―― 渡邉良重さんって、
デザインの世界ではずっとスターなのに
あまり前に出てこないから、
ちょっと、ナゾめいていると思うんです。

青木 そうかもしれないですね。

―― そこで、
公私ともに良重さんと仲良しである
青木さんに、
あらためてどのようなかたなのかを‥‥。

青木 作品が素晴らしいってこと前提の話、
なんですけど‥‥。

―― ええ。

青木 ハイジみたいな人。

―― ハイジ‥‥あの、アルプスの少女の。

青木 そう。
本当に無邪気で、天真爛漫なんです。

友人としては、
そこがまあ、いいところでもありつつ
こまっちゃうところでもあり(笑)。

―― 関直子さんは「深くて不思議な少女性」
と表現されていましたが
無邪気で天真爛漫とは‥‥たしかに。

青木 ご存知のように作品は素晴らしいですから、
あの突き抜けたような性格って
国宝級クリエイターの必須条件なのかなと。

なんか
「すごいぶん、ある部分は欠落してる人」
ってときどき、いるじゃないですか。

―― ‥‥仲良くてらっしゃるんですよね?

青木 いいです、いいです。
褒めてるので、心配しなくても大丈夫です。

「そこがまたチャーミング♡」
 みたいに捉えていただければ。

―― はあ。

青木 わたし、けっこう強引なタイプなんですが
これまでの人生で
ふたりだけ、わたしを振り回した女性がいて。

―― ふたり。

青木 ひとりはアートディレクターの野田凪ちゃんで、
もうひとりが、良重さんです。
―― はーーー‥‥。

青木 たいへん喜ばしいことですが、
わたしの、振り回されスパイラルは
ぜひ、このふたりで終わらせたいなと思ってます。

―― なるほど。

青木 良重さんって一見、
線が細くて、
体力なさそうに見えるじゃないですか。

でも、ものすごくエネルギッシュなんです。

―― それは感じます。

青木 それに、
ああいった繊細なイラストを描く人だから、
「自分の世界だけで生きてるのかしら?」
みたいに思われるかもしれないけど、
本当は、ものすごく好奇心が旺盛なんです。

外というか、まわりに対して。

―― ええ、ええ。

青木 お米にたとえたら‥‥。

―― お米に?(なぜお米に‥‥)

青木 いや、お米っていうか
食欲で表現すると、「どんぶり三杯」級。

―― それほどすごいと。

青木 しかも「地獄耳」なんです。

―― エネルギッシュで、好奇心旺盛で、地獄耳。

青木 向こうで集中して仕事してるなってときに
こっちでワイワイはじめると
「何? 何? 何? 何?」って言いながら
すーぐ、すっ飛んでくるんです。

10メートルくらい先から、すごい勢いで。

―― 目に浮かぶようですね(笑)。

青木 で、ピューッって走ってきたと思ったら
「最初から話して」って(笑)。

場の空気を読まないって言ったらそれまですが、
「その強さ、すごいなあ」と思うんです。

―― ぼくら、
良重さんの「お仕事の場面」というのは
見たことないんですが、
どのような感じなんでしょうか?

青木 「気づくと描いてる人」ですよね。

―― 絵を。

青木 カリカリ、カリカリ、何かしら描いてる。
その姿には、圧倒されてきました。

自由なこと勝手に言いながら、
でも、絵は常に描いていますから。

だから、アウトプットである作品のすごさも
さることながら、
あの「作品を描いてる姿」が、ものすごい。

―― へぇー‥‥。

青木 もうね、
「描いて、描いて、描いて、描き続けて、
 今にいたる」みたいな感じがする。

なんか、ほら、マグロって、
「止まると死ぬ」って言うでしょう?

―― 息できなくなるって言いますよね。

青木 そう、だから良重さんも
「描かないと息できなくなる」んだと思う。

ずっと走り続けてるっていうか、
描くことで生きてるんだなっていう意味で。

―― それほどまでに。

青木 身体の線は細いけど、
良重さんが作品に向き合う姿勢や情熱を
垣間見ると
マグロ級に「どっしり」してます。

―― まさしく「天職」なんですね。

青木 わたし、実を言っちゃいますと、
良重さんの絵、
遠くから見てるだけだったときには
「かわいらしい」とだけしか感じられなくって
あんまり興味がなかったんです。

―― そうなんですか。

青木 でも、たくさんの作品に触れるうちに
それが、表面的な理解でしかないとわかって。

あるときはシュールだったり、
良重さんなりの「毒」を感じさせたり‥‥。

―― たしかに「かわいらしい」を超えて
「すごみ」を感じる作品ばかりですよね。

青木 あと、良重さんの昔の絵って
それまで見たことなかったんですよ。

でもあるときに
過去の作品をさかのぼって見てたら
時代、時代によって
かなり変化していってるんですよね。

変わらないようでいて、
ものすごく「時代性」があるんです。

―― へぇー、そうなんですか。

青木 で、あるときからは
もう「時代をつくる」ようになってきてる。

色づかいにしても、モチーフにしても。

―― はい。

青木 内田也哉子さんとつくった絵本の
『ブローチ』なんか
もう見た瞬間、衝撃を受けました!

「あれ? あのいつもカリカリしてる人、
 めっちゃすごいかも!」って(笑)。


↑『BROOCH(ブローチ)』(出版社:リトルモア)

<後編に続きます>
2013-11-04-MON