「ほぼ日」でもおなじみの
帆布を使ったバッグブランド、TEMBEA(テンベア)。
もちろんバッグ屋さんですから、
出かけるときのアイテムが中心‥‥なんですけれど、
ずいぶん前から
「home」のためのグッズもつくっているんです。
このスリッパは、2008年に一度だけ発表したもの。
「ほぼ日」のリクエストで、
「いま」の気分にのせて再デビューです。
玄関のスリッパ入れに使える、
帆布のバスケットといっしょにご紹介します。

photo/Suguru Ariga  styling/Masako Ito
早崎篤史さんインタビュー スリッパができるまでのことを、TEMBEAの代表で、デザイナーでもある早崎篤史さんにききました。
早崎篤史さんインタビュー

スリッパができるまでのことを、TEMBEAの代表で、デザイナーでもある早崎篤史さんにききました。

早崎篤史さんのプロフィール 早崎篤史さんのプロフィール
はやさき・あつし
「TEMBEA」デザイナー。
輸入商品とオリジナルを手がけるアパレルを経て独立、
自身の会社TORSOを設立。
立ち上げ当初は洋服を手がけていたが、
つくった帆布のトートバッグが評判を呼び、
現在はバッグを中心とした服飾小物を多く制作している。
バッグのブランド「TEMBEA」を始めたのは2004年。
仕切りもポケットもないスタイルは、
物を決められた場所に収める便利さではなく、
なにも決めつけない、
「自由な使い勝手、自由の心地よさ」
をスタイルとしている。
東京・神宮前と、京都に直営店をもつ。

TEMBEAのウェブサイト
weeksdaysのバッグ
Miknitsの編み針ケース

早崎さん、ごぶさたしています。
近ごろ、いかがでしたか。

ようやくここにきてバタバタッと
いろんなことが進み始めた感じです。
皆さん、そうじゃないかな。

お仕事における変化や、
ご自身の変化はありましたか。

ありました。
TEMBEAは、本当にちっちゃなお店から大手まで、
幅広いおつきあいがあるんですけれど、
やはりコロナ禍の影響は小さくはなく、
仕事は減りました。
以前から一つのところに依存してはダメだなとは
思っていましたし、
多様性を意識していましたが、
あらためて地方の個店さんや
自社の直営店を充実させていくことで、
一つのところに依存しない体力をつけないと、と。
コロナが起こる前から、
2、3年後にはこうなるんじゃないかな、
と思っていたことが、前倒しで来た感覚ですね。

いつごろからそんなふうに思っていらしたんですか。

4、5年ぐらい前から考えるようになりました。
人口、ファッションの動向、
若い人たちの興味の先などを
全部ひっくるめて考えて、
自分たちがやっていることに
どういう意味があるのかな? と、
悶々と思っていたんです。
街には商業施設がいっぱいあって、
そこにはお店がたくさん入っていて、
web上にはECサイトが増え、
どこに住んでいても何でも買えるみたいな状況って、
すごく目先のことなんじゃないのかな、
もっと長期的に考えたとき、
自分たちはどういうところに行きたいのかな、
みたいなことですね。
とはいえ「やめる」ということはないわけなので、
もうちょっと、自分たちで地に足をつけて
つくって売るという実感を持とう、と。
具体的に何を変えた、ということではなく、
軸足を置き直してる感覚を確かなものにしたかった。

なるほど。

そんななかで、作るものが微妙に変わりつつあるんです。
今回のスリッパもそのひとつなんですよ。
最近は、自分の作りたいものは当然ですが、
マスを意識した商品作りも自分の中にあります。
ただ、ブランド立ち上げ当初がそうであったように、
自分たちが作りたいものが先にあり、
結果的に幅広い人たちに受け入れられるという
順番じゃないといけないなと。
初心に帰る、じゃないですけど、
今はそういう気持ちに戻ってきています。

早崎さんたちTEMBEA側からの提案とは別に、
個店の皆さんからの提案もあるんでしょうか。

皆さんから具体的なリクエストが
あるわけではないんですけれど、
お客様との会話の中で
見えてくるものがありますね。

確かに、「ほぼ日」も、
TEMBEAのスリッパっていいだろうね、
と相談した背景には、
同じような気分があったかもしれません。
「home」の時間を大事にしたいっていう。
家でもお気に入りのものを使いたいという気持ち。

はい。

いままでよりはっきりと、
「ものを選ぶ」ことが大事に、たのしくなっていて。
閉塞感じゃなくて、もっと積極的に楽しくしようよ、
っていう気持ちが、ここに繋がった気がします。
「ほぼ日」でも、革のスリッパをつくったり、
靴屋さんとルームシューズをつくったりと、
いろいろなチームが部屋履きの提案をしているんですが、
そこにTEMBEAの帆布のスリッパがあったら、
あたらしい選択肢のひとつになると思いました。

そうですね。
実は、このスリッパ、新作ではないんですよ。
この0858Aっていう品番の頭の08は、
デビューの年なんです。
つまり、このスリッパは、2008年に作ったモデル。
Aっていうのは秋冬シーズンの意味なので、
2008年の秋冬に、1回、出しているんですね。

1回だけ?

いいと思ったんですが、売れなくて(笑)。
でも、干支がひとめぐりして、
2020秋冬から再開しました。
2008年には、家のものにお金をかけるっていう感覚が、
少なくともファッションの業界では弱かったんです。

2008年、平成20年ですね。
北京オリンピックで北島さんの「なんも言えねえ」、
タクシー禁煙化、麻生内閣、オバマ政権発足、
「アラフォー」「ゲリラ豪雨」が流行語になり、
秋葉原で通り魔事件があり、
リーマン・ブラザーズの破綻で株価暴落、
東証がバブル後最安値を記録した年だそうです。

そんな年でしたね。
TEMBEAは、その前年、2007年に
ブックトートという、
部屋に置いて本を入れるためのトートバッグを
発表して、ちょっと家の中に気持ちを向けていたんです。
そのとき、面白がられはしましたけれど、
やっぱりファッションのお店では売れなかった。
でも、自分たちにとって象徴的なアイテムだと
思って、継続してつくっているんです。
それが、少し前ぐらいから、
コンスタントに動くようになって。

そんななか、僕らが「スリッパつくってください」と?

はい。そんな話になって、
ぼくは忘れていたものだから、
キョトンとしてしまって。
それでいろいろ試作しているうちに、
「ああ、そういえばスリッパ、
昔、作ってた!」と思い出しました。

最初の試作は、レザーでしたね。
ところが価格が
なかなかびっくりするものになってしまって。

しかも、革のスリッパには、TEMBEAの要素が
あんまり入ってないなとも思っていて。
で、その後、帆布にしてみようという話になり、
サンプルをつくるうち、
2008年のアイテムを思い出したんです。
今回、マイナーバージョンアップはしましたが、
ほとんどその当時のままでつくり直しました。

このスリッパは、TEMBEAのなかでも、
男子っぽいテイストがありますよね。
デザインにヒントやモチーフはあったんですか。

US ARMY(米陸軍)の病院で使われていた
ヴィンテージのスリッパがモチーフになっています。
それはすべて生成りで、
紐で足首を巻けるようになっているんですよ。

脱げないようになっていたんですね。
TEMBEAのスリッパは紐がなく、
つっかけで履けるデザインです。
特徴は、甲のセンターが切り替えになっていて‥‥。

左右対称っていうってところもポイントです。
履いていくと馴染んで、自分の足の形になり、
自然と左右ができていくと思います。

洗ってもいいですか。

はい。ただし、手洗い、押し洗いでお願いします。
底面に挟んでいるインソールが羊毛のフェルトなので、
高温での洗浄やもみ洗い、
強い脱水や乾燥機での乾燥に弱く、
縮絨(縮み)の原因になるんです。
洗濯機でグルグル回さず、
ふつう洗剤で、ぬるま湯で手押し洗いか、
ブラシを使って表面をさっと洗うのがいいですね。
脱水機にはかけず、タオルで押して水気を切り、
風通しのよいところに陰干しをしてください。

わかりました。
今回は、「ほぼ日」特別色の
生成りとナチュラル×ネイビー(ダークネイビー)の
ツートーンカラーに、
TEMBEAでも展開しているブラック×ブラック。
サイズはワンサイズ(L)のところ、
すこし小ぶりのMを別注でつくっていただきました。
あわせてバスケットもならべます。

これは現行商品ではなく。
2013年に作ったインテリア的なもので、
最初の名前はウェイストバスケット、
ボックスかご(くず入れ)なんですよ。

「ほぼ日」のものが自宅で使っているのが
とても便利だというので、お願いしました。
スリッパをしまうのに、
玄関にポンと置いておくのにいいなと。

そんな使い方もいいですよね。

底が正円の筒型で、
スリッパにあわせてツートーンなのもかわいいです。
自由にお客さまが呼べるまでには
もうすこし時間がかかるかもしれませんが、
いつか遊びに来てくれるひとのことを考えながら
暮らしを楽しんでいくのもいいな、と思います。
早崎さん、ありがとうございました。

こちらこそありがとうございました。