工房を立ち上げたのは、
もう15年前になります。
じつはその当初から
「こどものためのものを作りたい」
という気持ちが強くありました。
でもそのときはまだ結婚をしていなかったですし、
もちろんこどももいなかったわけですけれど、
その当時の仲間と、
「“こどものための椅子”を作ろうよ」
という話になったんです。
仕事らしい仕事が全くなかったときだったのですが、
「保育園のものを作りたい」と一脚だけ作り、
それを保育園に持っていったんですよ。
でも、どこも門前払いでした。
まさしく、門の中に入れてくれないんです（笑）。

それはそうですよね。
保育園というのはそもそもセキュリティが厳しいですし、
どこの誰かもわからない人間ですから
まったく相手にしてくれない。
10軒ぐらい回って「これはだめだ」と思って、
いったん、やめました。
当時、20代でしたし風貌もちょっと尖ってたし、
そりゃ怪しいですよね。

当然、なにも仕事にはつながらなくて、
それからは、試作を繰り返していきました。
こどもの椅子をつくることで、
こちらが遊ばせてもらっているような状態でした。
試作品がいくつもできて、貯まっていきました。
その間に、ぼくは結婚して、こどもが生まれました。

生まれたこどものために、
離乳食スプーンを作りました。
赤ちゃんのちいさな口にちょうどよくて、
おかあさんの指の延長のような木のスプーンです。
これを「ファーストスプーン」と名付けて販売し、
「キッズデザイン賞」をいただいたりして。
ぼくのキャリアのスタートともいえる木工作品になり、
そして、ひとつの転機となったんです。

このスプーンを見てくださった、
保育園を専門に扱っている建築士さんが
「一緒にやりましょう」と言ってくださった。
そこから保育園の家具を手掛けるようになりました。
ようやく、こどものための椅子を、
実際にこどもたちに使ってもらえるようになったんです。
そこまでに７～８年かかりました。
そこからは、するするとつながるように、
いろんな保育園や、
個人のお客様に使っていただきながら、
現在にいたっています。

保育園の仕事は、椅子だけではなくて、
椅子との関係性が強いテーブルとか、
壁面収納とか、お道具箱だとか、
手洗いシンクなんかも作ります。

家庭はもちろんですけれど、
保育園も、生活の場ですよね。
学校というよりも「日常生活」を送る場。
それが基本なので、
家にあるような家具のような考え方で
デザインと製作をしています。

保育園の仕事は、
年間で、だいたい20から30園近く。
それがもう何年も続いてますから、
家具をつくった保育園は、
トータルで150を超えています。
椅子の数で言えば、
8000脚以上になってますね。
幼稚園や保育園は、毎年こどもたちが入園し、卒園して、
入れ替わっていきます・
使ってくれた子たちは、もう、とんでもない人数です。

手作りで、無垢の木材でこどもいすを作っている、
しかもこんなにたくさん作っているところは、
たぶん日本で、ほかにはないと思います。

ちなみに、最初の試作の椅子は
いまもうちの３人目のこどもが使っています。