愛着をもった物と、暮らす。 おもちゃコレクター・北原照久さんに 1930年ごろにつくられたミッキーの話を伺いました。
 
お待たせいたしました。 11月1日(金)に、 いよいよ「VINTAGE MICKEY」が発売になります! 「VINTAGE MICKEY」は、 1930年ごろにつくられたミッキーのぬいぐるみを 写真家の菅原一剛さんが撮影し、 アートディレクターの秋山具義さんが デザインを手がけたカバー。 そして、このミッキーのぬいぐるみは 世界的に有名なおもちゃコレクター、 北原照久さんの数あるコレクションのなかからお借りしました。 今回、北原さんにカバーになったミッキーについて お話をうかがったのですが、そのお話から、 おもちゃコレクターと「ほぼ日手帳」のユーザーの間には すてきな共通点があることがわかりました。
北原さんのプロフィール
ほぼ日 北原さん、お待たせしました。
「VINTAGE MICKEY」のカバー、できあがりました!
(取材の日に、はじめて北原さんに実物を見ていただきました)
北原 おっ、いいですねー。
かわいいね。 
ほぼ日 ありがとうございます!
本日は、
この「VINTAGE MICKEY」のもととなった
貴重なぬいぐるみを持ってきていただいたんですよね。
北原 はい、こちらです。
ほぼ日 おおー!
‥‥あの、率直な感想をいわせていただくと、
思っていたより、ずっとかわいいです。
実は、このカバーのデザインを発表したときに
「こわい」という声もいただいていて、
「ヴィンテージのぬいぐるみって、たしかにこわいのかも」
と、ドキドキしていたんです‥‥(笑)。
北原 ははははは。
たしかに、ヴィンテージのもののなかには
顔つきがこわいものもありますが、
この子はにっこりしていて、
とてもかわいらしいでしょう?
ほぼ日 はい、愛嬌がありますね。
北原 この子は、1930年ごろに
アメリカでつくられたぬいぐるみです。
ミッキーがはじめて登場した「蒸気船ウィリー」が
公開されたのが1928年なので、
それ以降にミッキーのグッズの制作ははじまりました。
つまり、1930年ごろにつくられたミッキーのグッズは、
ごく初期のミッキーなんですよ。
どうぞ、もって近くで見てください。
ほぼ日 ええっ、素手でもっていいんですか?!
北原 もちろん、もちろん。
そのままどうぞ。
ほぼ日 では、失礼して‥‥。
ああ、持って見てみると、ますますかわいいです。
‥‥あれ、
目の切れ込みの位置が左右でちがうんですね。
北原 このころのぬいぐるみはほとんど手作りですから、
そういう個体差があるんですよ。
この子の目はパイを切ったような形なので、
「パイカット」と呼ばれています。
ほぼ日 「パイカット」。
名前もかわいらしいですね。
実際に近くで見てみると、
赤いズボンの部分がコーデュロイになっていたり、
手袋の素材がちがったり、
手のこんだつくりでびっくりしました。
あと、シルエットも、今のミッキーよりも
少し太めというか‥‥。
北原 シルエットや顔つきは、
その時代によって変わってきますからね。
この子は、鼻の部分がとんがっているでしょう。
その後、どんどん丸みを帯びていくんですよ。
物っていうのは、
その時代を映す鏡のようなところがありますね。
 
「魔法の鍋」でつくった料理。
ほぼ日 北原さんのコレクションの中で、
ディズニーの物はどのくらいあるんですか?
北原 すごくおおざっぱにいうと、
3万点くらいかなぁ‥‥。
そのうち、ぬいぐるみは3000点くらいです。
ほぼ日 うわー、すごい数!
北原 東京ディズニーランドのグッズは
別にコレクションしているので、
ディズニーで考えるとさらに増えますね(笑)。
ほぼ日 すごいなんてものでは、ないですね。
北原 この写真に映っているのは、
だいたい50〜60年くらいのコレクションです。
ほぼ日 びっしりと並んでいますが、
これが全部では、ないんですよね?
北原 そうですね、一部です。
こっちは、ぼくのコレクションだけで
家をつくったときの写真ですね。
これは、子供部屋。
ほぼ日 この部屋にあるすべてのグッズが、
北原さんのコレクションなんですか?
北原 そうそう、すごいでしょう?(笑)
ほぼ日 スケールが、もう、すごすぎます‥‥。
北原さんがコレクションをはじめたきっかけは、
なにかあったのですか?
北原 留学先での経験が、
ぼくをコレクターの道に導いてくれました。
ぼくの実家はスキー用品の専門店を営んでいて
その店を継ごうと思っていたので、
大学生のときにスキーの勉強をするために
オーストリアのインスブルックという
冬季オリンピックを2回開催した土地に留学したんです。
ほぼ日 はい。
北原 そのホームスティ先は、
古い物を大事にしていて、
愛着をもった物に囲まれて暮らしていました。
たとえば、お鍋ひとつでも、
ひいおばあちゃんの代からつかっていることを
すごく誇らしげに自慢するんです。
「いいだろう。これは魔法の鍋なんだ」って。
ほぼ日 へぇー。
やっぱり、そういうお鍋でつくる料理って、
ふつうのお鍋でつくるものと味はちがうものですか?
北原 全然ちがいます。
愛情のこめられ方がちがいますから。
ほぼ日 ああー。
北原 で、留学先から日本に帰ってきたある日、
粗大ゴミに捨ててあった柱時計を見つけて、
拾ってもって帰ったんです。
それが、ぼくのコレクションの第一号。
ほぼ日 どうして、柱時計を持って帰ろうと?
北原 その柱時計にときめきを覚えたからです。
最初はちっとも動かなかったんですけど、
油を注したら動き出して、
なんだか自分で命を吹き込んだ気持ちになって。
それから、時計や真空管のラジオ、看板など、
自分がときめいた物をあつめていくようになりました。
ほぼ日 北原さんにとって、
ときめく物と、ときめかない物のちがいって
なんなのでしょう?
北原 そうですね‥‥。
その物を部屋に飾って、いっしょに暮らしたい。
そばに置いておきたい。
そういうものが、ぼくの琴線に触れるものですね。
ほぼ日 いっしょに暮らしたい、と思うもの。
北原 そうです。
あつめている物の種類は
時計だったり、看板だったり、おもちゃだったり、
現代アートもたくさんコレクションしているので、
バラバラな物をあつめているように見えるかもしれませんが、
すべてぼくの琴線に触れた物で、愛着をもっています。
どのコレクションが一番なんですかって
よく訊かれるんですけど、
それは、3人兄弟のうちどの子が一番かわいいですか、
という質問と同じなんです。
あるときは長男がかわいいし、あるときは末っ子がかわいい。
ぼくは、値段や入手度に関係なく、
コレクションそれぞれに愛着や思い入れをもっていますね。
ほぼ日 では、手放さなければならないときには、
泣く泣く、という‥‥。
北原 いえいえ、コレクションを手放したことは、
一度もないんですよ。
しあわせなことですよね、
愛着のあるものたちに囲まれて生活しているんですから。
ぼくはね、「熱しやすく冷めにくい」。
コレクターとして最高の性格なんですよ(笑)。
 
遊び心と、ワクワク感。
北原 このミッキーのカバー、
しおりの先がミッキーの形になってるんですね。
ほぼ日 そうなんです。
ほかのカバーは三角形と四角形が多いんですけど、
ディズニーのカバーはミッキーに。
北原 こういう細部への気配りというか、
物へのこだわりって、いいですよね。
それをつかってみたくなるし、
つかっているときに誰かに話したくなる。
誰か気づいてくれないかな? っていう
遊び心もたのしいですね。
ほぼ日 そう、そうなんです。
ディズニーのデザインをしていただいた秋山さんは、
そういう遊び心を大事に思って、つくってくれました。
会話のきっかけになるんですよね。
「あれ、そのしおりの先、ミッキーじゃない?」って。
北原 そういうときに、より愛着が増して
もっと大切にしたくなりますからね。
あと、触ってみたときの質感が、
ほんもののぬいぐるみみたいだ。
これは、すごくいいですね。
ほぼ日 ありがとうございます。
ぬいぐるみの肌触りを目指しました。
北原 このやさしい肌触りは、
持っていて気持ちいいです。
これも、愛着につながりますね。
ほぼ日 実は、「ほぼ日手帳」も、
単なるスケジューラーというつかいかたを越えて
日記を書いたり、イラストを描いたり、
すごく自由につかっていただいていて。
それこそ、ユーザーさんに
愛着をもってつかっていただいているな、と
日々感じているんです。
北原 それはすばらしいですね。
愛着のある手帳を、より愛着がわくカバーで持つ。
なにより、たのしいじゃないですか。
ぼくはね、ディズニーランドが大好きなんですよ。
フロリダのディズニーランドにはもう何度も行っているし、
舞浜にディズニーランドがオープンしたときは、
とびあがるほどうれしかった。
ほぼ日 もともと、
ディズニーもディズニーランドもお好きなんですね。
北原 ディズニーランドには、
なんともいえない高揚感がある。
だから、このカバーを持った人は、
そういうワクワク感とともに
暮らせるといいなぁと思いますね。
ほぼ日 そうなってくれると、
わたしたちもとてもうれしいです。
北原 余談ですが、
ウォルト・ディズニーさんの言葉もいいんですよ。
「このディズニーランドは永遠に完成しない。
 世界に想像力がある限り、成長をし続ける。」
ほぼ日 ああー。
でも、北原さんのコレクションも
永遠に完成しなさそうですよ。
北原 そうですね、
ときめきがある限り、完成しません。
古きよきものを愛する心と、
「ほぼ日手帳」をつかって毎日をたのしむ心。
どちらにも、過ぎた時間に想像をめぐらし、
愛着をもって大切にする、という共通点がありました。
北原さん、貴重なぬいぐるみとお話を
ありがとうございました!
2013-10-30-WED
 
メールをおくる ツイートする ほぼ日ホームへ