さよならアルネ   2002-2009 and beyond... Arne
Arne30-表紙

最終回 迷いません。
糸井 さて、もう時間を過ぎているんですが、
最初にお約束したみなさんからの質問を、
一つ、二つやらしてください。
いかがでしょう。
はい、じゃあ、その髪の長いかた。
男性 はい。
「根拠のない自信」をたくさん持ってるんですけど、
慢心とおっしゃってたけど、
それはたぶん仕事がうまく乗ってから
慢心されたと思うんです。
まだ乗ってないときっていうか、
若手の頃には、
好きだから続けてたというのも
あると思うんですけども、
それ以外に何か、自信みたいな、
「根拠のない自信」とかはありましたか。
糸井 いや、わかりました、いい質問でしたね。
切実な質問ですよね。
男性 ぼくも大学3年で、
これから働かねばならないっていう時期なんです。
糸井 21歳ぐらいになるの?
男性 20歳です。
糸井 大橋さんはもう、売れてたでしょう、20歳。
大橋 20歳じゃないんですよ。
大学の4年生のときに仕事をいただいて、
そのままだから。
糸井 「根拠のない自信」の時代、ありましたか。
大橋 根拠のない自信?
でも、そう‥‥ちょっとひと言では
言えないかもしれないけども、
自信があったような、なかったような。
微妙ですね。
糸井 自信のことについて、
1回書いたことあるんですけど、
自信があったことはなかったですね、逆にぼくは。
慢心っていうのはまた違うんで。
たしかに、仕事を始めちゃってからですよね。
で、拍手が来てから慢心するわけですから。
拍手が来たり、こうちやほやっていう、
さっき言葉がありましたけど、
大事にされてるっていうことに合わせて
自分がいい気になるわけだから。

「根拠のない自信」っていう言葉が、
いつからか流行ったんですよ。
ぼくらが若い時には、
「独断と偏見」っていう言葉が流行ったんです。
「まあ、独断と偏見によりますけどね」っていうと、
何でも言えるんですよ(笑)。
で、それまでは言えなかったことなんですよね。
で、「根拠のない自信」っていう言葉のおかげで、
本当は自信のない子が
「根拠のない自信」を持ったんですよ。
だから、たぶんなんですけど、
あなたも本当は自信ないですよね(笑)。
拍手が来ないのに自信を持ってるっていうことは、
本当はないので。
オレはくじ引く時、
当たるはずだと思ってるっていうのは
自信でも何でもないんで。
そういう時代があるのはつらいんですよね。
つらくて弱くてビビってるんで、
自信のこと考えるんだったら、
嫉妬のこと考えたほうがいいんじゃないですか。
嫉妬っておもしろいですよ。
大橋 そうですね、たしかに。
糸井 自分ってどこに行くんだろうっていうことを
わからせてくれるからね。
ちょっと先輩ぶったかな。
だから、「根拠のない自信」って言葉を、
今日限り撲滅しましょうか(笑)。
ね、そういうことにしましょう。
男性 ありがとうございます。
糸井 たぶん。大橋さんも自信っていう形で
持ってるようなものなんか、ないですよ。
大橋 ないと思いますね。
糸井 じゃあ、もうお一方。はい。
女性 大学、私は4回生で、春から働き出すんです。
すごく大好きなところには入れたんですが、
学生生活もすごく楽しかったし、
いろんな人に出会って、
やりたいことっていうのも
まだまだたくさんあって、
働き出すにあたって、
不安とか、心配とか、
好きなことだけど続けていけるのかとか、
いろいろ思うことがあるんです。
大橋さんや糸井さんはやってこられて、
心が折れそうな時とかもきっとあったと思うんですが、
そういう時に、どういうことで
元気を出したのかとか、
そういうことを教えていただけたら。
あと、エールをください(笑)。
大橋 うーん、いや、私はね、
たぶん仕事をいただいた頃っていうのはすごく、
仕事をいただいた経緯みたいなものは
ものすごくラッキーだったので、
自分のその時させていただいた仕事に
不満もなかったし。
ただ問題は自分の描くものについては不満でしたね。
「もっと描けない?」みたいなのとか、
ちょっと怠けちゃったから、
自分に対してすごく不満とか、
そういうことだったので、
自分の立場みたいなものがなかったんですよ。
やりたいこと、させてもらってたから、
ラッキーでありがたいとかっていうことの
毎日だったので。
糸井 本当にこの人は珍しい人なんですよ。
大橋 すみません。すごく申し訳ないけど。
女性 何か、本当はこんなことしたくないのに、
みたいなこととかは、なかったんですか。
何かもっとやりたいことあるけども、
踏み出せないみたいな。
大橋 だから、こんなことしたくなかったことは、
やめちゃったんですよ。
それは、やめなきゃ、
次に何かやることが出てこないから。
女性 その時に、迷いとか、怖さはなかったですか。
大橋 迷いません。
やめたいというのが強いから、
迷わなくて、やめたいと‥‥
私の場合は、
「大橋歩というイラストレーター」じゃなくて、
「『平凡パンチ』の表紙を描かせてもらっている
 イラストレーター」だったんですね。
だから、「やめた」って言った時点でやめたら、
私はイラストレーターじゃないの。
つまり、フリーのイラストレーターに
なれるかどうかなんて、ぜんぜん保証もないし、
『平凡パンチ』の表紙を描いてた人だね、
みたいなところで、
大橋歩っていうイラストレーターは
実際にはいなかったような気がしてたので。
だから、でも、それでもやめたかったから
やめたんですね。
あとが──いつもそうなんですけど、
やめたら何か次が出てくるんじゃないかって、
ちょっと楽観的すぎてたかも
しれないんですけれども。
で、実は今まで来たということは
すごくラッキーだったんですけどね。
糸井 なるほどね。
女性 こういうのが自信なんですか。
糸井 自信じゃなくて、
だってそうとしか思えないんだものね。
恋人と別れるのだって同じじゃない。
別れようかしら、別れまいかしらって言ってたって、
別れるかどっちかしかないじゃない。
別れてからどうのこうの言ってたって
しょうがないんで。
たぶん仕事だってそうですよね。
で、この子と別れたら
次にいるかしらって思わなくたって
別れるじゃないですか。
大橋 そうです、そうです。
糸井 どっぷり付き合ってるっていうのは、
そういうことだからね。
大橋さんは恵まれているけれども、
ちゃんと、これは危ないぞっていう時に
逃げる力があって。
大橋 でも、それを終えないと、
たぶん次は何かやりたいことっていうのは
出てこなかったんですね。
糸井 コップの中にね、水が入ってるところに
「お湯ください」って言っても、
注いでもらってもこぼれるだけだっていう。
これ、ヨガの先生が言ったらしいんだけど、
「1回こぼせ」と。
そうしたらお湯を注いであげるからって。
それは、ぼくは納得いくんですよ。
だから、何かできるんです、みたいな子が
新しく入ってきたりすると、
「できる」をぜんぶ捨てるまで、
何も入れられないよっていうところはある。
だから、学生時代はたのしかったんですよねって、
学生時代、何がたのしかったのか知らないけど、
遊んでるっていうのはたのしいんだよ。
で、ずっと遊んでるっていうのはたのしいんだよ、
永遠に。
だからそれは忘れなくたっていいじゃない。
ずっと遊んでるつもりで仕事してれば。
うちはそう、会社として言ってるんですけど。
大橋 アララ(笑)。
糸井 エールは‥‥まだもったいない(笑)。
まだまだ。
女性 わかりました、ありがとうございました。
糸井 じゃあ、本当に終わりにしましょう。
大橋さんに、もっと本当は聞きたかったこと、
あったかもしれないですけど。
ありがとうございました。
大橋 ありがとうございました。
美術館の人 ありがとうございました!
お客さん (拍手)

(大橋さんと糸井のトークイベントは
 これでおしまいです。
 どうもありがとうございました)

2009-12-28-MON


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