SWITCHとあそぼう(1)新井敏記×糸井重里 対談「SWITCH」がいる理由。
ほぼ日刊イトイ新聞

第3回
「あの子たち、なんか食ってる」

糸井
新井さんは、東京?
新井
ぼくは高校まで茨城でした。
糸井
茨城?
それじゃあ‥‥新井さんもぼくも、
「編集者の原則」から外れてないんですね。
新井
編集者の原則ですか?
糸井
「中心地から100キロ離れているところに
編集者がいる」
と言われてるんですよ。
新井
その原則初耳です。
ああ、おもしろいですね。
糸井
アメリカでもそうなんです。
中心から100キロ。
そういう記事か何かを読んだとき
「そりゃ俺だよ!」って思いました。
ぼくは前橋だから東京から100キロ。
コンパスをぐるっとまわせば、
新井さんのいる茨城。
新井
ええ、そうですね。
それはおそらく、
テレビやラジオなどの電波メディアが
東京と同一ということが
関係しているのではないでしょうか。
けれども、いったん電波から離れて街に出て行くと、
話されている言葉や文化や空気が違う。
糸井
そうですね。
中央のものがそのまま届いてるんだけど、
確実に何かが違うという状況ですね。

たとえば、マンガの『おそ松くん』のチビ太は、
いつもおでんを手に持っています。
でも、群馬のぼくらにとっては
おでんは大人が買うものだった。
だけど子どものチビ太が
あれを持って飛び回っているのは、なんで?!
のちに東京に行ってわかったのですが、
東京には子どもが買うおでんの屋台があったんです。
どうやら真実とされているのは東京で、
ぼくらの住んでるところで起こっていることは
ほんとうじゃないのかも?」
と思いました。

東京文化圏と、100キロ離れた文化圏は、
どっちがリアルか?
そのエリアは二重文化圏になっていくんです。
だから、編集者が育つのかもしれませんね。
新井
なるほど、パラドックスですね。
糸井
ぼくが自分の事務所を
「東京糸井重里事務所」という名にしたのは
意味があるんですよ。
当時は、日本であるということが少し
カッコ悪かった時代です。
頭ん中でみんな、ウッドストックに行ってたし。
新井
そうですね、はい。
糸井
地方に対して東京があったのと同じように、
東京に対してウッドストックがあったり、
ロンドンがあったりするわけです。
新井
リアルタイムでね。
糸井
ですから、わざと
「これからは東京だぞ」と思いました。
でも、自分が東京にいるという実感は
なかなかわかない。
地方から出てきたぼくが
もっともリアルに東京を感じたのは、
事務所のあった原宿のセントラルアパートで
窓をあけて仕事をしてたときのこと。

窓から、神宮球場の光が見えていました。
ラジオをつけると、神宮のあの光の下でやっている
野球の中継をしているわけですよ。
どうしても観たくなったら、
そこからタクシーに乗って観に行ける。
そう思ったときに、
「俺は東京にいる」ということを強く感じました。
新井
粋だな、それ。カッコいい。
そのリアルタイム性は、
田舎だとないですもんね。
ぼくが東京でカルチャーショックだったことは、
御茶ノ水で女子高生がたむろして、
なんか立ちながら食ってるのを見たときです。
糸井
ああー!!
新井
見ても、何を食ってんのかわかんないんですよ。
女の子ばかりだから、唐突に訊くこともできない。
それが、ハンバーガー、マクドナルドでした。
マクドナルドの1号店は銀座の三越にできましたが、
2号店か3号店が御茶ノ水にできていたんです。
ぼくにとってはそれが
「あ、東京は、なんか違う!」と
びっくりしたことでした。
糸井
ハンバーグがすでにごちそうなのに、
それをあんなに気軽に(笑)、
パンにはさんで食べるなんてね。
「大ごちそう」を「雑」に食ってるわけです。
新井
これ、1985年の
「SWITCH」の創刊号です。
糸井
うわぁ、かっこいい。
こんなふうにバタ臭かったんだね。
新井
はい、バタ臭いです。
お金がないし、広告もとれないから、
薄い本でした。
糸井
なるほどなるほど。
新井
ただ、伝えたいことだけはいっぱいあった。
糸井
すでにこの雑誌には
「デザイン」がありますね。
新井
はい。これは坂川栄治さんとやった
最初の仕事なんですよ。
糸井
うん。
新井さんはこのときすでに
こんなにデザインを大事にしてますね。
新井
ぼくらは「広告掲載ゼロ」から
はじまってるんですが、
雑誌をやってると、
「こういう広告が欲しいな」
という気持ちが出てきます。
おもねるというよりは、それが目標になるんです。
だから、雑誌に載せる広告を
自分たちで勝手に営業かけようと思いました。
そんなとき目にした「おいしい生活。」の広告コピーは
たいへん斬新でした。
そこに日本の新しいかたちが見えはじめてた。
あんなにかっこいい広告を載せることは
雑誌のもう一方の目標でもあったんですよ。
糸井
‥‥これまでよく、
新井さんとぼくは、
会わなかったね。
新井
ええ。
でも、遠くでぼくは見てました。

(第4回につづきます)

 2016-09-13-TUE