絵本『生きているのはなぜだろう。』
発売記念インタビュー
コンセプトアーティスト
田島光二さん
ふつうの絵を描いていた少年が、ルーカスフィルムに呼ばれてハリウッドで活躍するまでの話。

ほぼ日の絵本プロジェクト第二弾
『生きているのはなぜだろう。』の作画は、
カナダ在住の田島光二さんです。
ハリウッドの映画業界で活躍する
コンセプトアーティストの田島さんは、
『ブレードランナー2049』『ヴェノム』など、
VFX技術をつかった最新作品の多くに関わる
若手トップアーティストのひとり。
ポケモンやワンピースの絵を描き、
マンガ家に憧れていた日本の少年は、
いかにしてハリウッドで活躍する
コンセプトアーティストになっていったのか? 
絵本の発売を記念して、
たっぷりとインタビューしました。

(取材・永田泰大 編集・稲崎吾郎)

第7回成功の理由

──田島さんは、学校を卒業したあと、
どういう経緯でいまに至るんですか。
いきなり海外に出たわけじゃないですよね。

田島最初は日本の会社に入りました。
当時、アメリカで働くには、
3年の実務経験が必要だったんです。
だから3年はそこで働くつもりでした。
でも、実際は9ヶ月くらい働いたあとで
海外に行っちゃったけど。

──ルーカスフィルムに入ったのは最近ですよね。

田島最初はイギリスに本社がある
VFX(視覚効果)の制作会社に入りました。
職場はシンガポールでしたけど。

──そこでの経験が活きて、ルーカスフィルムに?

田島そうですね。でも、じつは学生のとき、
ルーカスフィルムのアーティストから直接
「うちに来ない?」という連絡があったんです。

──えっ、それはCGの学校に通ってたとき?

田島そうです。
ちょうど「オオカミ男」をつくったあと。

──じゃあ、19歳じゃないですか!

田島そう(笑)。
ルーカス所属のアーティストが、
ぼくの作品をSNSで見てくれて
「いま人を探してるけど、キミ来る?」ってメールで。

──夢みたいな展開だ。

田島でも、そのとき英語がぜんぜんできなくて、
そのメールも何が書いてあるかわからなくて、
学校の先生に読んでもらったくらいだったので。
それで向こうも
「英語ができなかったら難しいね」という感じで、
そのまま話が流れちゃって‥‥。

──それは、悔しいね!

田島めちゃめちゃ悔しかったですね! 
そこでまた火がついて、
「とにかく英語を勉強しよう」って。

──パラメーターの欠けに気づいたんだ。

田島はい。
そこからめちゃめちゃ勉強しました。
英語で日記を書いたり、
日本にいる外国人と知り合いになったり。
英語教室にも通ったんですけど、
そこはシャイな子ばっかりで、
ぼくがずっと先生に話しかけてたら
「田島くんは、ちょっと待ってて」
みたいになったのでやめました(笑)。

──はははは。
話を聞いてると田島さんって、
やると決めたときに「照れ」がないよね。
その英会話のこともそうだし、
学校でも他のクラスの課題まで提出したり。

田島照れは、ないです。

──努力とか、
制作途中の苦労を見せるのがイヤって人、
わりといるじゃないですか。

田島ああ、いますね。
ぼくは、途中でもぜんぜん見せます。
見せて、すぐアドバイスを求めます。
実家にいたときも、
ずっとお母さんに作品を見せてました。
やっぱり自分で客観視するのって、
限界があると思うので。

──全体的に、そのあたりがオープンだよね。
それがプラスにつながってる。

田島たぶん、あまり自信がないものだと、
ぼくも照れると思うんです。
でも、絵に関してはなぜか自信があったので。

──なるほど。
そろそろ時間がなくなってきたので、
最後の質問をひとつ。
というか、おんなじ質問ですけど。

田島はい(笑)。

──なぜ田島さんは、成功できたんだろう。
ハリウッドで活躍するようになれたんだろう。
いままでと同じことを言ってもいいし、
ぜんぜん違う切り口でもいいので、
自由に語ってもらえますか。

田島なんだろうな、うーん‥‥。
みんなには、不安なことがありますよね。
たとえばCGを学ぶにしても、
海外へ行こうとするとしても、
「こうなっちゃうんじゃないか」みたいな。
やりたいけど、どうしよう、みたいな。

──ああ、はい。

田島でも、やりたいことだからやるしかない。
というか、なんか、その、
やらないっていう選択肢がぼくにはないんです。

──あーー。

田島たとえば海外の会社で働くことについて
「不安はありませんでしたか?」
とか訊かれるんですけど、それはありますよ。
でも、やらないという選択肢はない。
やらなきゃいけない。
だから、とにかくやってみる。
あと、ネガティブな情報を遮断するっていうのは、
たぶん訓練でできる気がします。
言い方は悪いですけど、ちょっとバカになるというか。
それと、やっぱり、何度も言いますけど、
危機感ですね。

──ああ、はい。

田島いまの学生の人たちと話していると、
やっぱり「危機感が薄いなぁ」とは思う。

──つまり、その状況だったら、
もっと危機感があるべきだろうというような。

田島危機感があるべきというより、
危機感があったらもっとうまくなると思うんです。
ほんとうは危機感なんかなくても、
たのしくやれるならそれがいちばんです。
でも、落ち込んだり、どうしてもできない
みたいなことはあるわけで、
そういうときにはやっぱり危機感が必要だと思う。

──だとすると、環境に恵まれている人って、
ちょっと不利かもしれないですね。

田島そう思いますよ。
恵まれてないほうがチャンス。
危機感が持てるから。
だって振り返って考えたら、ぼく、
なにも恵まれてなかったんで。環境も、才能も。
恵まれているのは身長だけ。

──絵には身長必要ないからね(笑)。

田島まったく関係ない(笑)。
あ、でも、ぼく、恵まれてたのは、
まわりの人がみんないい人だったんですよ。

──いい人?

田島学校にいたときも、最初に就職した職場も、
まわりがみんないい人だったんです。
最初の海外の上司も、
なんにも知らないぼくのことを、
ほんといろいろとサポートしてくれたし。

──いい人に恵まれやすいんだ。

田島そういう運のよさはありますね。

──それはさ、田島さんがまわりの人にとって、
いい人だったというのもあるんじゃない?

田島ああ、いや、どうだろう、わかんない(笑)。
でも、絶対戻りたくないと思ったバイト先にも
いい人はいて、助けてくれたりもしたし。
なんか、そういう意味では運も大きいというか、
いい人に巡り会えた運というのはあると思います。

──ありがとうございました。
ちょうど時間になったようです。

田島こんな感じで大丈夫でした?

──すっごくおもしろかったです。
また機会があったら、
あらためて取材させてください。
聞きたいことがまだまだある(笑)。

田島もちろんです。
ありがとうございました。

──ありがとうございました。
絵本のほうも、
引きつづきよろしくお願いします。

田島はい!