うつくしい刺繍ができるまで。刺繍工場に行ってきました。
スタイリストの轟木節子さんが、
ナチュラルベーシックといっしょにつくる、
ショールやストール。
2020年の秋冬は、アクセサリーのようにまとう、
うつくしい刺繍のストールをお届けします。
刺繍のデザインは、2種類。
のびやかな曲線で草花が描かれた
やさしく、はなやかな「Garden(ガーデン)」。
幾何学的な紋章をモチーフにした
きりっと凛とした印象の「Chevron(シェブロン)」。
刺繍をほどこしているのはフロリア株式会社。
工場には、いろいろな模様を生み出す刺繍機がずらり。
轟木さんと、ナチュラルベーシックの金子さんが、
工場長の酒井さん、営業の吉田さんと、
刺繍について、今回のストールについて
いろいろなお話をしました。
轟木節子【とどろき・せつこ】
スタイリスト。
1972年、熊本生まれ。
ファッション誌、カルチャー誌、広告などで幅広く活躍。
シンプルな中にスパイスの効いた、
独自の空気感が漂うスタイリングが人気。
ナチュラル志向なライフスタイルも注目されている。
近年は、フォトグラファー、文筆家としての活動も。
著作に日々のスタイリングのヒントがつまった
『毎日のナチュラルおしゃれ着こなし手帖』
『毎日のナチュラルおしゃれ着こなし手帖 2』
などがある。
約50年前の刺繍機から
生み出されるうつくしさ。
- 吉田
- あの刺繍機、見るとみなさんびっくりしますよね。
- 酒井
- 15ヤード機っていうんです。
ですから13.7メートル、
一反長っていいますけれど、
13.7メートルをいちどに刺繍します。
- 轟木
- ああ〜、すごい。
こんな長い幅の機械と生地を見たのは初めてです。
そして繊細に1針1針、描かれていくのが感動的です。
- 酒井
- うちの会社の母体は、
設立当初は、埼玉紡績(株)という名前で、
糸を紡ぐところから始まっているんです。
約60年前にレースを始めまして、
この刺繍機は1966年製ですから、
54~55年たつんですかね。
現在、こういった刺繍メーカーでは、
たぶん、うちが最古参になると思います。
- 酒井
- 刺繍機のしくみはシンプルで、
昔から変わってはいないんです。
枠に張った生地があって、表から針で糸を通して、
後ろには、シャトルというものがあって、
そちらには裏糸が入っています。 - 轟木
- カイコみたいなちっちゃいのがシャトルですね。
- 酒井
- そうです。
で、一見、針が動いて刺繍しているように見えるんですけど、
実際には、生地を張ったあの大きな枠が、
あれが動いてるんです。 - 金子
- 針は一定のところで、ずっと同じように刺していて、
枠に張った生地のほうが
上下と左右に動いているんですね。 - 酒井
- そうです、そうなんです。
枠がどう動くかは、緑色のカードがありましたよね?
あのパンチングの穴で指示してるんです。
- 轟木
- カードは、どうやって作るんですか?
- 酒井
- あのカードの穴のピッチは、
実際の大きさの6倍なんです。
で、まず、デザインがありますね。
それを、柄の面積を6倍にした製図に置き換えます。
そこで、糸を何ミリ間隔で並べるか、
とかを決めながら、
専用の機械で穴を開けていくんです。
今回使っている、昔ながらの刺繍機のやり方ですね。
今はコンピューターで全部やってしまいます。
デザインの図柄をスキャンして。 - 轟木
- コンピューターのほうが、たぶん簡単でしょうけれど、
そこをあえて、手のかかる昔ながらの作り方で‥‥。
それでこんなに繊細でぬくもりも感じられる
刺繍ができるんですね。
シルクコットンの生地でやわらかく、
無撚糸の糸で、さらにやわらかく。
- 金子
- こちらではふだんは、服地の刺繍をされています。
今回のストールは首に巻くものなので、
やわらかくしなければいけないということがあり、
柄も刺繍がいっぱい入るぶん、硬くなるし、
どうしようかって、たくさんご相談しました。
そして、ベースの生地はシルクコットンの、
やわらかいものを見つけていただけて、
刺繍の糸も、無撚糸をご提案いただいて。
ほんとに、ふだんとはちがうものに
挑戦していただきました。
- 轟木
- この素材を提案してくださったのが、すごいです。
この、やわらかい生地と糸を。
- 酒井
- 今回の仕事のいちばんの問題は、
この無撚糸なんですよ。
撚りがほとんどない無撚糸っていう糸は、
簡単に切れちゃうんですよ。
ですから、針の選び方と、
回転数、針の動きの早さの微妙な調節が必要で、
それが、うちの刺繍機とちょうどマッチしたっていう、
そういうことなんだと思うんですよ。
高速の刺繍機を使うと、ちょっと刺繍できない、
っていうことになるんですね。
- 酒井
- さっきご覧になって気づかれた思うんですけど、
何度か糸が切れて、止まってたじゃないですか?
すごく切れやすいんです。
相当、むずかしい糸なんですよ。刺繍の条件からすると。
ただ、だからこそ、
ほんとうにやわらかい風合いのものができたと思います。
とくに刺繍となると、糸に負荷がかかりますから、
通常のやり方では、無理なんです。
それで特別に、「オイリング」という加工をしました。
糸に、刺繍用の樹脂をのっけて、滑りをよくするんです。
樹脂は、最後の仕上げのときに、水で落ちます。
この無撚糸は今回のストール専用に作った糸ということです。
それでも切れやすい糸ではあるんですけれど。 - 吉田
- 現場では、かなり気をつかって調整しています。
サンプル制作は大変でした(笑)。 - 轟木
- ありがとうございます。
ほんとに~。
アンティークの柄をアレンジして
かろやかになる工夫を。
- 吉田
- 柄には、ほんとうに気をつかいました。
まず、肌に当たって痛くないようなステッチワーク。
「Garden(ガーデン)」の柄は
線書きで軽いタッチに。
- 金子
- 「Garden」は、もともとアンティークの柄があって。
- 吉田
- それをストール用に、やわらかく表現できるように、
図案を作らせていただきました。
もうひとつの幾何学的な
「Chevron(シェブロン)」という柄も、
うちにあった図柄なんです。 - 轟木
- 今回、最初に作りたいと思ったのが、
三角のレースストールだったんです。
- 吉田
- もとの図案のまま刺繍すると、硬くなってしまうので、
刺繍のステッチを抜いたり、アレンジしました。
どちらも、穴を開けたいっていうご要望があったので、
その穴も極力小さめにして、かわいらしくなるように。 - 轟木
- あの小さな穴の作りかたもびっくりしました。
- 吉田
- はい。くり抜いてるんじゃなくて、
生地の、糸と糸の間に目打ちのようなものを入れて、
糸をギューっと寄せて、穴をつくるんです。 - 轟木
- この小さな穴が、とっても大切なんです。
これによって、ストールにぬけ感ができて、
軽やかになるんですよね。 - 金子
- この見た目以上のやわらかさも、驚きですよね。
ぜひ触っていただきたいですね。 - 轟木
- これだけ刺繍の糸が入っていると、
感触がもっと硬いと思いませんか?
でも、やわらかくて、軽いんですよね。 - 吉田
- ステッチは、ですから、ほんとに苦労して。
がっちり刺繍を入れてしまうと硬くなるので
ステッチ自体はラフな感じで入れて、
やわらかく仕上げたりとか。
図案の段階で、そういう工夫はしましたね。 - 轟木
- ありがとうございます。
- 金子
- 苦労が詰まってますね。これは(笑)。
- 吉田
- そうなんです(笑)。
だから、量産に向けて刺繍機が動いたときは、
ほんとに喜びましたよ。
うれしかったです。
でも、それがものづくりなんですよね。
テストに次ぐテストをかさねて
ほんとうにいいものが、できました。
- 轟木
- ここまでのものができるまでには、
ずいぶんテストもしてくださったんでしょうね。 - 吉田
- はい。たくさんさせてもらって(笑)。
でも、いいものを作りあげたかったので。
なかなか大変だったんですよ。
白に白、黒に黒で、
どうやって柄を表現できるか、
というところが。 - 轟木
- その限られたなかで、どう表情を出すか、
みたいなところが、ありますよね。 - 吉田
- そうなんです、そうなんです。
- 轟木
- でもそういう、白に白とか、黒に黒のものって、
巻いたときに、さりげなく素敵感が増すというか、
遠く離れてみたら無地だけど、
近づくとすごく表情があって、みたいなのが、
グッときますよね。
これ、バッグに入れたりするときに、
糸が引っかからないようになっていますよね。 - 吉田
- そうならないように、ステッチを入れました。
それから、刺繍のピッチを短くして、
引っかからないように、工夫はしています。
- 轟木
- はあ~、ありがとうございます。
- 金子
- ちゃんと実用的な工夫をしてくださって。
みなさんの知恵の結集ですね。 - 轟木
- う~ん。ほんとですねぇ。
前例がないことを、
粘って粘っていろんな技で。
達成感はすごかったですか? - 吉田
- それがあるから、楽しいですよね。
ものづくりが。
本当に、そうですね。
(おわり)
2020年10月14日(水)午前11時から
ほぼ日ストアにて数量限定で販売いたします。