HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN × ORIX Buffaloes
		野球の人・田口壮の新章 はじめての二軍監督
02 監督だから早く食べる/

宮崎県からほぼにちは。
早くも全国津々浦々、
海外の皆様からもたくさんのメールをいただいて、
感激している田口です。

何事も開始直後はばたつくもので、
朝早くから遅くまで出っぱなしの昨日今日、
ホテルの部屋でくつろぐ瞬間はなく、すでに寝不足気味。
それだけに、メールを拝読し、
明日へのパワーを充填できました。
本当にありがとうございます。

さて、いよいよキャンプが始まった本日、
僕は売れっ子芸能人の気分でした。
といっても、ラブレターを渡されたり、
うちわで応援されているわけではありません。
ただ、100メートル離れた場所へでも、
車で移動しているだけのこと。
ちょっとアイドルみたいでしょ?
しかしその理由は単に、初日が雨だったからなのでした。

予定されていたグラウンドが使用できず、
室内練習場やブルペンなど、
選手の居場所が四方八方にばらけてしまったのです。
見たい選手は山ほどいるのに、
てくてく歩いていると練習を見逃してしまいますから、
球団の車に「乗せてってー!」となるわけです。
それ以外はもっぱら小走りか、本気のダッシュ。
ふくらはぎに違和感をおぼえそうな予感に怯えています。

今年から一軍と二軍のグラウンドは、お隣同士になりました。
二軍の選手にとっては、
目標とするものがすぐ視界に入るだけに、
(あの場所とったる)
と、気合の入り具合も違ってきます。
また、一軍の選手に、同じく目の前にある二軍の状況を見て、
(うわ、負けてられへん)
と思わせるのも僕たちの仕事です。
他のチームでは決して珍しくなかった「隣で刺激」も、
僕の知っている限り、オリックスでは初めてのこと。
めいっぱい一軍の選手たちを焦らせてみたいと思います。

また、監督やコーチなど、いわゆる上司が変わると、
意外な抜擢や起用が行われたりするもの。
「俺にチャンスが来るのでは?」と気合が入るのは、
サラリーマンの世界でも同じなのでしょうか?
そんな選手たちの期待も
びりびり感じつつのキャンプインです。

ところで二軍宿舎での朝食会場にて、
うれしいハプニングがありました。
ビュッフェ形式の食事をとるため、
監督、コーチは同じテーブルにつくのが慣例。
そして、監督が席を立つまで、
コーチたちは食事を終えていても、
じっと我慢でその場に座っているのが、
日本の野球界ではよくあることです。
しかし本日、一応監督の僕がまだ食べている最中に、
「お先っスー」
と席を立ったのは、
「前ちゃん」こと前田大輔二軍バッテリーコーチ。
気心知れた昔なじみですから、
彼の中では僕が監督だという意識がほぼないのでしょう。
「なあ、俺、やっぱり威厳がないんかいな‥‥?」
と、恨みがましい顔でじめじめ言ってみたところ、
「うわあっ、すんませーんッ!」
と焦りまくりです。

いやいやいや、冗談やんか!
むしろそんなふうに、いつも通りに、
これからも気軽な気持ちでいてほしいのは、
前田コーチ以外の全員にもお願いしたいこと。
今朝は前田コーチが図らずも、
身をていして問題提起をしてくれたのでした。
大きな部分での規律は確かに大切。
けれど、立場に縛られて
お互いが言いたいことも言えなくなったり、
変に緊迫していると、風通しはどんどん悪くなります。
これは選手と監督の間でも一緒です。

よく「指導者としてアメリカ流を持ち込みますか」
と聞かれますが、新人の僕にはまだわかりません。
日本の野球には日本のやり方があり、
アメリカがすべてでもベストでもないからです。
ただ、どちらの風習であれ、
いいと思うことは活用していきたい。

とはいえ、これまでやってきたことを
急に変えろというのも難しいので、
僕は当面の間、
少しでも早く食事を終えられるように頑張ります。
我が家では「お代わり」待ちのヨメが、
待ちくたびれて居眠りしてしてしまうほど
食べるのが遅い僕は常日頃から、
「ゆっくり食べたほうが消化にいいんや!」
と、己の正当性を説いてきました。
しかしそれが場合によっては
人様に大変ご迷惑にもなるんやなあと、
しみじみ感じております。


2016年2月1日   壮



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