「ことしの海苔は記録的不作」
「半世紀ぶりの大凶作」
そんなニュースが流れたのは
春、まだ寒さが残る頃でした。
この不作は全国的規模で、
「海大臣」のふるさと有明海も例外ではないと
新聞やネットは報じていました。
海水温が下がらない!
海苔の健康な生育には
海水温があるていど下がる必要があるのですが、
海があたたかいままだったこと、
そして有明海周辺も雨が少なく、
筑後川からの流水が減ってしまったことも、
不作の原因となりました。
海苔の栄養になる、
山から川をくだって海に届くミネラル分が
足りなくなってしまったのですね。
ところが!
「海大臣」仕入れの担当である
林屋海苔店の相沢裕一さんからの報せは、
おどろくべきものでした。
だって、相沢さんの第一声は、
「今年も『海大臣』らしい、
いい海苔が集まりましたよ!
たのしみにしていてくださいね」
というものだったからです。
「ほんとうに、運よく、
いい海苔が手に入ったんです。
ぼくら、ついてますよ!」
そして、相沢さんの持ってきてくれた
海苔を試食して驚きました。
たしかに「いつもの海大臣のおいしさ」と太鼓判が押せる
おいしい海苔がそろっていたからです。

幸運だった「冷凍網の一番摘み」。
その理由は、タイミング。
海苔は、タネを網に定着させ、
海中に広げて育てます。
季節でいちばん最初に採れた海苔を
「秋芽の一番摘み」と呼び、
お茶でいうと「新茶」のようなもので、
市場で、とても人気があります。
そのあと、できあがった「タネ網」は冷凍し、
秋、冬、春にかけて、
1枚ずつ海に出して栽培をしていきます。
そのなかで一番最初に採れた海苔を
「冷凍網の一番摘み」と呼びます。
新茶のようなイベント性はすくないけれど、
おいしい海苔になることが多く、
市場では、やはり、
価値のあるものとして取り扱われます。
海大臣のふるさとである有明海の
「冷凍網の一番摘み」は、例年より1週間遅れで、
海水温がじゅうぶんに下がるのを待ち、海に出しました。
その後、海況も天候も落ち着いて、
また海苔特有の病気もなく、すくすくと育ち、
とてもおいしい海苔ができあがりました。
相沢さんが「海大臣」候補として入札したのは、
そんな海苔たちだったのです。
ところがその後、海水温が思うように下がらず、
また、川の水が例年より少なかったことで、栄養が足りなくなり、
有明海のみならず全国の海苔の産地で
「不作」と言われる状況がおとずれてしまうのでした。
ほっと胸をなで下ろした選考会。
「海大臣」は、仕入れる種類を決めずにいます。
いい年だったらたくさん、
そうでない年は厳選して。
数合わせのために増やすこともなければ、
せっかくのおいしい海苔を
種類が多すぎるからとやめることもありません。
選ぶ場は、食べ比べて決める「試食選考会」です。
フードスタイリストの飯島奈美さん、
「ほぼ日」からは糸井重里と担当チーム、
もちろん相沢さん、そして林屋海苔店のみなさん、
九州の海苔関係者のかたがた、
さらに、糸井重里が好きなおすしやさんである
(相沢さんとのご縁のはじまりとなった)
「はしぐち」さんが集まりました。

おどろきました。いつもの年なら、
「うーん、これはちょっと」
「惜しいなあ」
というような海苔があるものなのですが、
今年は、ぜんぶ、ちゃんと、おいしかった!
極端にとびぬけた個性の海苔がある、
というわけではありませんが、
「海大臣」の名前を冠してはずかしくない海苔ばかり。
結果として相沢さんが探した海苔14種類すべてを、
「海大臣」として仕入れることになりました。
販売は、夏と冬、2回にわけて。
冬、販売する分は、焼き加工をせずに、
林屋海苔店の冷蔵庫で、時期が来るまで眠らせておきます。
14種類のうち2種類は、「しお」加工の海苔です。
加工しないと弱い、というよりも、
加工するとさらに個性がひきたつ、
と判断した海苔をえらんでいます。
ですので、夏は12種類+夏のしお、
冬は夏と同じ12種類+冬のしお、
それぞれ13種類の海苔を販売しますよ!
(次回予告編は、飯島奈美さんによる海苔のレシピです。)