HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN × ORIX Buffaloes
		野球の人・田口壮の新章 はじめての二軍監督
6 トレーナーからの報告

インフル禍に揺れるオリックスにおいて、
トレーナーからの突然の電話ほど
怖いものはありません。
朝鳴り響く僕の携帯。
(うわっ、またインフルかっ!)
とおそるおそる電話に出ると‥‥。

ザッザッザッザッ‥‥

「本人が知らぬ間に、
 携帯をポケットに入れたまま
 うっかりリダイヤルを押して歩いてる」音が
聞こえてくるではありませんか。
佐々木トレーナーは、
毎日僕に状況報告のために電話をくれます。
だから、このリダイヤルも仕方ないよなあ、
と思っていたその1時間後。

今度は目を離したすきに、
着信ではなく留守番電話が入っていたのです。
(これはいくらなんでも何かあったやろ!)
と焦りながら再生すると‥‥。

ザッザッザッザッザッ‥‥

が、延々聞こえてきました。
佐々木トレーナーの力強いあゆみを、
2分25秒堪能しました。

ということで、トレーナーとは大変な仕事なのです。

試合前の練習時には、トレーナー報告が行われます。
チーム内での怪我人やその治療経過など、
監督コーチが把握しておくべきことを、
トレーナーがミーティングの場で報告するのです。

「本日3月4日!」
怪我人が出てはいないか、
現在の選手の状況はどうか、など、緊迫する一瞬。
佐々木トレーナーが、神妙な顔で語り始めます。
「3月4日は、バウムクーヘンの日です!」

はい?
聞き間違いかと、コーチたちが真顔になりました。
報告は続きます。

「3月4日は、広島において、
 日本で初めてバウムクーヘンが発表されました」
「‥‥トレーナー、報告以上?」
「以上です!」

甘いものが大好きで、
とりわけバウムクーヘンには
一家言ある僕としては、その時、
「待て! バウムクーヘンを売り出した最初は
 神戸のユーハイムや!」と
叫ばずにはいられなかったのです。
しかしトレーナーサイドは、
バウムクーヘン日本発祥の地が広島だと譲りません。
結局そのまま練習に入り、
もやもやした気持ちを抱えたまま、
試合直前の時を迎えたのでした。

まさにその時。

「監督、バウムクーヘンを日本で最初に焼いたのは、
 戦犯を抱えていた当時の広島みたいですが、
 製品として売り出したのは、
 ユーハイムが最初みたいです」
生真面目な佐々木トレーナーは、
選手の体調に気を配る一方で、
そんな行き違いにも
ちゃんと答えを探し続けてくれたのでした。
「そうか! なら、コーチ集合や!」

なんと初めての試合前緊急ミーティングです。
収集を受けたコーチ陣の顔が
(なんやなんや)(なにがあったんや)
と不安を語っています。
全員集合ののち、僕が音頭をとりました。
「佐々木トレーナー、では」
「はい。朝のミーティングで、
 バウムクーヘンは広島が最初と申し上げましたが、
 実際に製品化したのは
 監督がおっしゃったとおり、ユーハイムでした」

ミーティング、以上。
こういう疑問が解決するのは気持ちいいものです。
たとえ裏で「うんちくちゃん」とか
呼ばれているかもしれなくたって。

以来、2軍のトレーナー報告では
「今日は何の日」がちょっとしたブームです。

いまだから、シーズン開始前だから、
こうやって僕たちは一見アホな会話で
お互いのつながりを固めつつあります。
病人が出ても気持ちが暗くならぬよう、
トレーナーも日々の報告に
メリハリをつけてくれるのです。

開幕したら最後、誰しも余裕がなくなって、
冗談のひとつも言えなくなってしまうかもしれませんが、
縁あって仲間となったスタッフそして選手たち。
僕は彼らとともに、
目いっぱい野球の怖さと楽しさを
味わいたいと思っています。


3月13日 壮



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