この冬のハラマキとブランケットのデザインに、
特別テーマとして、マリンバ奏者で、エッセイスト、
アンティーク着物コレクターとしても知られる
通崎睦美さん(以下、ツウザキさん)
プロデュースのラインナップがくわわります。
 
 
 
 
  通崎さんプロデュースバージョンのハラマキが誕生した
 そもそもの経緯については、こちらのページをどうぞ。
今回、ツウザキさんご本人に、
「ツウザキさんが古着に興味を持ったきっかけとは?」
「京都にお住まいのツウザキさんが発見した銘仙とは?」
そんなことを中心に、
「物を買う」という行為を通して築いてゆく、
お店とお客との信頼関係のお話など、
京都にお住まいのツウザキさんだからこそのお話を
ゆっくりお聞かせいただきました。
 
 
  父親の姉にあたる大正生まれの伯母が亡くなった後、
捨てるのにはしのびない着物や帯が
我が家に眠っていました。
それを発見したのが、古着との出会いです。
その着物は、伯母が10代に着ていたものなので
まさに昭和初期の着物。
お出かけ用のものばかりでしたので、
比較的上質な物でした。
最初に出会った古着が着古された普段着ではなく、
大切にしまわれていたおでかけ着だったことは
私にとって幸運でした。
その伯母は、まだ世の中の女性の多くが
着物を着ているときに、
ミニスカートをはいているような人でしたので、
着物はあまり着ていなかったんです。
だからこそ、そんな伯母が好む着物は、
とてもモダンで、私はとても気に入りました。
他にも伯母がいるのですが、
私にとっては、この伯母のものだけに心惹かれたのです。
それらを基本に、着物や帯を買い足していったので、
私のコレクションの「核」になっているのは、
まさに家にあった伯母のものです。
   
 
 
  私の場合は、まず「買う」ことに、
一つの意味があると思っています。
そして、それを「着る」ことです。
ウィンドウショッピングではなく、
「買って着る」という「実践」ですね。
選んだものに実際お金を払い、手に入れ、
それを使うことは、本当に勉強になります。
失敗はイタイし、それは次に買う時の慎重さに繋がります。
資金に余裕があれば、
気軽に買えるということもありますが、
資金が少ない者は、より吟味して買うわけですから、
まさに真剣勝負。
目をこやさざるをえません。

あと、とにかくたくさんのものを見る。
そして、それらの「違い」をみつける。
「違いがわかる」というのは、大変なことです。
最初は「違い」の意味すらわかりませんから、
違いがわかりだすとしめたものです。
これは、どんな世界にでも通じることですね。
私の場合、京都の大きな露天市、
毎月21日「弘法市」25日「天神市」には
かかさず早朝から出かけました。
あと、ちょうど古着に興味を持ちはじめた頃、
たまたま近所の幼なじみの家がやっていた、
古着の業者市に出入りさせてもらう、
というラッキーな経験も積みました。
魚を競り落とす時のように、
かけ声を掛けて着物を競るのです。
そこに通いながら、
大量の着物と業者の人たちが競り落とす様子を見ていたら、
だんだんと
「これは、こういう質のものだから、
 いくらくらいで競り落とされるな」
と物の価値がわかるようになっていきました。
 
   
 
 
 
そんなおおげさなものは、なにもないのですが。

家業は風呂敷の縫製をしています。
職人の家ですから長期留守にすることもできませんし、
日曜日も仕事をすることがあるくらい。
だから、海水浴など遠出の思い出より、
近所の画廊に行けば
必ず出してくださったオレンジジュースの方が
記憶に鮮明です。
まさに「しがない職人」なのですが、
美術館で名画を鑑賞するだけではなく、
何か気に入る物を真剣に探してコツコツ手に入れては、
床の間に飾って楽しんでいました。
それは、今も続いています。
強いて言うなら、私自身の趣味に対するお金の使い方は、
こうした両親の影響を受けているのかもしれません。
とにかく「コツコツ」&「実践」ですね。

ツウザキさんの
お家に飾られている、
ビンテージものの天使のタイル
   
 
 
 
そういわれれば、そうかもしれませんね。

京都は「人を見る」とか、
「一見さんお断り」といったことをよく言われます。
ある意味、それは有難いことなのです。
まず、お店の人がお客さんの「器量」を見抜くのです。
だから、知ったかぶりをしても、仕方がない。
いいお店ほど、こちらの「器量」をすぐに見抜きます。
分相応に、ということは、
子どもの頃からよく言われました。
そうしていれば、
お店の方、またまわりの方が引き立て、
育ててくださいます。
もちろん、それも必ずというわけではありません。
きちんとわきまえていれば、
そういう有難いご縁と出会えることがある、
ということでしょう。

例えば、私がお世話になっている
古着屋「裂・菅野」さんも、
いわゆる入りにくいお店です。
でも、私はもう10年ほど、お世話になっています。
思い返せば、20代の頃、古着初心者の私には、
最初は数千円から良質なものを
すすめてくださっていました。
いきなり、「器量」に不釣り合いの高価な商品を
売りつけられることは決してありません。
私も、最初から急に
「この織りがいいんです」と
100万円の着物を見せられても、
まずその良さを理解できませんし、
着こなすことはできません。
それは、商品に対しても失礼という
菅野さんの気持ちがあるからでしょう。
商売でありながら、ただの「お金儲け」ではないのです。
ゆっくり時間をかけ、
段階をふんでそれがわかるようになる頃には、
客であるこちらの財布の中身も少しは充実しているはず。
何年、何十年単位のおつきあいです。

教えて貰う、選ぶ、買う、着る、
この繰り返しで少しづつ覚えていった
知識や蓄えられたセンスのようなものは、
どれも押しつけられた物ではありませんから、
身についています。
その都度、自分が納得しているということです。
だから、「物を見る目」への自信にもつながります。

菅野さんとの出会いは、本当に大きかったです。
「裂・菅野」は、まさに「京都」の店です。
私は、いまでもコワイですよ。
     
 
 
  最初は、それが「銘仙」だとは知らずに、
デザインのおもしろい物、として購入していました。
いくつか、同じ「薄くて軽く光沢のある絹織物」が
集まってから、
それを「銘仙」と呼ぶのだと知りました。

銘仙の大半は、流行を追って作られているものなので、
どれも気合いが入っています。
そこからは、図案を描いた人たちが
新しいことに挑戦している様子が伝わってきます。
中には気合いが入りすぎて、
失敗している物もあるんですけれど。
でも、いろいろあるところが、銘仙の魅力なのです。

銘仙は主に普段着から
ちょっとしたよそいき着クラスのものでしたから、
本当に雑多なのです。
今の洋服に置き換えて考えるとよくわかります。
ジーンズだって、Tシャツだって、
ピンからキリまであるでしょう。
特徴のない物も多いけれど、
普段着だからこそ遊び心あふれるものもある。
そんな感じです。

当時の図案は、
たとえば、百貨店主催の図案のコンクールがあって、
入賞者は賞金がもらえたり、
商品化されるということもよくありました。
そこで、みんなが競い合ったんですね。
銘仙の産地は、秩父、足利、伊勢崎、八王子、
が有名ですが、図案は全国から集まってきました。

「らくがき」の
モチーフになった銘仙


 
 
 
  そうですね。
それまで、お花などを写実的に描くか、
日本古来の文様を図案としてきた着物が、
西洋の「デザイン」の影響を受けて、
「デザイン」を始める。
その「デザイン」が「きものらしくない」ものが
多いかと思います。
その中でも、赤白黒を基調としたものなど、
かっこいいものが好きですね。
着物としてはもちろん、
平面上で部分を見ても
デザインとして完成されているものに興味があります。

銘仙をよくご存知の年輩の方や研究者の方でさえ、
「こういう柄ははじめて見た」
とおっしゃることがあります。
そう言われると、ちょっとうれしくなります。(笑)
もしかして、当時は斬新すぎて売れなかった物なのかな、
とも思っています。
売れないからあまり量産しなかった、
だからかえって今の時代に
斬新で新鮮にうつるのかもしれません。

「マリンバ」の
モチーフになった銘仙
 

「アブストラクト」の
モチーフになった銘仙
 
 
今回「ほぼ日ハラマキ」の
銘仙シリーズのプロデュースのお話をいただいて、
まず、「面白そうだな」と思いました。
ハラマキも、型染めや織りと同様、
「プリント」とは違って、
編むという行為を通して完成していく物なので、
デザイン通りというよりは、
偶然のズレや誤差が生じる。だから、
面白いかなと思いました。

今回、私が所有する銘仙の着物から
特にハラマキに似合うものを厳選しました。
私は、浴衣などの
プロデュースもさせていただいていますが、
よいデザインというのは、
決してアイディアだけで完成できるものではないと
思っています。
ですから、実際のデザインは、
その道のプロにお願いします。
今回、ハラマキをデザインしてくださったのは、
私がプロデュースしている浴衣のデザインや、
著作『ソデカガミ』『通崎好み』の装丁も
担当してくださっている
谷本天志さん。
銘仙の柄をモチーフにして、ハラマキに合うように
デザインしなおしていただきました。
※谷本さんについて、くわしくはこちらをどうぞ。

ハラマキの形に出来上がってきた物を見て、
純粋に面白いなと思いました。
着物は、縦に見て美しい、
ハラマキは横にのびてかわいらしい、
全く逆なんですが、
両方とも、平面だけど、身につけると立体的になる。
そう考えると共通したところを感じます。
あったかいし、楽しいし、是非私も愛用したいですね。

谷本天志さんデザイン
「飛行機」
の反物と
ハラマキ・ブランケットを
ならべて。