STAMPSの紙上旅行 フィンランドの光 STAMPSの紙上旅行 フィンランドの光
ここはヘルシンキの中心部にある
「アカデミア書店」(Akateeminen Kirjakauppa)。
20世紀を代表するフィンランドの建築家、
アルヴァ・アアルトが1969年に設計した大型書店です。
天窓から吹き抜けの空間にひろがる
おだやかな光にあふれた店内、その2階には、
建築家の名を冠した喫茶店
「カフェ・アアルト」(Cafe Aalto)があります。

ヘルシンキに来たら必ずここでコーヒーをのむ、
という、STAMPSの吉川修一さんが、
1994年からフィンランドで暮らし、
通訳、翻訳、コーディネートをなさっている
森下圭子さんにインタビュー。
‥‥のつもりが、森下さんからもたくさんの質問が! 
ふたりの「取材を始める前のおしゃべり」、
どうぞおたのしみください。
[1]

いいデザインが、
福祉につながる。
写真
吉川
きょうはたくさん歩きましたね。
今回の生地のデザインをしてくれた
アーティストのマッティ・ピックヤムサさんが
ヘルシンキでよく訪ねる、
アイデアのもとになるような場所を、
いくつか、僕らも、追体験させていただいて。
とっても楽しかったです。
こんなヘルシンキ、僕は知らなかった!
森下
私も楽しかったです。
吉川さんがフィンランドに来るようになったのって、
いつぐらいのことだったんですか。
吉川
2012年くらいだと思います。
森下
それまで、フィンランドって
どんなところだと思っていらっしゃいましたか。
吉川
最初にイメージしていたのは、
フィンランドの人たちは物静かな方々で、
ちょっと日本人的なメンタリティーを
持っているんじゃないかなということでした。
あと福祉がすごく進んでいるとか。
森下
そうですよね、そんな印象ってあると思います。
その時から、フィンランドのデザインに興味が?
吉川
いえ、まだアルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)が、とか、
カイ・フランク(Kaj Gabriel Franck)が、というような
デザイン的な興味は持っていませんでした。
おとなりのデンマークには
2005年ぐらいに行ったことがあったんですが、
その頃はまだ個別の国への興味というよりは
「北欧」という漠然としたくくりで。
でもいろんな情報が入ってきて、
どうやらフィンランドというのは、
また別の、すばらしい個性のある国らしいぞと
わかってきて、それで、訪ねてみたんです。
写真
森下
はじめていらっしゃったとき、
どう思われました?
吉川
感動しました。
でも、何に感動したのかを
言葉であらわすのが難しいんです。
一言でいうと、間(ま)というか‥‥。
森下
間(ま)!
吉川
人と人との距離、物と物の置き方。
その「あけかたのゆったりした感じ」を、
ちょっと異質なくらいに感じたんです。
いままで行った都市とは違うぞ、と。
かんたんに言うと「距離がある」んですよね。
でも、冷たくはない。
これってなんなんだろう? と。
その当時、ぼくはまだSTAMPSをつくる前で、
アパレルの会社でマーケティングみたいなことを
やっていたんです。
その関係で、アルテックに家具を見に
行ったりしているうちに、
だんだんと「フィンランドのデザイナー」の存在を知り、
彼らの功績がとても大きなものであることがわかってきて、
どんどん魅かれていきました。
どうやら、この独特の「間」と、
デザインは、関係しているらしいぞ‥‥と。
写真
森下
そういえば、アルヴァ・アアルトも、
カイ・フランクも、
デザインしたプロダクトに
もともと、自分の名前を入れてないんですよ。
吉川
へぇ!
森下
無名性の中ですてきなデザインを
みんなに使ってもらうっていうことを、
ものすごく考えていた。
吉川
ほんとに、それは、尊敬に値することだと感じます。
アノニマスな感覚って、公共の福祉に近いじゃないですか。
そしてフィンランドはそれが一番すばらしいっていうことに
やっぱり感動しますよね。
日本は、やっぱりそこが
遅れてしまっているような気がするなぁ‥‥。
写真
森下
今、お話を伺ってて思い出したんですが、
先日、デザインミュージアムの展示を見ていて
「あ、フィンランドは『福祉』について
こういう捉え方をするんだ」
と思ったことがありました。
それは「みんなの日常の生活を豊かにすることが
福祉につながる」ということなんです。
どういうことかというと、
パブリックな施設や空間の椅子とか照明、
そういうところを心地のよいものにすることが
公共の福祉につながるっていうふうに考えている。
だからフィンランドでは、
例えば病院にアアルトのつくった家具が使われているとか、
地方の小さな町の高校の職員室で
天井からはユハ・レイヴィスカ
(Juha Ilmari Leiviskä)っていう
建築家のデザインしたランプがいくつもぶら下がっていて、
「これ、何十万円になるんだろう」なんて、
私はすぐそういう計算しちゃうんだけれども、
そういうところにお金を費やすことが、
私たちの幸福、福祉になるんだって、
フィンランドの人々は考えているんです。
吉川
へぇぇ!
森下
だから町のどこにいても居心地のよさを感じる、
みたいなことが、あるのかもしれないですね。
だから吉川さんが感じられた「間」(ま)、
ギュウギュウしていない感じ、
余裕を持たせながら椅子を並べるとかって、
福祉につながる考えとしても、あるのかもしれません。
吉川
ぼくはパリもロンドンも好きなんですが、
あきらかに違うんですよ。
その都市の個性ってありますよね。
パリだったら、欲望をそそるディスプレイ、躍動感、
どれだけ素敵なんだよ! っていうのを見せて、
人を刺激するというクリエイティビティがある。
ロンドンだと、王者の余裕みたいなところというか、
キングダムという威厳やプライド、そこから出る余裕、
「紳士」の精神がそのまま街をつくっている。
それを僕は、旅人として、
つまり住人ではない他所者として
楽しませてもらっているわけなんですけれど、
あくまでも異邦人なんですよね。
森下
ええ。
吉川
でも、フィンランド‥‥ヘルシンキに来ると、
僕はいきなりフワッと中に入れちゃう。
溶け込みやすいというか、異邦人感がないんです。
森下
ああ! わかります。
吉川
いわゆる「アジア人を見る」という視線がないですよね。
とにかく人間のやさしさを感じる。
それはいいふうに捉えすぎかもしれないし、
ひょっとして関心がないだけなのかもしれないんですけど、
僕はとにかく居心地がいいなって思うんですよ。
今日、森下さんといっしょにヘルシンキ市内を歩きながら、
ずっと思ってたんですけど、
「やっぱり自分がやりたいことってこれなんだな」と。
それは「心地よさ」っていうことを、
洋服に落とし込みたいということです。
STAMP AND DIARYっていうブランドは
最初からそんなつもりで立ち上げましたし、
パーマネントデザインというか、
合理的なデザインの在り方についても思いました。
パブリックスペースっていうのは、
毎日、いろんな人が使うものじゃないですか。
毎日使うものがいいものであればあるほど、
人の心に刺さるものなんだという考えで
これまでもずーっときましたが、
フィンランドには、ほんとうにたくさん、
その考えがあふれているような気がするんです。
写真
森下
私、フィンランドにいて思うんですが、
ここは、自分で想像したり、自分で考える時間を
たくさんくれるような場所だと。
私はそんなに他の都市を訪れた回数が多くないですけど、
例えばパリに行くと、パリの人たちのたたずまいって、
「もの言う存在」なんですよね。
直接お話しをしているわけじゃないのに、
その人たちからいろいろ語りかけられているぐらいの、
圧倒的な存在感みたいなのを感じる。
吉川
そうですね、たしかに。
森下
でもフィンランドの人たちって、
こちらから、自分から入っていかないと、
ただ、フワッとそこにいる(笑)。
吉川
うん、わかります。
森下
でも、フィンランドには想像をさせる余白があるんです。
さっき、このカフェで近くの席にいた、
すてきなおしゃれなおばあさん。
「このおばあさん、何者なんだろう?」とか、
「この人は何やっているのかな?」って、
私は想像をふくらませてしまって、
そして、そういう想像をすることを、
おそらく、みんな、受け入れてくれているんです、
フィンランドの人たちって。
吉川
実際に、話しかけていらっしゃいましたね。
森下
つい(笑)! きっと知識階級のかただなと思ったら、
スラブ語の通訳をなさっているんだとおっしゃってました。
逆に「あなたはどうしてそんなに
フィンランド語が上手なの?」なんて訊かれたりして、
いろいろおしゃべりしちゃいました。
写真
吉川
怪しい人、というような感じじゃなく、
いきなり話しかけた森下さんを
スッと受け入れるんですよね。
見ていて楽しかったです。
スキがあるというか、ものすごく、圧がない。
たとえばミラノとか、イタリア人の圧と、真逆です。
森下
イタリアの都市部の方って、
圧倒的な感じがしますよね(笑)。
吉川
はい。ああいった圧倒的な存在感とちがって、
フィンランドの人って空気みたいだし、
すごくまろやかな土地というか‥‥。
もしかしたらリラックスしてる度合いが、
すごく高い国民性なのかなって。
住んでみないとわからないことなんですけれど。
森下
たしかにそうですよ。
いったいこのリラックスは、
どこから来ているんでしょうね。
自分にとって何が心地よいか、
自分は何をもって幸せとするのか、
楽しいのかっていうことを、
自分自身の基準ではっきり持っているのかな。
損か得かとか、勝ちか負けかとかじゃなくて、
あくまでも自分にとって、
それが心地いいことなのか、
その選択肢が自分にとって幸せなのか。
吉川
フィンランドって、ひとつのデザインを、
幅広い世代の人が使っているんですよね。
マリメッコもそうですし、
アラビアの食器やイッタラのガラスなど、
デザインの遺産みたいな古いものも、
新しいものも、区別なく、フラットに使っている。
デザインが、ほとんどパブリックなもののようです。
森下
うんうん。
吉川
日本でファッションの仕事をしていると
「差別化」がいかに大事かを教え込まれるんですけれど。
フィンランドにはそういう考え方がなさそうです。
写真
森下
あえて、べつに、
「何か」になる必要はないんですよ。きっと。
吉川
ああ‥‥、なるほど! そうですよね。
「着飾る」っていう言葉ってあるじゃないですか。
でも自分のつくる服は、そこと対角的な場所に
存在するような服でありたいと思っているんです。
それはべつに地味っていうことじゃなく、
着て「かわいいね」と言われるのが目的でもなく、
「普通」っていうか、
着て気持ちいいと思ってもらえる服をつくろうと。
森下
あ、わかります。
自分がそれを着た時に、
自分でいられる服、っていう感じですよね。
吉川
そうです。それを目指していたので、
フィンランドに来ると、
それが間違ってないんだっていうことが
確認できて、ホッとするんです。
(つづきます)
2023-04-05-WED
大の旅好きであるSTAMPS代表の吉川修一さんが、
以前フィンランドを訪れた際に
魅かれて持って帰ってきたヴィンテージガラスを、
今回特別に販売できることになりました。
1点もののため、すべて抽選販売となります。
写真
[ヴィンテージ] カイ・フランク タンブラー6個セット箱付き
(トーベ パッカウス/TOIVE PAKKAUS)

88,000円(税込)
写真
[ヴィンテージ] SVシリーズ デカンタ/グラス

55,000円(税込)
写真
[ヴィンテージ] Fauna グラス(S)(M)

5,500円〜6,600円(税込)