もともと、鈴木さんの作品を
私たちが知ることになったのは
青山で開かれていた個展に
糸井がうかがったのがきっかけなんですよね。
鈴木   そうなんです。
その日、個展会場近くの細い道にいたら
前から糸井さんが歩いてらして。
「あ、糸井さんだ」って思ったんですけど、
その時点では話しかけようとは
思っていなかったんですよ。
で、個展会場は
はいいろおおかみ+花屋西別府商店という
古道具屋さんと花屋さんだったんですけど
ちょっと奥まった場所にあるんですね。
とても素敵なお店なので、
自分の作品を見てほしいというよりも
そのお花をぜひ見てほしいな、
気づいてほしいな、と心の中で思っていたら、
糸井さんが一瞬立ち止まった
‥‥ような気がしまして、
思わず後ろから声をかけてしまったんです。
すぐに「ハッ」と我に返ったんですけど、
慌ててチラシをお渡しして。
まさか来てくださるとは思わなかったので、
びっくりしました。
  たしか糸井は小鳥のブローチを買ってまして、
すごく自慢してましたよ。
「いいだろう。みんなも行ってみたら?」って(笑)。

▲糸井の買ったトリブローチ。
鈴木   (笑)うれしいです。
  で、どれどれ、という感じで行ってみたら
弊社の女性たちがみんな
ギュッと心を掴まれちゃったんです。
みんなでキャピキャピしながら
ピアスとかブローチをその場で買って帰って。
鈴木   あぁ、ありがとうございます。
  白磁のひんやりした感じと
可憐なデザインがすごく素敵で、
ほかで見たことないようなものだなって。
鈴木さんは、いつからこういう作品を
つくられているんですか?
鈴木   アクセサリー自体をつくりはじめたのは
2011年くらいからなんです。
もともと学生時代に
白磁を扱ってはいたんですけど。
  学生のころに?
鈴木   はい、多摩美術大学の工芸科で
陶コースというところにいたんですけど、
私は当時から白とか生成りが好きだったので
学校で土を選ぶ機会があって
そのときに白磁っていいなと思って
感覚的に選んじゃったんです。
徐々に「白」の持つ象徴性みたいなものに惹かれて
意識的に使うようになりました。
  じゃあ、そこで白磁と出会われて。
鈴木   ええ、自然に。色も白に限定して、
なるべくマットな土そのものの
乾燥した質感を出したいなと思っていました。
  一般的に、白磁という素材は
どういうものに使われるんですか?
鈴木   焼きものの中でもすごく硬い素材なので、
食器や洗面器などによく使われています。
焼く温度が高ければ高いほど密度が高くなり、
同時に吸水性もなくなるので、
食器などに最適なんです。
当時は私も器や花瓶をモチーフにした
オブジェをつくっていました。
  へぇえ。
では、白磁をアクセサリーの
素材にしようという発想は‥‥。
鈴木   全く考えてもいませんでした。
大学を卒業して、
繊維を扱う会社で働いていたんですけど、
焼きものは続けていこうと思っていたので、
仕事が終わったら工房に行って
オブジェみたいなパーツをつくっていました。
ただ、「これだ」というものをつくりたいけれど、
テーマが見つからないし、
いろいろと不安の多い時期でした。
仕事は楽しかったんですけどね。
で、そんな時期が何年も続いたある日、
職場で織物をひたすら
ほどいていくという作業があったんです。
  織物をほどく?
鈴木   そうです。
織物って縦糸と横糸でできていますが、
たとえば布を20×20cmにカットしたい場合、
適当にカットすると
織りがバラバラになるから
どの部分でカットしたらいいのかを
見つけるためにほどくんです。
  あぁ、なるほど。
鈴木   そのとき、不思議なんですけど
1本1本の糸が組み合わさることで
1枚の布になっていて、
それがほぐれることで、
もう何もなかったようにバラバラになるのが、
なんだか‥‥自分のやりたいこととか、
理想の人間関係にもつながるような感覚をおぼえて。
うまく言えないんですけど、
そこに美しさがあるように思ったんです。
  美しさが?
鈴木   ええ。縦糸と横糸をどんどんほどいていって、
最後の1本の糸を引きぬいちゃうと、
パラパラパラってなりますよね。
そのギリギリのラインを残したら
美しいだろうなって思ったんです。
で、「あ、私のやりたいことはこれだな」って。
  その繊維を見て、気づかれた。
鈴木   本当はもっとグチャグチャな過程があるけど、
今振り返って整理すると、
そういうことになりますね。
で、その危ういものを
大切に保っているっていうところが、
すごくポジティブなことじゃないかなと気づいて、
それを作品にしたいって思ったんです。
糸を限界まで引き抜いた1枚の布を、
作品にしてコンペみたいなのに出したら
審査員賞をいただいて。
  すごい!
鈴木   そこでコンセプトが
バシッと私の中でしっくりきた気がします。
で、賞をいただくと
翌年も出品できるんですけど、
そのときは焼きものを出したんです。
布のときに思ったコンセプトは
焼きものにも通ずるんじゃないかなと思って。
  というと‥‥。
鈴木   たとえば‥‥陶器のアクセサリーって、
みなさん割れる心配というのを
当然されるんですけど、
なくなったり壊れたりするものって
ネガティブなイメージじゃなくて、
逆に、「壊れやすいからこそ大切に扱える」
みたいなものもあると思うんです。
実は、私もすごいガサツな人間なので(笑)。
  えぇ? そう見えないです。
鈴木   いやいや。
家では、うすはりのグラスを
パーンって割っちゃたりとか(笑)。
気に入ってたものが
割れるとショックですよね。
ショックだけど、
でも逆にそのことがあったから
我が身を正し直せる、というような。
  あぁ‥‥わかる気がします。
鈴木   アクセサリーも、
とても繊細なものなんですけど、
それを身につけることで
女性らしい仕草や振る舞いに
つながるんじゃないかなって。
あ、これ、自分に対して言ってます(笑)。
私自身ももうちょっとこう、
穏やかに振る舞えるかなっていうのもあって。
  そのとき出された作品は
どういうものだったんですか?
鈴木   いまのブローチの原型のような焼きものに
レースをつけて上から吊るしているという
作品を出展しました。
そしたら、見に来てくださったお客さまから
「それを身に付けられないか」
という声をいただいて、
それではじめてブローチをつくったんです。
ただ、アクセサリーの世界には
それはそれで確立された世界があるから、
「アクセサリーもやってますよ」
みたいな軽いノリじゃなくて
ブランドとして、きっちりアクセサリーを
つくる覚悟をしなくちゃと思いました。
それで、2011年に7年務めた仕事を辞めて、
もう後戻りできない、と決めました。
  鈴木さんの作品で、白磁でレース状のものを
つくられているものがありますよね。
最初にみたとき、
「えっ、これも焼きもの?」と
びっくりしたのですが
これはどういうきっかけで生まれたんですか?
鈴木   こういうレースのものをつくっている理由は、
初期のころの作品で、
レースに土を染み込ませて、
レースごと焼いていた経験からきているんです。
  レースごと焼く?
鈴木   はい。ペースト状にした粘土を
レースに染み込ませて焼くんです。
で、焼くと当然レースは
燃えてなくなっちゃうんですけど、
レースだった部分に土が入ってるので、
そのレースの形が残るんです。
ほら、こんなふうに。

▲レースに粘土を染み込ませて焼いたもの。
  わぁ! すごい。
鈴木   これも繊維の会社で
毎日レースを見ていたのをきっかけに
レースと土を組み合わせてみたいな、
たしかそういう技法があったな、と思って
はじめたことだったんです。
でも、この方法でつくるものって
スカスカで強度がなくて、
持ったらパキッて割れちゃうくらい脆いんです。
これも展示のときに
「アクセサリーにしたい」と言う人がいて、
でも、「これは本当に脆いから」という話を
していたんですけど、そのときに
そうだ、レース模様を描いて、
白磁をアイシングのようにしぼりだしたら
もっと自由にレースを
つくれるんじゃないかなと思ったんです。
  アイシング!
お菓子づくりみたいですね。
鈴木   最初はもう全然、
どうにか線に沿ってるかなって
いうくらいだったんですけど、
だんだん、うまく描けるようになってきて。
  じゃあ、これ、独自の技法なんですね。
他にこういうことをなさっている方って‥‥
鈴木   いないと思います。
「イッチン」という似た技法があるんですけど、
こういうアイシングみたいな方法で
白磁のアクセサリーをつくっているものは
たぶんですけど、ないんじゃないかな。

▲下書きした模様の上からなぞるように、

▲すこしずつ慎重に絞り出します。
  レース以外の、花やトリをモチーフにした作品は
どういうふうにつくられているんですか?
鈴木   これは自作の石膏型に流してつくっています。
本当は塊の土でギュッてやることが多いんですけど、
私は泥漿(でいしょう)という
ペースト状になった土を使っています。
ちょっと時間かかるんですけど、
型の細かい所まで土が入るので
柄がきれいに出るんです。

▲ペースト状の土を石膏型に入れているところ。

▲乾いたら、型からはずして外枠を削ります。
鈴木   型からはずしたら、
削ったり、やすりをかけたり、洗ったり‥‥と
焼くまでに何工程もあって。
他の人にみられたら
恥ずかしくなっちゃうくらい
めんどくさいやりかたをしていると思います。
それを全部一人でやっているので
大量生産もできなくて。
  1回焼いて終わり、というわけでも
ないんですよね。
鈴木   そうですね。
作品自体の強度をできるかぎり上げたくて、
「釉薬」というガラス質で強度があるものを
ブローチの裏面に塗ったり、
レースのものも、描いては釉薬を塗って焼いて、
またその上から描く、というふうに
ミルフィーユみたいに
何層にも分けてつくっているんです。
  強度を上げるために
すごく手間がかかっているんですね。
鈴木   ええ。やっぱり壊れちゃうと悲しいので。
それから、これは買ってくださったお客さまに
お伝えしているんですけど、
焼きものなので焼き直しもできるんですよ。
  え、修理もできるんですか?
鈴木   陶器なので、割れるときには
パキッと潔く割れちゃうんです。
でも、「せっかく買ったのに」と
思われてしまうのは悲しいですよね。
全く同じものには復元できないのですが、
できるかぎり修理にも対応しようと思っています。
  最後まで気持ちに寄り添ってくれるような
アフターサービスがあるって、いいですね。
ところで鈴木さんは、
もうすぐ個展がはじまるとか‥‥。
鈴木   そうなんです。
青山のスパイラルマーケットで
個展を開きます。
  どういうものを展示されるんですか?
鈴木   うーん、
卒業や新生活の時期なので、
花束を贈るような気持ちになれる、
ギフトを意識したものを
提案できたら、と思っています。
もちろん定番のもいくつか‥‥。
こういう、花と組み合わせて
ちいさな花束がつくれるブローチとかも。

▲好きな花を挿して使えるブローチ。
  か、かわいい!
これ、挿す花によって
違う雰囲気になりますね。
男性のジャケットに付けてもよさそう。
鈴木   はい、なんか適当に
花を挿していただいてもいいですし。
今回は花屋西別府商店さんにお願いして
小さな花束をつくってもらっていて、
お花もいろいろ選んでいただけると思います。
  素敵ですね。
ちなみに、いつからでしたっけ。
鈴木   3月20日から4月2日までです。
良かったら、ぜひぜひ来てください。
お待ちしています。
  喜んでうかがいます。
またいろいろ欲しくなっちゃうんだろうなぁ。
前回、私たち、完全に
心を鷲掴みにされましたからね(笑)。
今日はどうも、ありがとうございました!


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