谷本天志さんは、これまで、
通崎さんのコンサートのフライヤーから、
通崎さんプロデュースの浴衣のデザイン、本の装丁まで、
さまざまな分野のお仕事で、通崎さんのイメージを
みごと形にしてきました。
ツウザキさんと谷本さん、
その出会いに始まり仕事が発展していく様子を綴った
ツウザキさんご自身の文章をご紹介します。



見透かされる、というのは、
悔しくもあり、ちょっとはずかしくもあり、
また場合によっては爽快でもある。

「バウハウスのオスカー・シュレンマー風の衣装を
 身につけた、
 バレリーナ柄の帯をデザインしてください。」
これが谷本さんに頼んだ初めての仕事。
当時始めたばかりのゆかたプロジェクトのメンバーに
入ってもらっての初仕事だったのだが、
谷本さんは、あっと言わせるデザインを携えて、
ミーティングに登場した。


私は、いくら仕事の出来る人でも、
興味をもたず手先だけでやってしまったなら、
何か冷たく面白味のないものになってしまうと思っている。
その点、谷本さんは
「着物には興味がない」と言いつつ、
それでもそこに、
なんらかの自分なりの興味を見つけてもらっているのか、
とても楽しいものが出来上がる。
帯でお互いの感触をつかんだ後、
谷本さんには、このプロジェクトで、
ゆかたブランドから、ブランドのロゴ制作、
リーフレットのデザインまでをお願いした。
しかし、それらの仕事が完結するのを待たずに、
私は彼におびただしい数の仕事を依頼している。
谷本さんを紹介してくださった方の
「全く興味のないことは断るタイプだから」
という言葉を信じ、
いやなら断られるだけだからと心の準備をしつつ、
でも引き受けてもらえることを期待し、
ちょっと遠慮がちに尋ねてみる。
しかし、私自身は充分遠慮しているつもりだが、
まわりの人達は私のことを、
かなりとんでもない、と言う。
なんといっても、彼の本業は、
デザイナーではなく絵描き、なのだから。

「谷本さん、今度着物の本で十ページほどを
 まかされたんだけど、
 そこの部分のデザインをお願いできますか。」
「いいですよ」と言われるとすかさず、
「でね、その撮影に使う
 ちょうどいいサイズのマネキンがないんだけど、
 もしかして作ってもらうことなんて、可能ですか。」
「いいですよ。」と、そんな具合。

「谷本さん、本の装幀ってやったことありますか。」
「いや、ありません。」
ありません、と言われても私にはあまり関係ない。
ちょっと聞いてみただけ。
「今度、二冊目の本を出すことになったんですけど、
 丸ごと一冊デザインをお願いできませんか。」
「へぇ、すごいですね。いいですよ。」
そんな風にどんどん仕事が展開していく。

時には、暮れも押し迫って
「すみません。谷本さん。どうしましょ。年賀状。」
そんな時でも
「必要な文字のデータを送ってください」
と淡々とした答えが返ってくる。

「谷本さん、舞台美術ってやったことありますか。」
「いや、ありません。」
「今度ちょっと面白いコンサートがあるんですけどね。
 そこで、舞台美術を担当してもらえませんか。」
さすがに「舞台美術ですか」と驚きの様子だが、
それでも
「そうなんです。わけあって、舞台美術がいるんです」
という私の説明にならない説明で
「そうですか、わかりました。」

どの仕事においても、依頼主の私の考えを
すっかり見抜いて、
そこから素晴らしく展開したアイディアが提案される。
だから、仕事が進むのが、とても楽しい。
何度か、個展を始め、谷本さんの作品が出品される展覧会に
行ったことがある。
私の抽象画に対する見識も見透かされていると思うので、
下手に「いいですね」とは言いにくい。
だから、誰にも頼まれなければ
こういう絵を描いているんだな、と思って
だまって見ている。
チラシをデザインすれば、
コンサートにも律儀に顔を出してくれる谷本さんに
「音楽は好きですか」と聞いてみたことがある。
すると
「いや。ぼくは全然わかりません。
 小学校の時、カスタネットが叩けなくて、
 放課後一人残されたくらいですから」
と言っていた。
客席では、私の音楽にどんな谷本さんの興味を結びつけて、
聴いてくれているのだろうか。
でも、もしかすると、わからないと言いながら、
舞台の上の私のことも
すっかり見透かしているのかもしれないな。

<以上、『通崎好み』P.99〜P103全文転載>