ほぼ日刊イトイ新聞
刺繍をまとう。
10/14(水)
午前11時
販売開始

うつくしい刺繍ができるまで。刺繍工場に行ってきました。

スタイリストの轟木節子さんが、
ナチュラルベーシックといっしょにつくる、
ショールやストール。
2020年の秋冬は、アクセサリーのようにまとう、
うつくしい刺繍のストールをお届けします。
刺繍のデザインは、2種類。
のびやかな曲線で草花が描かれた
やさしく、はなやかな「Garden(ガーデン)」。
幾何学的な紋章をモチーフにした
きりっと凛とした印象の「Chevron(シェブロン)」。

刺繍をほどこしているのはフロリア株式会社。
工場には、いろいろな模様を生み出す刺繍機がずらり。
轟木さんと、ナチュラルベーシックの金子さんが、
工場長の酒井さん、営業の吉田さんと、
刺繍について、今回のストールについて
いろいろなお話をしました。

轟木節子【とどろき・せつこ】

スタイリスト。
1972年、熊本生まれ。
ファッション誌、カルチャー誌、広告などで幅広く活躍。
シンプルな中にスパイスの効いた、
独自の空気感が漂うスタイリングが人気。
ナチュラル志向なライフスタイルも注目されている。
近年は、フォトグラファー、文筆家としての活動も。
著作に日々のスタイリングのヒントがつまった
『毎日のナチュラルおしゃれ着こなし手帖』
『毎日のナチュラルおしゃれ着こなし手帖 2』
などがある。

約50年前の刺繍機から
生み出されるうつくしさ。

吉田
あの刺繍機、見るとみなさんびっくりしますよね。
企画と営業を担当されている吉田さん。
酒井
15ヤード機っていうんです。
ですから13.7メートル、
一反長っていいますけれど、
13.7メートルをいちどに刺繍します。
工場長の酒井さん。
轟木
ああ〜、すごい。
こんな長い幅の機械と生地を見たのは初めてです。
そして繊細に1針1針、描かれていくのが感動的です。
吉田さんから説明を受ける轟木さん。
酒井
うちの会社の母体は、
設立当初は、埼玉紡績(株)という名前で、
糸を紡ぐところから始まっているんです。
約60年前にレースを始めまして、
この刺繍機は1966年製ですから、
54~55年たつんですかね。
現在、こういった刺繍メーカーでは、
たぶん、うちが最古参になると思います。
酒井
刺繍機のしくみはシンプルで、
昔から変わってはいないんです。
枠に張った生地があって、表から針で糸を通して、
後ろには、シャトルというものがあって、
そちらには裏糸が入っています。
轟木
カイコみたいなちっちゃいのがシャトルですね。
酒井
そうです。
で、一見、針が動いて刺繍しているように見えるんですけど、
実際には、生地を張ったあの大きな枠が、
あれが動いてるんです。
金子
針は一定のところで、ずっと同じように刺していて、
枠に張った生地のほうが
上下と左右に動いているんですね。
酒井
そうです、そうなんです。
枠がどう動くかは、緑色のカードがありましたよね?
あのパンチングの穴で指示してるんです。
轟木
カードは、どうやって作るんですか?
酒井
あのカードの穴のピッチは、
実際の大きさの6倍なんです。
で、まず、デザインがありますね。
それを、柄の面積を6倍にした製図に置き換えます。
そこで、糸を何ミリ間隔で並べるか、
とかを決めながら、
専用の機械で穴を開けていくんです。
今回使っている、昔ながらの刺繍機のやり方ですね。
今はコンピューターで全部やってしまいます。
デザインの図柄をスキャンして。
轟木
コンピューターのほうが、たぶん簡単でしょうけれど、
そこをあえて、手のかかる昔ながらの作り方で‥‥。
それでこんなに繊細でぬくもりも感じられる
刺繍ができるんですね。

シルクコットンの生地でやわらかく、
無撚糸の糸で、さらにやわらかく。

金子
こちらではふだんは、服地の刺繍をされています。
今回のストールは首に巻くものなので、
やわらかくしなければいけないということがあり、
柄も刺繍がいっぱい入るぶん、硬くなるし、
どうしようかって、たくさんご相談しました。

そして、ベースの生地はシルクコットンの、
やわらかいものを見つけていただけて、
刺繍の糸も、無撚糸をご提案いただいて。
ほんとに、ふだんとはちがうものに
挑戦していただきました。
ナチュラルベーシックの金子さん(左)と轟木さん(右)。
轟木
この素材を提案してくださったのが、すごいです。
この、やわらかい生地と糸を。
酒井
今回の仕事のいちばんの問題は、
この無撚糸なんですよ。
撚りがほとんどない無撚糸っていう糸は、
簡単に切れちゃうんですよ。

ですから、針の選び方と、
回転数、針の動きの早さの微妙な調節が必要で、
それが、うちの刺繍機とちょうどマッチしたっていう、
そういうことなんだと思うんですよ。
高速の刺繍機を使うと、ちょっと刺繍できない、
っていうことになるんですね。
酒井
さっきご覧になって気づかれた思うんですけど、
何度か糸が切れて、止まってたじゃないですか?
すごく切れやすいんです。
相当、むずかしい糸なんですよ。刺繍の条件からすると。
ただ、だからこそ、
ほんとうにやわらかい風合いのものができたと思います。

とくに刺繍となると、糸に負荷がかかりますから、
通常のやり方では、無理なんです。
それで特別に、「オイリング」という加工をしました。
糸に、刺繍用の樹脂をのっけて、滑りをよくするんです。
樹脂は、最後の仕上げのときに、水で落ちます。
この無撚糸は今回のストール専用に作った糸ということです。
それでも切れやすい糸ではあるんですけれど。
吉田
現場では、かなり気をつかって調整しています。
サンプル制作は大変でした(笑)。
轟木
ありがとうございます。
ほんとに~。

アンティークの柄をアレンジして
かろやかになる工夫を。

吉田
柄には、ほんとうに気をつかいました。
まず、肌に当たって痛くないようなステッチワーク。
「Garden(ガーデン)」の柄は
線書きで軽いタッチに。
のびやかな曲線で草花が描かれた
「Garden(white)」19,800円(税込)。
こちらは「Garden(black)」。
19,800円(税込)
金子
「Garden」は、もともとアンティークの柄があって。
吉田
それをストール用に、やわらかく表現できるように、
図案を作らせていただきました。
もうひとつの幾何学的な
「Chevron(シェブロン)」という柄も、
うちにあった図柄なんです。
轟木
今回、最初に作りたいと思ったのが、
三角のレースストールだったんです。
幾何学的な紋章をモチーフにした
「Chevron(white)」19,800円(税込)。
こちらは「Chevron(black)」
19,800円(税込)。
吉田
もとの図案のまま刺繍すると、硬くなってしまうので、
刺繍のステッチを抜いたり、アレンジしました。
どちらも、穴を開けたいっていうご要望があったので、
その穴も極力小さめにして、かわいらしくなるように。
轟木
あの小さな穴の作りかたもびっくりしました。
「Garden」の刺繍。
吉田
はい。くり抜いてるんじゃなくて、
生地の、糸と糸の間に目打ちのようなものを入れて、
糸をギューっと寄せて、穴をつくるんです。
轟木
この小さな穴が、とっても大切なんです。
これによって、ストールにぬけ感ができて、
軽やかになるんですよね。
金子
この見た目以上のやわらかさも、驚きですよね。
ぜひ触っていただきたいですね。
轟木
これだけ刺繍の糸が入っていると、
感触がもっと硬いと思いませんか?
でも、やわらかくて、軽いんですよね。
吉田
ステッチは、ですから、ほんとに苦労して。
がっちり刺繍を入れてしまうと硬くなるので
ステッチ自体はラフな感じで入れて、
やわらかく仕上げたりとか。
図案の段階で、そういう工夫はしましたね。
轟木
ありがとうございます。
金子
苦労が詰まってますね。これは(笑)。
吉田
そうなんです(笑)。
だから、量産に向けて刺繍機が動いたときは、
ほんとに喜びましたよ。
うれしかったです。
でも、それがものづくりなんですよね。

テストに次ぐテストをかさねて
ほんとうにいいものが、できました。

轟木
ここまでのものができるまでには、
ずいぶんテストもしてくださったんでしょうね。
吉田
はい。たくさんさせてもらって(笑)。
でも、いいものを作りあげたかったので。
なかなか大変だったんですよ。
白に白、黒に黒で、
どうやって柄を表現できるか、
というところが。
轟木
その限られたなかで、どう表情を出すか、
みたいなところが、ありますよね。
吉田
そうなんです、そうなんです。
轟木
でもそういう、白に白とか、黒に黒のものって、
巻いたときに、さりげなく素敵感が増すというか、
遠く離れてみたら無地だけど、
近づくとすごく表情があって、みたいなのが、
グッときますよね。

これ、バッグに入れたりするときに、
糸が引っかからないようになっていますよね。
吉田
そうならないように、ステッチを入れました。
それから、刺繍のピッチを短くして、
引っかからないように、工夫はしています。
轟木
はあ~、ありがとうございます。
金子
ちゃんと実用的な工夫をしてくださって。
みなさんの知恵の結集ですね。
轟木
う~ん。ほんとですねぇ。
前例がないことを、
粘って粘っていろんな技で。
達成感はすごかったですか?
吉田
それがあるから、楽しいですよね。
ものづくりが。
本当に、そうですね。

(おわり)

2020年10月14日(水)午前11時から
ほぼ日ストアにて数量限定で販売いたします。