2022年の「海大臣」。

「ほんとうにおいしい海苔が採れました。
そして、それを買うことができました。
今日みなさんに試食していただく海苔、
いずれもうまいものばかりです」

2008年から「海大臣」プロジェクトをひきいる
豊洲・林屋海苔店の相沢裕一さんは、
15年目となることしの海大臣の選考会のはじめに、
そんなふうに言いました。

そうなのです。
これまで、いろいろあったのです。
ばつぐんに美味しい海苔が採れたいっぽうで
全体的には「ん? なんだか‥‥」な年もあれば、
有明海(どころか日本各地)が海苔の不作に見舞われた年、
おいしいことはおいしいのだけれど、
やけに収穫量が少なかった年。

でも、今年は、すばらしい粒ぞろいです。
海苔は、海の農作物。
同じ有明海とはいえ、網を張る位置は異なり、
生産者によって手のかけかたや
収穫のタイミングも異なります。
それゆえ海苔の味は
「ばらつく」のが当たり前‥‥なのですけれど、
今年の海大臣には、それがない。
相沢さんがセレクトし、
林屋海苔店のみなさんと飯島奈美さん、
糸井重里と「ほぼ日」の食品チームが選んだ海苔は、
ぜーんぶ、「こりゃうまい!」なのでした。

海水温の低さが、さいわいして。

じつは今年の海苔がおいしく育ったのには、
ラニーニャ現象による冷え込みが関係しています。
海水温が下がった状態で、
「ゆっくり・じっくり」育った海苔は、
味が凝縮して「うまい海苔」に育ちます。
また、例年とちがうのはその低い海水温のおかげで
「秋芽の一番摘み」と呼ばれる新海苔の時期にも
うまい海苔が採れたこと。
例年だと、まだ海水温が高めな秋は、
海苔の生育に適正な低さまで下がり切らず、
新鮮さはあっても味のよさが「そこまでじゃない」。
だから例年の「海大臣」は、
海水温が低くなる時期まで
芽を冷凍しておく「冷凍網」から育った海苔を
採用することが多かったのですけれど、
今年は最初からうまかった。
なんと6つ(半分!)の海苔が
「秋芽の一番摘み」からの採択です。

「ただし、デメリットもあるんです」
と、相沢さん。
少しずつ育った海苔は、芽がやわらかく短いため、
乾燥した時、やわらかい芽が引っ張り合い、
それが「小穴」になってしまったというのです。
なるほど、言われてみれば、
たしかに例年よりも、今年の海苔には
小穴が多いような気がします。
けれども、「見た目じゃなくって、味がいいこと」を
選考のさい大事にしている海大臣です、
「小穴の多さは味のよさ」と捉えています。

あたらしい生産者たち。

高齢化、そしてきびしい仕事の環境から、
ここ有明海の海苔生産者にも
後継者問題の悩みがあります。
じっさい、海大臣の周辺でも、
跡を継ぐ人がいず、
海苔の生産を辞める人が出たなかで、
うれしいニュースもありました。
たとえば、ことしの「ある海苔」は、
2008年、いちばん最初の海大臣で
「こりゃうまい!」と一同がおどろいた生産者の
息子さんがつくった海苔が採用されています。
また、「海大臣のような
とくべつにおいしい海苔をつくりたい!」と、
皿垣漁協の試みがほかの組合に拡がり、
海苔の種やつくりかたを指導・共有することで、
幾人かの「がんばる海苔生産者」がデビューしています。
その動きは、福岡県内のみならず、
佐賀にも拡がっているとか。

ことしのレシピは中華とイタリアン。

毎年、フードスタイリストの
飯島奈美さんにお願いしている「海苔レシピ」、
2022年のテーマは「中華とイタリアン」です。
選考会ではことしもおすしやの「はしぐち」さんに
すめしを提供していただいて、食べ比べをしたのですが、
ことしの海苔は、そのままでおいしいだけじゃなく、
ごはんといっしょにすると、
さらに「ぐんっ!」と評価があがりました。
もう、おいしいのはわかったから、
飯島さんには、ちょっとリクエストをしてみようよ、
と、糸井重里が出した宿題が「中華とイタリアン」。
「油との相性もいいと思うんだ。
きっと、うまいぞ」と予想したとおり、
飯島さんのレシピは、意外性もありつつの
「みんなの好きな味」。
別ページでくわしく紹介をしていますので、
ごらんくださいね。
過去のレシピも、ぜひ!)