ほぼ日酒店 YOI

トーキョーの日本酒 トーキョーの日本酒

「ほぼ日」がお届けするお酒のコンテンツ
「ほぼ日酒店 YOI(よい)」。
第4回でご紹介するのは、
東京港醸造で醸された清酒です。
まずは、東京産のお米と水と酵母を
東京都心の酒蔵で仕込んだ2つのお酒。
「えっ? 東京の都心に、酒蔵があるの?」
そうなんです。
「しかも、東京のお米と、水と、酵母で?」
そうなんです! ちょっとびっくりしちゃいますよね。
東京港醸造のユニークさを理解するのにぴったりな、
生きた乳酸菌を使った(ちょっとシュワッとした)日本酒、
あわせて3つのお酒を紹介します。
06

3つの日本酒、こんな味です。

「オール江戸」「オール東京」
「Palla-Casey」(パラカセイ)、
東京港醸造がつくる3つの日本酒、
その味を、料理と酒にくわしい編集者の
鳥越達也さんに解説してもらいました。
鳥越さん、最初に「Palla-Casey」、
二番目に「オール東京」、
さいごに「オール江戸」を試飲したそう。
コメントも、その順番でおとどけします。

(▼プロフィール)
とりごえ・たつや
多くの日本酒関係の記事を作り続けてきた編集者。
知らない日本酒に出会うと
スマートフォンで蔵の場所を調べる。
海の近くか、山里か、酒が生まれた場所を
想像しながら飲むのが好き。

全国各地の酒を飲み比べること十数年。
造り手の顔が見える日本酒にロマンを感じる。
人生の最後に飲みたい日本酒は
十四代、王祿、磯自慢、そして喜久酔。

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まず最初に感じるのは、
この3つの日本酒がいずれも
「すがすがしい甘口」だということです。
いまの日本酒業界って、
辛口に傾倒しているんですけれど、
この「涼口」とも「淡甘口」とも言えそうな
かろやかさ、すごくいいと思うんですよ。
それを前提にして、3つの味を、
できるだけわかりやすく書いてみますね。

飛びぬけて潔い、雑味のない酒。
どんな料理にもきっちり合います。
Palla-Cassey(パラカセイ)

初にキュッとした果実味のある酸味、
そこからフッーと浮き立つ淡い甘み、
最後にジュっと口の奥に残る甘み。
リズムよく、でも儚い、花火みたいなお酒だなと。

現代のすごく派手なヤツではなくて、
歌川広重の「両国花火」に出てくるような、
ずっと昔の、一筋の光で夜空を照らすヤツです。

きっと味の構成要素が絞り込まれているからですね。
実はこれが一番驚いたところなんですが、
今まで飲んできた日本酒の中でも飛びぬけて潔い、
雑味がない。
ものすごく洗練された造りをされているんだろうなと
想像します。

不安定な蔵付き酵母に頼るとか、
自然に任せるとかではなくて、
造り手のビシッとした設計の中で
生み出された印象です。

味の要素として、要るものは要るし、
要らないものは要らない、という判断が、
すごく都会的。
ちゃんと研ぎ澄ました味。
こういうのが「粋」なのかな。
自分はカッコいいなと思いました。

最初の酸味のおかげなのか、
飲んでいるとすごくおなかが減ります。
一方で酒の味の構成がシンプルなので、
料理はホント相手を選びません。

日本酒を飲み慣れない人にこそ! 
最初の「乾杯」にぴったりです。
All Tokyo(オール東京)

のリズムや構成は
「パラカセイ」と同じベースだと感じました。
そのうえで「オール東京」は、
もっと洗練度を上げた感じです。

もともとキレイな酒なのですが、
ここまで磨きこんでキレイ、となると。
酒飲みとしてはホント一瞬で飲んじゃうんですよ。
スポーツのあとにスポーツドリンクを飲むみたいに、
すうっとしみ込んで、
あっという間に消えてなくなってました。

自分の中では同じく花火のイメージなんですが、
「オール東京」は、花火大会の一発目、
「さあはじまるよ」というときの
幕開けの花火みたいな印象でした。
香りもいいので、
乾杯の一杯にいいかもしれないですね。

「パラカセイ」同様、おなかをすかせるお酒です。
あまりお酒を飲み慣れない方にこそ
飲んでみてほしいなと思いました。

今の技術で昔のお酒の雰囲気を。
江戸の粋を現代風に洗練させたお酒。
All Edo(オール江戸)

おぉ、こちらはグッと個性が出ますね。
まず香りが違う(ということは酵母が違うのかな? 
と思ったら、当たりでした)。
わずかに酸味も立った感じがします。

僕が知る限りは
灘とか伏見で復刻した
昔のお酒の雰囲気にちょっと近い印象です。
ただ、「何百年前のやり方で完全復刻した日本酒」って、
何度か飲みましたが、ちょっとキツイんですよ。
でもこちらは今の技術できっちり作られているから、
ベースは現代風で洗練しているなかで、
香りと酸味がふくらんでいる。
「いいとこどり」ができていて、いいですね。
これは花火で言うと‥‥、
そうだな、「しだれ柳」の印象です。

飲み進めるうちに
「この個性派、お燗にしたい! 
でも、残り少ないし‥‥ 
あったかくしたらまた違う顔が出るのかなぁ?」
という葛藤の中で、常温で飲み切りました。
ホントもう、おいしさのわりに量が少ないです! 
と、担当の「ほぼ日」の武井さんに文句を言ったら、
これは入門&ご紹介セットだから、
気に入ったら直接大瓶を買ってくれと言われました。
そうですよね、「東京の都心でお酒ができちゃうの?」、
「しかも、すごくおいしいのが!」っていう
飲むコンテンツですもんね。

3つのお酒、こんな飲み方で。

料理はなんでも合います。
本ずつ飲み切る、のではなく、
3つのお酒をぜんぶ開けて、
飲みくらべてみるのがたのしいかなって思いました。
そのとき、くせのない「パラカセイ」からはじめて、
「オール東京」「オール江戸」の順番がいいかも。
そうするとこのシリーズの理解度、解像度が
グッと上がるんじゃないかという印象でした。

おつまみ、いっしょに食べるものについては、
かなり意地になっていろいろ試しました。
刺身、手巻き寿司から、鍋なんかはもちろん、
実はフライとか、ソーセージ(シャウエッセン)も
かなり合ってました。

酒と料理の相性って、それぞれの雑味の相性、
みたいなところがあるんですが、
このシリーズは、その辺がないんですよね。
ちょっと言い方が難しいけれど、
ものすごくクセのある酒が、
地元のジビエやみそ漬けなんかにだけめちゃくちゃ合う、
ということがない代わりに、
どんな料理にもキレイに合う感じです。
(ちゃんと「よりおいしく」してくれます。)
こういうのもちょっと都会的だなと思います。

いやホント蔵の掃除とか大変なんだろうなぁ。
変な蔵付き酵母とかで雑味(悪い方に)が
出ないようにするのって! 
とにかく、キレイに作ってあるな、
ということを感じて、
何度もびっくりしました。