野球の人。  〜田口壮、21年目の選択〜
 


糸井 さっき、さらっとおっしゃいましたけど、
肩を治さないと、子どもたちに
野球を教えることもできない、と。
田口 はい。
糸井 なんというか、
田口さんとお話ししていると、
野球っていうものの範囲の広さを
考えさせられるんですよ。
あっ、そこまで広いんだって。
田口 ああー、そうですか。
でも、やっぱり、子どもたちに
野球を教えに行くとしたら、
プロとしてのパフォーマンスを
見せてあげないといけないと思うんです。
ただ、ぼくが行って、
「田口です!」て言うても、ね(笑)。
糸井 (笑)
田口 プロ野球選手だったら、
やっぱり、バットを振ってみせたときに
「ブンッ!」っていう音が鳴らないと。
走ったら、子どもたちを軽く追い抜いていき、
投げたら、腕がしなって、
腕を振る音がしたときに、はじめて、
子どもたちの目が輝くんですよ。
糸井 ああーー。
田口 ぼくは、それをなるべく長く続けたいんです。
いつかは絶対できなくなるときがくるんですけど。
子どもたちといっしょになって
本気で野球をできるっていうことが
ぼくはすごく大事だと思ってるんで。
それはやっぱり、できるだけ長く
やりたいなと思うんですよね。
糸井 いまの話は、「自分」が、
教わる子どもの側にもいますよね。
つまり、田口が教えてるところで、
その「ブンッ!」っていう音を聞いて
「うわあ」って言ってる「自分」がいますね。
田口 あーーー。
糸井 そこで、目を見張って喜んでるのは
「オレ」でしょう?
田口 そうですね。
ぼくがちっちゃいときだったら
絶対そうです。
糸井 ですよね。
田口 ああしろ、こうしろって教えてもらうよりも、
すごいものが見たい。
糸井 そうなると、やっぱり、
肩は手術しなきゃ、っていうことですね。
「ブンッ!」っていわないとね。
田口 はい。
糸井 だから、田口さんは、
「職業が野球の人」じゃなくて、
「野球の人」なんですね。
職業が野球の人だったら、
40歳を超えて肩が壊れたら、
フロントだとか、解説者だとか、
そういう道のことを考えるんだろうけど。
田口 あああ、そうですね。
糸井 野球の人としては、肩を治して
ちゃんと投げられるようにする、
っていうのはすごくふつうのことで。
でも、職業野球として考えると、
いま肩を手術するっていうのは前例がない。
コーチになるか、解説者か、みたいなことって
それは職業の話だからね、やっぱり。
田口さんは、職業ということの前に
大事にしなきゃいけないことがあって、
それを追い求めるのがやっぱり楽しいんでしょう。
田口 はい。そうですね。
やっぱり、野球というものをずっとやってきて、
どんどん見える世界も広がってきて、
もっともっとできることもあるし。
自分の身の振り方をどうする、というよりも、
日本の野球をよくしたいという思いもあるし。
それを考えると、やっぱりまだまだ、
動き続けないと。動いて、見せていかないと。
糸井 メジャーの野球を
たっぷり経験してきた田口さんにしか
見えてないものもあるんでしょうか。
田口 いえ、自分だけが見えてるということは
ないと思いますけど、
いまの日本の野球に
変えていかなきゃいけない部分が
まだまだあるのは事実だと思います。
ただ、変えていくのはたいへんですけど。
糸井 そういうものですか。
田口 そうですね。
もう、固定観念とか、そういうものが
日本の野球の中にはしみついてますから。
プロだけじゃなく、アマチュアも、
固定観念でしばられてるところがあるので。
糸井 でも、変えられる範囲にある。
田口 と思います。
もちろん、ぜんぶアメリカに習え
っていうわけではないですし、
いいところをどんどんミックスしていけば
いいんだと思います。
糸井 田口さんから見て、
それを、この人たちはわかってる、
実際に、もうやってるというような人は
日本の野球界にいるんですか。
田口 います。
糸井 どんなとこにいますか。
田口 いろんなレベルにいます。
話をしてて、
あっ、こういう考え持ってるんだ、
こういう人だったら、
いい方向にいくんじゃないかな、
いっしょにやっていけるんじゃないかな、
っていう人はいっぱいいます。
糸井 それは選手、指導者両方に?
田口 はい。
ただ、やっぱり、人数が、
全体のなかでみると、
あまりにも少なすぎますよね。
糸井 でも、いま野球に関わってる人が
間違っているというわけでもないんでしょう。
田口 違います、違います。
いまの日本の野球で正しいという人も
いていいと思います。
それは、どっちが正しいというわけではなく、
単に、「ゴールをどこにするか」、
ということの違いだと思うんです。
糸井 田口さんの考えるゴールは、どこなんですか。
田口 ぼくのゴールは、
基本的には世界一になることです。
糸井 強さですか。
田口 強さもそうだし、質もそうだし。
糸井 お客さんをよろこばせるようなことも。
田口 もちろん含まれます。
糸井 あー、それは、見てみたいんですね。
強いわ、お客さんは喜ぶわ、っていう。
そりゃもう、田口さんに任せましょう。
田口 いや、ぜんぜん
そういう立場にないんですが(笑)。
一同 (笑)
糸井 その意味ではね、ぐるっと回るんだけど、
日本の野球を大きく変えていくとすると、
指導者の道へ行くほうが
早いかもしれないじゃないですか。
でも、そういう質問を田口さんにすると、
きっと、「いや、まずは現役で」って
即答されるんでしょうね。
田口 はい(笑)。
そこがね、なんていうか、ぼく、
基本が、「野球好き」なんでしょうね。
糸井 やっぱりそっち。
田口 そこいっちゃうんですよ(笑)。
糸井 野球界を変えるというよりも
まずは、まだ野球をしたい。
つまり、まだできるんだから。
田口 はい。
変えていくという意味でいえば、
選手の立場からでも、指導者という立場からでも
どっちでもいけるかなと思うんですけどね。
糸井 でも、自分が動きながら、
動かしながらのほうがいいというか、
田口さんらしい気がします。
田口 はい。
もちろん、総合的には、まだまだなんですけど。
まあ、いろんなことを経験して
まだまだ自分が力不足だということが
去年1年でよくわかりましたね。


(つづきます)

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2012-04-19-THU

 
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