STAMPSの紙上旅行 フィンランドの光 STAMPSの紙上旅行 フィンランドの光
ここは、ヘルシンキ市内のアパルトマン。
日本でも大人気のインテリアブランド
「KAUNISTE」(カウニステ)を運営する
クリエイティブディレクター、
ミッラ・コウックネンさん(Milla Koukkunenさん)の
お宅を訪ねました。

今回「紙上旅行」でつくる
プリント生地のワンピースとスカートは、
もともと、カウニステがつくっている
インテリアファブリックがもとになっているんです。
今回、服地にするにあたっては、
生地えらびからプリントまで、STAMPSが担当。
日本でつくった製品をヘルシンキまで運んで、
ミッラさんにじっさいに着てもらいながら、
彼女が、大胆、かつ繊細なこのデザインをつくった、
その背景をおたずねしました。


<ミッラ・コウックネンさんのプロフィール>

Milla Koukkunen

ヘルシンキ生まれ。
2008年に4人の仲間で立ち上げた
インテリアブランド「KAUNISTE」(カウニステ)の
クリエイティブディレクター。
創業から、製作、プロデュース、
営業、運営、接客まで、KAUNISTEのすべてを担当。

専属のデザイナーをもたず、
力のある国内外のクリエイターと協業し、
ていねいな作品をつくりつづけている。
中国、イギリス、フランスへの留学経験があり、
5カ国語に堪能。

▶KAUNISTEのwebsite

▶KAUNISTEのInstagram
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いいときも、そうでないときも。
写真
吉川
ミッラさんと初めてお会いしたのは、
かれこれ10年前ほどになりますね。
ミッラ
そう! 2012年あるいは13年頃でしたね、
私たちの最初の出会いは、ロンドンでした。
吉川
まだ僕がSTAMPSを立ち上げる前でした。
そのあと、パリの展示会で、
偶然ミッラさんとバッタリお目にかかったり、
東京でもお会いしたり‥‥。
そうして「一緒にお仕事ができたら」って、
話すようになったんです。
そしてその後、2016年に
「紙吹雪」というハンナ・コノラさんの作品で
コラボレーションが実現しました。
写真
ミッラ
そうでしたね。
吉川
そして、今回は
10年、一緒に仕事をしている
「ほぼ日」というウェブサイトで、
あたらしい商品コンテンツをはじめるんです。
そこでは商品をただ売るのではなく、
生活や人生、商品の物語を含めた
読み物を充実させようと思っています。
その大きなテーマが「旅」なんですね。
空想旅行のように旅先を決めて、
そこにインスパイアされた商品をつくります。
なぜかというと、そもそもSTAMPSの商品って、
ぼくが旅が好きで、旅先での印象に紐付いたものが多くて。
写真
ミッラ
吉川さんは、旅から
インスピレーションを受け取っているんですね。
吉川
そうなんです。その第一回が、フィンランドなんです。
では「なぜフィンランドなのか?」といえば、
ぼくが、フィンランドのガラスの器が大好きで、
とくに色ガラスを見ていると、とても癒されるんですね。
その「色で癒される感じ」を
洋服に落とし込んだらどうなるだろう? ‥‥って。
じつは今回、ヘルシンキに来て、
EMMAっていうミュージアム(*)に
行ってきたんですが。
(*)ヘルシンキの隣町、エスポーにある
エスポー近代美術館(Espoo Museum of Modern Art)
略称「EMMA」(エンマ)。
3000点におよぶ近現代美術の作品が収蔵されています。
ミッラ
ええ。
吉川
その日はすごくハードな天候で、
雪で、寒い中を、歩いて行きました。
びっくりしたのが、館内に入った瞬間です。
もう、すごく、心地がいいんですよ。
そこで、オイヴァ・トイッカとかカイ・フランク、
イルマリ・タピオヴァーラなど、
いろんな著名なデザイナー、アーティストの
ガラス作品を見ることができました。
ぼくはもう、その展示室に入ったとたん、
たちどころに癒されました。
これは一体、なんなのだろう? って思いながら‥‥。
ミッラ
吉川さん、ここにあるこの作品、
ティモ・サルパネヴァなんですけれど。
吉川
おおーっ! サルパネヴァ?!
写真
ミッラ
氷みたいでしょう? 
これ、そのまま自然の氷でできているような
気がしませんか? 氷の彫刻のよう。
吉川
そうですね、
ミッラ
フィンランドのガラスのアートって、
私たちの周りの自然がすごく影響していると思うんです。
芸術家たちは、自然にインスパイアされている。
吉川
自然から来るやさしさが、そのまま入ってるようです。
そうか、だから、あのガラスの展示空間全体も、
自然の中に入っていくようで、
癒されたのかもしれません。
フィンランドの人って、
それがつくりだせる国民性なんですね。
これって、アジアとも違う、南太平洋とも違う、
ほかのどこの国でも感じえない感覚です。
その感覚を言葉にすると、
「幸福」という表現しか、出てきません。
「幸せに包まれた感じ」と言うのかな。
僕は洋服をつくっている人間なので、
その感覚をプロダクトに
落とし込みたいと思っているんです。
写真
ミッラ
私たちカウニステがやっていることも、
まさしくそういうことだと思います。
いい状態の時でも、悪い状態の時でも、
居心地のよさとか、快適さっていうものを
届けたいっていう思いがあります。
フィンランドのデザインに関して、
ひとつ思うことは、フィンランドが
「何もないところ」から始まった国だということです。
他の国は、例えば南ヨーロッパもそうですけれど、
長い歴史がありますよね。
そこには王国があって、
王様がいるような歴史をたどってきているけれど、
そういう意味では、フィンランドって、何もなかった。
吉川
そうなんですね。
ミッラ
地理的な意味でも、私たちは、
ヨーロッパのメインのところから
ちょっと離れたところで、
自分たちの文化を育ててきたわけです。
吉川
はい。
ミッラ
1940年代、50年代に、
フィンランドのデザインが国際的な舞台に出ていきました。
最初、ミラノ・トリエンナーレに出品した時、
例えば、タピオ・ヴィルカラのガラス作品は、
とてもシンプルなだけに、
そんな大きな舞台にのせて大丈夫? 
と、当時のフィンランド人たちは心配したんです。
フィンランドの人にとっては、
他のものに比べると、こんなに何もなくていいの、
シンプルすぎるものだと思うよ、って。
ところが、ふたを開けてみたら、
他の国の人たちから、絶賛されたんです。
「ビバ、フィンランディア!」(フィンランド万歳)
という評価をいただいたんですよ。
吉川
不思議ですよね。シンプルなんですけど、
ほんとに温かみがある。
量産品なのに、なぜこんなふうに
人の温かさが残っているんでしょう? 
ミッラ
気候的なことで、私たちは、1年のうち
半分は家の中にいるんですよね。
だから、日常使いのものも、
ただ使い勝手だけではなく、
使っていて気分がいいとか、
心地いいっていうことをすごく考えるんです。
写真
吉川
なるほど。
ミッラ
外国の人たちがフィンランドに来て
器を使って驚くんです、
「え? これって、日常使いのものなんだ」って。
日常使いのものが、こんなにすてきに、
心地よくつくられていることに驚く。
他の国の人たちは、そういう(1年の半分を家で過ごす)
シチュエーションを考えていないのかもしれませんね。
吉川
STAMPSを創業するときにぼくが考えていたのが、
まさしくそういうことだったんです。
だからこそ、ミッラさんのつくる
カウニステのアイテムに強く魅かれたんだと思います。
きっとミッラさんと僕の考え方の根底は、
たぶん同じだと思うんです。
ただ、表現方法がちょっと違う。
ミッラさんは、プリントする柄ひとつとっても、
アーティストへの信頼感とか、
深いところでチョイスされていると思うんです。
ミッラ
私たちに共通しているのは考え方だけじゃなく、
例えばマテリアルの選び方もそうですよね。
リネンとかコットンを使うのも、
昔は着心地の良さゆえ選んでいましたが、
今はエコロジカルな意味付けがあったりもします。
こういうものを使いたいっていう思いで
お互いにやってきたんですよね。
吉川
今日、ミッラさんのお宅に初めて伺いましたが、
ここで見るカウニステのアイテムが、
ほんとにかわいく見えます。
もちろん、以前ヘルシンキにあったお店も
すごくかわいかったんですけど、
やっぱり住まいの中で見るカウニステが、すごく新鮮で。
ミッラさんのセンスにあらためて感動しました。
ミッラ
お店はいろんな意味で、
もっとごちゃごちゃしていましたよね。
ここだと自分で選んだものだけですから。
写真
(つづきます)
2023-04-08-SAT
フィンランドのイラストレーター / アーティスト、
Matti Pikkujämsä(マッティ・ピックヤムサ)が
インテリアブランド
Kauniste(カウニステ)のために描いた柄をつかって、
ワンピースとスカートをつくりました。
写真
STAMP AND DIARY + ほぼ日

日曜日のワンピース

28,600円(税込)
写真
STAMP AND DIARY + ほぼ日

日曜日のスカート

26,400円(税込)