ウルグアイの羊のセーターは、なぜ、こんなに気持ちがいいのか? — ニットデザイナー 渋谷渉さん

MITTANの定番のセーターは、
ウールなのにまったくチクチクしなくて、
素肌に着てもとても気持ちいいんです。
カシミヤのようになめらかでやさしくて、
しかもウールらしいハリがしっかりあって、
からだのラインがきれいにカバーされる。

ウルグアイの羊ってなんでこんなにいいんだろう?
その理由が知りたくて、たずさわっている方に
お話をうかがいました。

第1回は、ウルグアイの羊が大好きで、
ウルグアイの羊牧場に飛び込んだ
ニットデザイナーの渋谷渉さんです。

渋谷渉さんプロフィール

渋谷 渉

ニットデザイナー。

ニットメーカーの金泉ニット(株)で
ウール生地の開発を担当。
ニットの風合いの要となる縮絨を研究し、
開発した製品サンプルをアパレルやデザイナーに提案。
2019年3月、より幅広い活動を志して退職。
深喜毛織(株)で糸づくりを学び、
南米ウルグアイの羊牧場で働く。
現在、帰国し、ものづくりの職人や現場と
アパレルやデザイナーをつなぐ仕事をはじめたところ。

渋谷さんが、ウルグアイの日々をつづった
ブログもぜひごらんください。
https://note.com/watarushibuya

ウルグアイの羊のニットは
弾力があって、かたくならず、肌にやさしい。

もともと、僕、金泉ニットという
ニットメーカーに勤めていたんですよ。
ニットの仕上げの洗い方とかを
ずっと研究開発してたんです。
MITTANのセーターの洗い加工も、僕が。
あれはかなり難しい縮絨(しゅくじゅう)をやってます。

縮絨をする前

縮絨をしたもの

ウール製品は大きくつくって、縮めるんですけど、
糸をつくったタイミングや染めた色によっても
縮絨率が変わるので、
その都度のコントロールは本当に大変で、
それができるかどうかが、工場の腕だったりして。

ウールは弾力性があって、どんどん縮絨をかけていくと、
最終的にはフェルト化します。
その直前に、一番風合いがよく出るタイミングがあって。
そこを見極めます。
普通にやったら、あんな風合いにはならないんです。
フェルトになる直前と、普通の縮絨の間のところで
うまくコントロールすると、
あの独特の風合いが出るんです。
弾力があって、かたくならず、肌にやさしい。

ウルグアイのウールが大好きだから、
ウルグアイに行きました。

僕は、工場の中に入って開発をして、
お客さんに提案する仕事をしてました。
そんな中で、ウルグアイのウールが本当に大好きで、
風合いがすごくよかったので、
たくさん使ってたんです。
今年の3月に会社を辞めて、
今までは糸から製品づくりのところをやっていたので、
今度は、原料から糸づくりまでを勉強しようと思って、
深喜毛織さんに研修に行きました。

で、そのままの流れで、原料をたどろうと思って、
南米のウルグアイの牧場に行ったんです。
勉強っていうか、まぁ、調査を兼ねて。
ウルグアイに限らず、
南米のウールの情報は、まったくないんですよ。

こんなに大好きで使ってたのに、なにも知らない。
知ってることって、この羊毛の細さと、
ウルグアイから来てるウールだっていうことだけで。
扱ってる商社にも、そこまで詳しい情報がなくて。
でも、いいウールなんですよね。

深喜さんから日本の商社、
そして、ウルグアイの商社と繋いでもらって、
そこから牧場に話をしてもらいました。
「お金はいらないから、
宿と食事だけ提供してください」
ってお願いして。
なんでもします、働きます、って。

スペイン語は、ゼロで行きました。
ウルグアイに行ってから、
2週間、語学学校へ行って、
片言だけ喋れるようになって、
で、牧場に1か月。

語学学校はモンテビデオで、
牧場は、サルトっていうところです。
モンテビデオから北西に500キロぐらいの、
アルゼンチンの国境に近いところですね。

牧場は5000ヘクタールあって、
移動は、車と馬ですね。
馬も、乗れるようになりました。

先輩のガウチョたちがやさしくて。
たぶんウルグアイの国民性だと思うんですけど、
プッシュしてこないというか。

「これ、やれ」とか、
あんまり指示をしないんですよ。
「お前、やりたかったらやっていいぞ」
みたいな。

ウルグアイハイブリッドと呼ばれる特別な羊。

羊のことですよね。
MITTANのセーターになっている糸は
ウルグアイハイブリッドと呼ばれる羊の羊毛です。

ウルグアイハイブリッドは、
ウルグアイのメリノの原種に、
オーストラリアの細い毛の子たちを輸入して、
毛の細いもの同士で掛け合わせて、
25年ぐらいかけて生まれたものです。

羊の種類としては、メリノなんです。
糸がハイブリッド、っていうことです。
現地では、単純に、毛が細いメリノ、です。

タグを付けて管理してて、
そのグループはそのグループで放牧させてるんですよ。
数を数えたりもして、混ざらないように管理して、
毛の細さごとにランク分けしてタグの色を変えて、
それで段階的に分けてますね。

この牧場の羊は、
ぜんぶで1万1000から1万2000頭いるんですけど、
MITTANのセーターで使っている15.5μ(マイクロン)の
極細の原料がとれるのは、
1000頭くらいなので、かなり少ないですね。
ウルグアイ全体では、もっといますけど。

いろんな牧場で少しずつ育ってますけれど、
全体から見たら、やっぱり、数は相当少ないです。
ウルグアイの商社が、ブリーディングプログラムっていう、
遺伝子交配のプログラムを管理してて、
その下に地方企業が40社、
さらにその下に2000の牧場がある、っていうかたちです。

その取り組みの中に、
遺伝子を組み換えていきましょうっていう動きと、
経営のバランスを取るために、
食肉を売っていきましょうっていう動きとがあるんです。

原毛って、ファッション用がメインなので、
僕らが服を買わなくなっちゃうと、
ガウチョたちの仕事がなくなるっていう、
けっこう遠いところで繋がってるんですね。
原毛の価格っていうのは上下しやすくって、
このバランスをどっかで取ってあげないといけない。
羊肉の価格っていうのは逆に割と安定してるらしいんです。

繊維は、ウールのほかに綿や麻や化繊が出てきて、
別にウールじゃなくてもいいっていう、
代替されるものがたくさんあるので、安定しない。
食肉をある程度扱ってバランスを取らないと、
牧場はみんな食肉に切り替えちゃうんです。
だから、羊毛の文化を守る目的で、羊肉っていうのは、
ほとんどサービス事業だって言ってましたけど、
それによって、羊毛の文化を守っていくっていうのが、
その商社がやってる取り組みなんです。

で、これをやってないのが、
オーストラリアなんですよ。
各牧場に経営を任せてるんで、
今、オーストラリアの羊毛の牧場って、
ほとんど食肉にスイッチし出してるんです。
いくら品質のいい羊毛を作ってた牧場でも、
経営のバランスが崩れてくると、羊肉にシフトしちゃう。

この先、
「ウルグアイのウールが一番いいね」みたいな時代が
来るかもしれない、来るようにコントロールをして
先を見て計画を立ててるっていう感じがしましたね。

ウルグアイの牧場で気がついたこと。

牧場での話を、もう少ししますね。
このあたりは、ずっと牧場です。
ウルグアイって、国土の7割強が牧場なんです。
パンパっていう、野原が広がってます。

僕が行ったときは、南半球なんで、
時期的に、毛刈りなんかもできたんです。
刈ったばかりのかたまりの毛を
フリースっていうんですけど、
それをこう、机に並べて、
余計な部分を取って、
仕分けをしていくんです。

それから出産も。春ですから。
草原に行くと、産まれかけっていうか、
子どもの顔が出てる羊とかがいるんです。
それを走ってつかまえて、出産の手伝いをして、
そうすると1頭の「生」がのびるというか、
そういう感じ。

難産の羊は、親も子も死にやすいんですね。
引っかかっちゃって首が締まったりして、
産めないと、親も死んじゃうっていうんで、
日々見回りをするんです。
先輩たちがやってるのを、
僕は必死についてったんですけど、
お産が済んだら、胎盤を親の顔に塗りたくって、
ちゃんと自分の子どもだっていうのを認識させるんです。
でないと、人間がいるんで親が逃げちゃうんですよ。
だからそうやって匂いつけて、人間はすぐ立ち去らないと、
親羊が、自分が親だって認識しなくなっちゃう。
そうやって1頭1頭の命が守られてるんですよね。

さばくのもやりました。
まず、死んだ動物の皮は必ず剥ぐんです。
羊の毛皮だったら、
馬に乗る時のクッションに使ったりとか。
牛だったら、それでベルト作ったりとか、ムチ作ったり。
死んでしまった動物の肉は、豚の餌になって。

本当に、ムダなくぜんぶ使うっていうことで、
それで完結してるというか。
最初は僕も、可哀想だなって思ってたんですけど、
でも、何回かやってくうちに、
「これって、普通に、ムダなく使って、
自然に対してリスペクトしてて、
それで完結しているんだな」
という気持ちになってきましたね、だんだん。

この牧場は牛も入れると1万5000頭の動物たちがいて、
そうすると、なんか、1頭1頭の大切さみたいなものが
薄れるような気がするじゃないですか。
だけど、ガウチョたちはそこをすごく、
なんて言うんですか、真摯に感じてて、誠実に。
1頭の命でも、けっこう必死で助けようとするんですよ。
9月っていうのは出産のタイミングでもあって、
同時に死のタイミングでもあるんですけど、
そういう気構えで見回りに出てるんですよね、みんな。

牧場でいろいろ体験して、
そもそも糸のことが知りたくて行ったんですけれど、
糸関連って、工業製品ではなくって、
本当は農業に近いというか、機械は使ってるけど、
自然を相手に仕事してる、っていう感じがありましたね。
ウルグアイっていうところは、大好きになりました。
すごくいい場所です。

(おわり)

第2回は、ウルグアイの羊毛から糸をつくっている
大阪の深喜毛織(株)のお話をうかがいます。

MITTANの服、販売は
2019年12月6日(金)午前11:00からです。
くわしくはこちらからどうぞ。

2019-11-28 THU