2020年の「海大臣」。

量の採れない年でした。
「海大臣」のふるさと有明海に限らず、
生産者の高齢化や跡継ぎ問題で
日本の海苔全体の生産量は年々減少。
かつて国内で100億枚作られていた海苔は、
いま、73億枚まで減産になっているということです。

追い討ちをかけたのが温暖化。
おいしい海苔をつくるには、
海水温が適度に下がることが重要なのですけれど、
この冬の有明海の海水温は、
期待したようには下がりませんでした。
そこで例年よりも長く海に網を張ることで
生育を促したものの、
逆に「育ちすぎ」の(=味がおちる)海苔が
増えてしまうことにもなりました。

‥‥と、なんだかずいぶんネガティブな
書き出しになっちゃいましたが、
さて、ことし12年目を迎える「海大臣」は‥‥?

おいしい海苔が集まりました。

ご安心ください、ことしの「海大臣」、
ちゃんと、おいしい海苔が集まりました! 
2008年から「海大臣」のプロジェクトで
陣頭指揮をとってくださっている、
築地(現・豊洲)の老舗・林屋海苔店の社長であり、
国内外の料理人からの信頼も篤い
「海苔の目利き」である相沢裕一さんが、
今年も、おいしい海苔を探してくださいました。
「新海苔」として重宝される
「秋芽の一番摘み」の出来が、
有明海ではとてもよかった、
というのも吉報でした。
「秋芽の一番摘み」は香りが良く、
初物(縁起物)として愛されてきた海苔。
味はもちろん「わるくはない」のですけれど、
しょうじき「冷凍網」のほうがうまい、
というのが、海苔のツウの間では定評となっています。
冷凍網は、秋よりも海水温が下がった冬、
海苔栽培の環境として最適な時期をねらって、
冷凍しておいた海苔のいい芽から育てるのですから、
生産者にとっても「腕のみせどころ」なのですね。

ところが、今年に限っては、
冬の海水温が下がり切らなかった。
でもそのいっぽうで、秋芽の海苔が、
香りだけじゃなく、味よく仕上がりました。
理由は定かではありませんが、
海苔は、海の農作物。
生産者の努力に、天候や海況が味方したのでしょう。
そんなわけでことしの海大臣には
3種類の「秋芽の一番摘み」が採用されています。

冷凍網にも、いい海苔がたくさん。

「じゃあ、ほかの時期の海苔は?」
大丈夫です。
相沢さんが福岡県の各漁協から出品された海苔を、
食味審査をしたうえで買い付けてきた海苔は、
いずれもおいしいものばかりでした。
そのなかから、6月末に開かれた選考会を経て、
9種類の海苔が「海大臣二〇二〇」に採用されました。
選考委員は、糸井重里、
フードスタイリストの飯島奈美さん、
相沢さんと林屋海苔店のみなさん、
「ほぼ日」からも数名が参加し、
おすし屋の「はしぐち」さんの協力のもと
行なわれました。
相沢さんから、この1年の海苔の状況を聞き、
ちょっと不安げにはじまった選考会でしたけれど、
全員の心配は、ひとくち試食して吹き飛びました。

「なんだ、ちゃんと、おいしいじゃないか!」

そのまま食べてもうまい、
すめしと合わせてもまたうまい。
「当たり年」に見られる
飛び抜けてすごい海苔はありませんが、
それぞれに個性がゆたかで、
「まずは、ひとくち、食べてみてください」と
胸を張って言える海苔が揃っていました。

収穫量が減り、ましてや暖冬だったなかで
いつもの海大臣クラスのうまい海苔を揃えるのは、
相沢さんにとっても
たいへんな仕事だったにちがいない。
結果、いつもの年よりも多めの海苔を
「海大臣」としてお届けできることになりました。