セーターにネックレス。HOBO SIRI SIRI 山のコレクション セーターにネックレス。HOBO SIRI SIRI 山のコレクション
「山のコレクション」ができるまで〈セーター篇〉
糸や編み目と向き合って、
あたらしい素材をつくれたときが、
いちばん感動する瞬間です。
HOBO SIRI SIRI「山のコレクション」では、
メインアイテムであるジュエリーだけでなく、
ジュエリーをより引き立ててくれる
セーターもラインナップしています。
どんなセーターが、どんなふうにできてきたのか、
ニットブランド「Nahyat(ナヤット)」のデザイナー、
依田聖彦さんに語っていただきます。
お話していくうちに、SIRI SIRI岡本さんとの共通点も、
いろいろ見えてきましたよ。






伝統をリスペクトして、
あたらしさだけのほうに行かない
ほぼ日
「山のコレクション」のデビューに合わせて、
ジュエリーに似合うセーターも
つくろうということになったわけですが、
だれにお願いするか、けっこう悩みました。
岡本
スイスのブランドとコラボという話もあったんですけど、
スイスって、洋服のブランドがあんまりないんです。
写真
ほぼ日
あてがなくて困っていたときに、
たまたまナヤットの展示会におじゃまする機会があって、
見たり着てみたりしたら、すごくいい。
すぐスイスにいる岡本さんにサイトを見てもらいました。
岡本
ナヤットのサイトを拝見して、
手ざわり感というか、人の存在を感じました。
ディテールに対して気持ちが込められているのがわかる。
あとは素材に特化しているというか、
素材そのもので表情を出している気がして、
わたしも素材が好きなので、すごく共感しました。
ほぼ日
写真で見るだけでも伝わってきますよね。
岡本
伝わってきます。
クラフト的というのか、
でも、いわゆる「手づくり」という感じではなく、
もうちょっとプロダクト的なところが
SIRI SIRIにも近くて、そこも共感を覚えるポイントです。
依田
ぼくもSIRI SIRIのサイトを拝見して、
共通する部分がありそうに思っていました。
SIRI SIRIのジュエリーは、ガラスとかアクリルとか、
工芸に根ざした素材を、
現代的なデザインでまとめている印象があります。
あたらしく見えるだけでなく、その背景にはきっちり、
伝統や歴史に裏打ちされた素材や技術がある。
最終的にアウトプットしているものはちがうけれど、
根本的な姿勢は近い気がしました。
写真
岡本
そう思います。
ほぼ日
いわゆる温故知新というのか、伝統をリスペクトして、
あたらしさだけのほうに行かないのが、
共通した特徴ですよね。



スイスで見かける古い木材の色を
ニットで表現した
ほぼ日
今回の「木のジュエリーに合うセーター」を、
どんなふうにデザインされましたか?
依田
プロジェクトに参加したあと、岡本さんから
スイスで撮った写真を資料としていただいたんですけど、
それを見ていて、古い木材がうつくしいなと感じて、
その色をセーターで再現できないかなと考えました。
ほぼ日
へえ、古い木材の色。
依田
雪がふってぬれた木の陰影とか、すごくいいなと思って。
日本だと意外にお目にかかれないものだし、
この感じを糸の風合いと色で表現したいと思いました。
写真
岡本
たしかにスイスでは、いい感じの古い木造の建物を
よく見かけます。
依田
木のザラッとした質感をイメージしつつ、
あまり野趣的になりすぎないよう、
すこしなめらかさも出るように調整しました。
最終的に英国羊毛とモヘアとシルクを混ぜて、
素材をつくっています。
岡本
すこしシルクが入っているので、
上品な感じが出るんでしょうか?
写真
依田
はい、シルクが効いています。
英国羊毛でがしっとした質感を出しつつ、
あるていど形状が保たれるようにして、
そこにとろみのあるシルクや、
けばを吹いたモヘアが合わさって、
こういう風合いになっています。
ちなみにモヘアとシルクだけだと、
女性っぽいというか、きれいになりすぎちゃいます。
ほぼ日
なるほど、逆に英国羊毛だけだとガッチリしすぎる?
依田
はい、固く、男っぽい感じになります。
岡本
なるほど、ちゃんとチューニングされてるんですね。
スイスの雪山でも着られそうな
しっかり感がありつつ、でも垢抜けてる。
ほぼ日
そうそう、素朴だけど、
気が利いているセーターだなと思います。



いい素材ができた時点で
ニットの最終形も決まるのが理想的
ほぼ日
使う糸や編みかたを決めるため、依田さんははじめに
いくつか編地のサンプルをつくってくださいました。
素材にしっかり向き合っている感じがして
印象に残っているんですが、
やっぱり「まず素材ありき」ですか?
依田
はい、そうです。
あたらしい、いい素材ができて、
その時点でニットの最終形も決まるのがいちばん理想的で、
目指しているかたちなんです。
写真
岡本
そこでまず、依田さんにとっての
クリエーションする上での勝負があるわけですね。
依田
そこがほんとうにおもしろいし、好きなんです。
この番手の糸と、あの番手の糸を、
こう組み合わせたら、こうなるだろうというのを、
想像するのが、なによりたのしい。
まあ、思ったようにいかないことも、多いですけど(笑)
岡本
そういうのが好きだから、ニットブランドをやっている?
依田
はい、あるとき気づいたんです。
自分がものづくりをしていていちばん感動する瞬間は、
糸や編み目と向き合って、
あたらしいテキスタイルをつくれたときだなって。
ほぼ日
へええ!
ニットの編地をテキスタイルと表現するのも、
依田さんならではの感性という気がして、おもしろいなあ。
依田
いろんな素材の特性を、
まざまざと感じられる部分に惹かれます。
ナヤットのコンセプトは「糸の多様性を嗜む」なんですが、
天然繊維だからどうとか、
糸の質がいいとか悪いとかじゃなくて、
「この糸の魅力はここなんだ」というのを
伝えていきたいです。
岡本
ああ、いいですね。



「山」を意識した、ちいさな演出たち
ほぼ日
今回、スヌードをご提案くださったのも、よかったです。
写真
依田
もともとは、岡本さんから聞いた、
「スイスでは長いマフラーをしている人が多い」
というお話から、
じゃあせっかくだから、セーターだけじゃなくて、
巻き物もつくろうかということになって。
岡本
長いマフラーをつくるのかなと思っていたら、
スヌードになったから、ちょっと虚を突かれました(笑)
依田
「山っぽさ」をどうデザインに取り入れるか考えるうちに、
もうすこし民族的な雰囲気にしたいと思ったんです。
かたちはスヌードのタイプにして、
そこにフリンジも入れて、ひと癖出そう。
ジュエリーのラインナップにブローチがあるから、
スヌードに長めのスリットを入れて、
そこにブローチを留めて、動きを出せるアイテムにしよう。
そんなふうに考えました。
ほぼ日
そう、スリットが入ってるのがユニークです。
着けてみると、ちょっとケープみたいなニュアンスになる。
あ、「ネックケープ」と呼ぶことにしましょうか。
依田
いいですね。
ほぼ日
なんか依田さんって、ひと癖だけ入れますよね。
すごく主張してるわけではなく、ちょっとだけ変わってる。
岡本
セーターの裾にある、かんぬき止めみたいな糸の装飾を、
あえて身ごろと別の色にして、アクセントにしていたり。
写真
ほぼ日
フィンガーホール(指ぬき)をつけたり、
あとは脇線を外から縫っていたり。
ひと癖じゃなくて、三癖か(笑)
依田
ナヤットでフィンガーホールをつけるのは
はじめてですが、これも「山」を意識してのことなんです。
写真
ほぼ日
ああ、そうかそうか。
アウトドア系のアイテムに見られるディテールですもんね。
岡本
フィンガーホールは実用的だし、しかもかわいいです。
スイスでもやっぱりこうなってると、ありがたくて。
たとえばスマホを操作するときとか、
手袋だと指先が使えないけど、これなら指を出せる。
依田
ぼく自身、よく手袋をなくすので、
これくらいのほうが気楽でいいなと感じます。
ほぼ日
あらためて見てみると、
「山」を意識したちいさな演出が、
ところどころに施されてて、心にくいです(笑)



着る人をえらばないラグラン袖
ほぼ日
レディスをつくったのも、はじめて?
依田
はい、ふだんナヤットのメンズサイズを
女性が買われることもありますけど。
ちゃんとレディスのサイズ感でつくったのは、
今回がはじめてです。
岡本
サイズの話でいうと、
ラグラン袖になっているのもいいです。
わたしは背が高いので男ものも着ますけど、
さすがに肩が広いとむずかしくて。
依田
たしかに。
ちょっと妙になりますよね。
岡本
ラグラン袖だとサイズを気にせずに着られます。
写真
ほぼ日
今回のSIRI SIRIとナヤット、
そしてジュエリーとセーターのお見合い、
予想以上にうまくいった気がします。
ほんとうに組み合わせて相性のいい、
すてきなものができたんじゃないでしょうか。
お二人とも、きょうはありがとうございました。
岡本
ありがとうございます。
依田
たのしかったです。
ありがとうございました。
写真
(終わります)









<これまでの予告>



岡本菜穂さんのでモチーフをさがす旅


HOBO SIRI SIRI 山のコレクション


山との関係が深いスイスの暮らし。
その空気感をジュエリーにしてみたかった。