな。
武田 ぼくにとっての「ホーム」って‥‥
ああ、そうか、そうか。

今日、いちばんはじめに言ってくれてたのは
このことだったんですね‥‥って今わかった。
糸井 ん?
武田 ぼくが「母親からいただいたもの」が、
ぼくにとっての「ホーム」なんだって。
糸井 うん、そうそう。つまり「楷書」だよね。
武田さんの「ホーム」は。
武田 楷書の技術をもっともっと鍛えることで、
「武田双雲の書」に、
もっともっと自信を持てるようなるんだ‥‥。

ありがたい言葉、ありがとうございます。

<つづきます>

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2008-12-30-TUE

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