HOBO SIRI SIRIのジュエリーに使われている、
ナチュラルグレーの無調色バロックパール。

深みのある色合いが醸し出す、
上品なたたずまいが魅力ですが、
入手するのはなかなか困難なのだそうです。

アコヤ貝の真珠は一年のうち春にしかとれない上に、
ナチュラルグレー色は貝を開けてみないとわからず、
たまにしか出てこないそうです。

もともとつくろうとしている色ではないため
市場にも出回りません。

すこしずつあつめたものを、産地のパール屋さんが
ジュエリーメーカーなどに紹介するのですが、
品質のいいものからどんどん、
もらわれる先が決まってしまうそうです。

つまり、一年のうちある時期にだけ入手できるのです。

そう聞いて、わたしたちは思いました。

なんだ、真珠って、なんだか「旬のもの」っぽいぞ?

そういえば、そもそも真珠がどうやってつくられるか、
わたしたちはよく知りません。

せっかくの機会なので、見に行ってみることにしました。

わたしたちが向かったのは、愛媛県宇和島市。
三重県の伊勢志摩や長崎県の対馬などとならぶ、
養殖真珠の一大産地として知られています。
HOBO SIRI SIRIでも、「パールのリング」以外は
宇和島近郊の海でとれたアコヤ真珠を使っています。
(「パールのリング」は伊勢でとれた真珠を使っています)

駅前の広場にはソテツが生えていたりして、
南国ムードたっぷりです。
案内してくださったのは、宇和海真珠株式会社の一宮さん。
どうぞよろしくお願いいたします!
街を出はずれて海外沿いに車で走ると、リアス式海岸特有の
くねくねと曲がりくねった道がつづきます。
「静かな入り江がたくさんあるおかげで、
 魚や真珠などの養殖が盛んなのです」
と一宮さん。
たしかに入り江の海にはほとんど波がなく、
鳥も啼いていたりして、のんびりした実にいいムードです。
海をのぞきこんでみると、すごくきれい!
このへんの海は透明度が高いことで知られているそうです。
今回、真珠の養殖について教えてくださるのは、
中村治郎さん。
中村さんは、質の高い真珠をつくるエキスパートで、
その腕前は賞を獲るほどなのだそう。
「まずはちょっと見てみますか」
ということで見せてもらったのは、
黒いプラスチックのカゴに入った山盛りのアコヤ貝たち。
ぎっしりつまっています。
なるほど、ここ貝を育てているんですね。
「いやそうじゃなくて、買ってくるんです。
 実は中国と日本の貝をかけあわせた、ハーフなんですよ」

なんと、モデルや芸能界のみならず、
真珠界にもハーフの波が。

「この母貝に、真珠のもとになる『核』を入れるんですが、
 まず『抑制』といって、半年くらいこのカゴに入れて、
 貝をちょっと弱らすんです」

えっ、弱らせる?

「あとで手術するんで、その麻酔がわりです」

あっ、えっ、手術?
いったいどういうことなんでしょう?

「では、手術するところをご覧に入れましょう」

中村さんは、わたしたちを作業場のようなところに
連れていってくれて、母貝を1つ取りだし、
ハサミを手にしました。

「核だけでは、真珠はできないんですよ」

別のアコヤ貝から切り取った外套膜(がいとうまく)の
切片(ピース)を核といっしょに入れないと、
アコヤ貝は真珠をつくらないそうなのです。

ハサミで外套膜を切り出し、まな板みたいな木の板の上で、
びらびらした部分を取り除きます。
残った細長い、細かくピースに切り分けていき、
さいごに薬品をかけて完了。
なるほど、これが手術ですね。

「いや、手術はこれからです」

中村さんは、なにか特殊な器具が据えつけられたデスクに
アコヤ貝をセットして、「核入れ」を実演してくれました。

「アコヤ貝の生殖巣に切れ目を入れ、
 そこからピースを入れます。
 そのあとすぐに核をおなじ場所に入れます」

両手にメスのようなものを持って、
すばやく作業する手さばきの、なんとあざやかなこと!
そうか、これが「手術」かあ。
この「核入れオペ」、あまりにもすばらしいので、
ぜひ動画でご覧ください。
せっかくの機会なので、ということで
わたしたちも体験させてもらったのですが、
いやもう、ちょっと習ってできるようなものでは、
まったくありませんでした。
アコヤ貝の部位が書かれた図も見たりしながら
やってみるのですが、ぜんぜんうまくいきません。
中村さんレベルになるには、どれだけかかるんだろう‥‥?

「核入れしたら、この底の浅いカゴに入れて、
 波の穏やかなところで1ヶ月ほど『養生』させます」

カゴの中には、アコヤ貝たちが整然と並べられています。
手術後、しばらく入院する感覚ですね。
退院したら、こんどはどうするんですか?

「『沖出し』といって、貝をネットに移して、
 いかだに吊るします。
 見に行ってみましょう」

中村さんは船で、わたしたちを沖合いに
連れていってくださいました。
たくさんの黒い球が並んでいて、
「浮き玉いかだ」というそうです。

「このへんは潮の流れがはやいので、
 貝の活動が活発になって、真珠が育つわけです」
真珠の養殖って、思った以上に手間がかかるし、
年によって、育ち具合やでき具合もちがうらしいし、
もしかして、海苔とかに似ているかも?
どうやら真珠が「旬のもの」という直感は、
そんなにまちがっていなかったみたいです。

さいごにいくつか、沖出ししたあとのアコヤ貝を
開けてみてもらいました、
すると、1つめにナチュラルグレーの真珠が!

「実は、ナチュラルグレーは通常の入札では
 取り引きされないんですよ。
 だから逆に、ちゃんとあつめると価値が出るのです」
なるほど、そういうことなんですね。
まさに「うまれたままのパール」が見られて、
よかったです。
中村さん、一宮さん、ありがとうございました!