サイズを気にせず薄くて軽くてしなやかでオトナが着られるきれいなパーカを「直線と曲線」がつくりました。
ほぼ日の「直線と曲線」チームは
30代、40代、50代、60代の
男子3名、女子2名で構成されています。
年齢も、服装の好みもサイズも異なるメンバーだけに、
「ほしいもの」はばらばら、
「つくりたいもの」もなかなか一致しません。



そんななかで「直線と曲線」の次のプロジェクトに
全員一致でえらばれたのが「パーカ」でした。



最近は「フーディ」とも言いますよね。
フードがついた、プルオーバーのスウェットのこと。
「パーカ」というのは防寒着由来の名前だそうですが、
最近の日本では、厚手のスウェットをフーディ、
それ以外のものをパーカと呼んでいるように思います。
フーディもパーカも
スポーツ寄りのカジュアルウェアとして人気ですし、
ふだん着として使い勝手がいいのですけれど、
自分たちのこととして
「いくら自由な服装の会社でも、
フーディで会議に出るのはカジュアルすぎる」
と感じていました。
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「せめて、上にジャケットを羽織れるくらい
薄手の生地だったらいいのかも」
「シャツっぽい感覚で着られたらいいですよね」
「スウェット素材って、
座るとおなかがポコッとするでしょう、
ああならないパーカがあったらいいのになぁ」
「ていうことは薄手? 
厚いとフードの裏側が乾きにくいですし」
「かといって薄手で身体の線を拾いすぎるのはちょっとね」
「通販ってサイズ選びに苦労するから、
ワンサイズだといいなあ」



‥‥出た意見は、それぞれ、わがままです。
わがまますぎるくらいなのですが、
どうやら見ている方向は同じ。
理想のパーカは「ひとつ」とも言えそうです。



この条件をすべてクリアするパーカをつくるのに、
今回、力を貸してくださったのが惠谷太香子さんでした。



惠谷さんは「肌着と衣裳のデザイナー」で、
良い素材を立体パターンで構成、
きちんとした縫製で
着心地のよい服をつくるひとです。
「ほぼ日」では伊藤まさこさんの「weeksdays」や
「つきのみせ」でも活躍しています。



そんな惠谷さんとつくった
「直線と曲線」のパーカとは──?
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素材はユーカリ由来の「リヨセル」です。
──
やわらかくて落ち感があって、
肌にやさしい印象でありながら、
身体の線を拾いすぎない、
小柄な人から大柄な人まで
ユニセックスで着られるパーカができました。
まず、素材のことから聞かせてください。
この、ぬめっとしたやわらかな素材は‥‥?
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惠谷
この生地は「リヨセル」という素材で、
ユーカリの木を粉砕して繊維にした
“精製”セルロース繊維からできています。
土に還る生分解性のある天然由来の素材です。
レーヨンに代表される“再生”セルロース繊維ですと、
粉砕してから液体状させて糸にするんですが、
このリヨセルは繊維を残したまま、
糸にして生地をつくるんですよ。
似た感触の素材にポリエステルがありますが、
石油性繊維なので、身体の匂いがこもったり、
肌に影響のあるかたもいて。
速乾性があるのでスポーツウェアに向いているものの、
私が石油繊維があんまり好きじゃないこともあって、
今回、やっぱり天然由来のものがいいなと、
この素材をご紹介させていただきました。



ちなみに使ったリヨセルの銘柄はオーストリアの
レンチング・ファイバーズ社がつくる「テンセル」。
メリットは、光沢感があってきれいだということと、
肌触りが柔らかいこと、
吸水性がすごくよくて、肌の保湿性が高いこと。
そしてこういうふうにドレープをつくると、
糸が細いゆえにきれいに寄り、光沢感が出るんです。
こういうドレープはリヨセルならではのものです。
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──
保湿というキーワードが出ましたが、
体温調整はいかがですか。
惠谷
通気性のいい年間素材なので、一年間着ていただけます。
ただ天然セルロースの特徴として、保湿性が高いので、
比較的皮膚の温度を一定に保ち、
つまりは“暖かい”と感じるんです。
今回のパーカはかなり薄手でつくりましたから、
たとえば夏場なら空調が強すぎると感じる
移動中やオフィスでも役に立つと思います。
やわらかさを足すポリウレタン。
──
リヨセル(テンセル)95%に、
ポリウレタンが5%、入ってるんですね。
これは伸縮性のために? 
惠谷
そうです。リヨセルは縦の伸縮に強いんですけど、
横にすこし弱いので、そのぶんポリウレタンを入れて
横方向にかかる力に対しても強くしているんです。
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──
縫製もとても丁寧だと感じました。
惠谷
今回、縫製を依頼したのは
ゴルフウェアなどをつくっている
スポーツウェアに強い工場。
こういった伸びる素材が得意なんです。
たまに、生地は伸びるのに
縫い目が伸びないことがありますが、
これはなりにくいです。
それはロックミシンで使っている糸が、
高伸ウーリー糸といって、高い伸度のものなんです。
生地の伸びに合わせて糸も替えているんですよ。
──
生地と伸縮率が近い糸を使って、
引っ張り力に対してどちらも同じように伸びる、
ということですか。
惠谷
そういうことです。
縫い目も含めて柔らかいので、
クルクルっと巻けば、
付属の袋に収納できるくらい
コンパクトにまとまるんですよ。
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ドロップショルダーで、肩幅が自由に。
──
今回、惠谷さんには
「ユニセックス」のデザインを
していたいだんですけれど、
心がけたことはどんなことですか。
惠谷
男性のジャケットやブルゾンは
「肩で着る」ものが多いんですけれど、
これはドロップショルダーといい、
わざと肩を落としているんです。
なぜそうしたかというと、
肩幅の狭い方も広い方もなじむように。
そして「肩下がり」(首から肩線までの傾斜)が、
結構、ついています。ちょっとなで肩。
ドロップショルダーで肩下がりがついてないものって、
肩がムクッと上がっちゃうので、
肩幅の狭い女性が着ると
ちょっとだらしなく見えるんですけど、
これはいろんな人に沿うようなパターンにしています。
ちなみに一般的なスポーツウェアだと、
肩下がりはこの半分くらいで、
もうすこし「怒り肩」のイメージです。
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──
肩で着ない、体に沿うように着るんですね。
じっさいに試着してみて、
チームには「細め・長身・怒り肩の女性」
「細め・小柄・一般的な肩線の女性」
「中肉中背・一般的な体型の男性」
「細め・長身・怒り肩の男性」
「太め・短身・なで肩の男性」がいるんですが、
一着でどの体型のひとにも合うのに驚きました。
ふしぎですよね、袖や身丈が
長すぎたり短すぎる印象にならないのも。
惠谷
それも「身体に沿う素材とパターン」ゆえですね。
袖でいうと、袖口を狭くしていることで、
たくしあげて、腕の途中でもピタッて止まってくれる。
水仕事をしたり顔を洗ったりするときにらくなんですよ。
よくスポーツウェアにある、
袖下が大きくなっているものって、
ふんわりして邪魔になっちゃったりするんです。
その点、これはすっきり着ていただけます。
裾も、全体にドレープ感があることで、
身長(座高)によって長め・短めになりますけれど、
かなり広く体型をカバーするものになっているはずです。
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背中にたっぷりのドレープがあります。
──
この素材、落ち感と柔らかさがあるので、
いっけん、身体の線を拾いそうな気がするのに、
着てみると、まったくそうじゃない。
厚手のフーディのように身体から浮かず、
けれども身体の線は出ないんです。
これは背中のたっぷりしたドレープがあることも
理由なんでしょうか。
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惠谷
そうなんです。
背中にたっぷりとしたドレープを持ってくることで、
身体のラインを出しすぎないようにしています。
女性のインナーのライン、背中に出がちですが、
それも防ぐことができますし、
ちょっとした“ハミ肉”だって目立ちません。
──
この背中の立体感を言葉でどう表現しましょう。
空気を入れてふくらませたら、
“背中に半円のドームがついている”
みたいなイメージですよね。
惠谷
そうです、そうです。
そのカーブが重力で落ちることで
このドレープが生まれるんです。
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──
このカーブのボリューム、何度も、
惠谷さんといっしょに調整しましたね。
惠谷
そうですね。
最初はすっごく大きかったんですよね。
──
そうすると女性にはよくても
男性がちょっとドレッシーになりすぎてしまって。
惠谷
この山の高さを、最初のサンプルから、
7センチぐらいカットして完成形にしましたね。
フードは小さめに、3枚はぎで。
──
そしてフードはなるべく小さくしていただきました。
大きいフードは小顔の人がかぶると、
目が隠れちゃったりして、
“やんちゃ”な印象が出ます。
といって小さすぎて大柄の人がかぶれないのも違う。
ほどよいところで、ちゃんとかぶれるけど、
大きすぎないフードをつくっていただきました。
惠谷
フードの構造って、2枚はぎが多いんですけれど、
かぶったときに先端が尖ってしまうんですよね。
それがカジュアルな印象につながっている。
これは3枚はぎにしているので、
丸みのある立体になっています。
なので、キャップの上からでも
かぶりやすいんじゃないかなと思います。
「直線と曲線」で売ってらっしゃった
キャップとポロとコーディネートしても
着られるんじゃないかなって思います。
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ファスナーとポケットでボリュームダウン。
──
ファスナーについては、
一般的な厚手のフーディを着た時に起きる
「ぽこっとおなかが出て見える」ことを
解消してほしい、とお願いしました。
惠谷
はい。それを解決するのはひとつがこの素材、
もうひとつがファスナー、
さらにもうひとつがポケットです。
ファスナーはまず素材。
YKKの「3ビス」というものを使いました。
ビスというのはYKK独自の規格で、
3ビスは3ミリ幅をあらわしています。
通常のフーディは大きめの4ビスで、
もっと強度の高い、ちょっとごついものを使うんですが、
このパーカには、軽量で発色がよくしなやか。
薄手の生地に合うという理由で3ビスを採用しました。
さらにダブルジップで、
下からも上からも開くようにしました。
これ、なにがいいかというと、
上を留めて下を開けるという着方ができる。
そうすると座った時におなかがポコッとなりません。
この春夏は、ボリュームの大きいスカートが
たくさん出てくるみたいなので、
女の子はこのパーカの裾をちょっと開けて着たら、
かわいいと思いますよ。
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──
ポケットにも工夫が?
惠谷
はい。フーディのポケットは
「カンガルーポケット」といわれる
フロントポケットが一般的なんですが、
これ、前身ごろにもう1枚布をつけるので、
それが「おなか問題」にもつながりますし、
カジュアル感が強めにもなります。
今回のドレープパーカは、
両脇ポケット(サイドポケット)なので、
ボリュームに影響が少なく、ドレッシーです。
ちなみに重いものを入れても裾から出ないように
下で留めています。
写真
XSから、2XLまで、色はふたつ。
──
サイズですが、サンプルを着てみておどろきました。
SからXLの人まで、性別をとわず、
違和感なく同じサイズで着られたんです。
惠谷
サイズ表記でいうと、
XSから2XLまで大丈夫です。
女性特有の表記ですと「ヌードサイズ3XLまで」です。
小柄なかたも、オーバーサイズの印象はなく、
ドレープ感がより際立つ感じです。
写真
──
色ですが、黒を基本にしつつ、
「パーカにあまりない色を」と考えて、
惠谷さんと私たちで選んだ
カーキでもつくっていただきました。
惠谷
いい色のカーキですよね。
──
さて惠谷さん、このパーカ、
洗い方などに注意事項はありますか。
惠谷
洗濯機に入れる際は、ネットに入れていただき、
お洗濯のあと干していただくときに、形を整えてください。
これ、脱水があがったらクシャクシャで、
大丈夫かなって思われがちなんですけど。
両手で挟んで叩いて、
できれば肩が丸いハンガーにかけて干してください。
乾燥機は使わないようにしてくださいね。
ファスナーも傷んじゃうと思いますので。
──
ありがとうございました。
一枚でもきれいに着られますし、
ジャケットを羽織ってもいい上質感もあって、
手持ちのいろいろな服に合わせられそうです。
いわゆる「カジュアルなフーディ」とは
まったくちがう、あたらしいパーカができました。
惠谷さん、どうも、ありがとうございました。
写真
惠谷太香子(えたに・たかこ)



女子美術短期大学卒業後、ブライダルファッションデザイナーの桂由美さんに師事。その後フランス・パリのオペラ座衣裳室での修行後、肌着・下着デザイナーとして独立。

キャリアを通して身に付けた徹底した立体裁断の高い技術をいかし、2003年には、大手ファストファッションメーカーの下着部門立ち上げの中心メンバーを務める。

オーガニック素材を使った肌着ブランド「cohan」や「ma・to・wa」などのデザイン・開発、そして舞台衣裳の製作にも携わっている。日本の企業のみならず、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど、世界をまたにかけ活躍。